髪の毛は長い友達です。長きに渡り付き合いたいけど、ある意味長過ぎると程々にお別れしたくなりますよね。ショートカットとか可愛いと思(ハサミはアナに取り上げられました)
「…で、どう言う状況なの?説明してくれる?」
シルクの質問を聞きながら、ベットに腰を掛けるとベレト先生が甲斐甲斐しく髪を溶かしてくれる。
「ん?え〜っと…お姉ちゃんはもう大丈夫!!!」
「出来たら詳細を教えてほしいな」
小さくガッツポーズを取れば、呆れた様に言われてしまう。
「詳細はわからないけど…う〜ん、簡単に言えば今回ばかりは闇の魔力を使い過ぎて危なかったけど、ベレト先生から奪ってやりましたわ!」
「ワタクシめユリエル様に奪われました」
戦闘で汚れた髪を解いてもらいながら、シルクにピースサインを送ると、後ろでベレト先生もピースしてる。え、ちょっと可愛いじゃない。
「よくわからないけど…姉さんはもう大丈夫なんだね?」
「シルクにはいつも心配ばかりかけてごめんね。ベレト先生のとこに連れてきてくれて助かったわ。もう大丈夫よ。あとは、わたくし闇の魔力を使い過ぎないと決めたわ!光もまた更に少し使える様になったし!ねっ、ベレト先生!」
「はい。ユリエル様に使って頂き、この身に巣食う物をお掃除して頂きました」
「今はわたしの魔力があるからどうにかなってますが、また様子を見ていきましょうね!その先は一人で出来るようになるといいですね!」
「はい。ユリエル様のお手を煩わせない様、ワタクシめは一人で…いえ、でもユリエル様と二人で致せばいつも以上にワタクシめは滾って滾って気持ちよくなれそうです!!」
「妙な言い方をするのやめて頂きますか、担任教師さん」
「もう何が何やら…」
ベレト先生とちょっとテンション高く話すと、すぐに謎の方向へ持っていかれるので、スンッと冷静にさせられれば、シルクが訳の分からないと諦めた様な顔で首を捻ってる。
「さて、シルク帰りましょうか。先生、髪を綺麗にしてくれてありがとうございました。汚れてクシャクシャだったからサッパリしましたわ!…………って何してますの?」
櫛からわたしの髪をなぜかタオルの上に至極丁寧に並べてる姿が目に入り、聞けば凄く恍惚とした顔を向けられたので、その口が開かれる前に微笑みその手を握り、彼の中の風呂敷をそっと開けてみる。
「ッッッ!!!」
突然の全身を廻るそれにベレト先生は思わずしゃがみ込んだ隙に、ベットサイドの窓を開けて髪を捨てる。
「あぁぁぁぁぁぁ!!!ユリエル様の御髪がぁぁぁぁ!!!」
「捨ててしまいなさいそんな物!!」
「姉さん、行こう。入り口で待ってるよ」
「わかったわ今、ベレト先生のアレをしまったら行くわ」
「姉さんも大概…まぁいいや。待ってるね」
ベットルームの扉を開けたまま、シルクが離れたのを見ると、ベレト先生の手を改めて掴み、風呂敷包みを閉じるイメージをして、耳元で小さな声で話す。
「先生の知り合いに小柄な、子供の様な…もしかしたら…獣人?思い当たる方はいらっしゃいますか?」
ファンタジーな現実味の無いその言葉に、ベレト先生の顔色が変わったのが見て取れた。
「おりますのね?…また後日お話しを聞かせて下さいませ。では本当にありがとうございました。…わたくしはこの手に助けられましたわ」
そう言って改めてその『奪うことしか出来なかった』その手をわたしの頬に手を当て微笑む。
「優しい手ですわ。ご無理を言ってごめんなさいね」
そう言ってベットルームを出ていき、「ごきげんよう」と玄関を出て…、ふと思い出してベットルームから出てこない先生へと、
「神父様、先生のお顔見たがってましたわ。落ち着いたら行ってあげて下さいませね」
そう言って今度こそ階段を降りると、アパートの為に人が歩いてないのを良いことに、踊り場でこちらを見上げるシルクへと「えいっっ!!」と階段から飛んでみた。
「えぇぇ!!?姉さん!!?」
目を白黒とさせながらも、その大きくなった両手でわたしを抱きとめてくれて、そのままギューーー!っと抱きしめる。
「ありがとう!!!今更だけど助かったわ!!!フードくんの件も、ここへ連れてきてくれたことも、なんにだって貴方が居てくれることに感謝だわ!!」
「姉さん…」
言いたい事だけ言って離れようとすれば、安心してくれたのか、今度はシルクからギュッと抱きしめられた。
今回もまた心配を目一杯かけてたのだと、こうして安心してくれるなら良かったわ、なんてニコニコしてたら、シルクの腕が離れ、わたしの両頬へと当てられた。
もう大丈夫よって微笑むと、涙目のシルクの顔が近付いて、男の子をこんなにも心配させて申し訳なかったと思えば、唇にシルクの唇が触れた。
目を見開いて固まれば、シルクもその僅か一瞬の触れ合いの一秒後には固まった。
「う、え?あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!??姉さんごめん!!ごめんなさい!!!?」
「い、いいのよ!?いいのよシルク!?大丈夫!!思春期だもの、そんな時もあるわよ!!」
顔を青やら赤やら忙しなく慌てるシルクに、なんと返していいのかわからず、よくわからないことを言ってしまう。
「姉さんごめん!!帰ろう!!お家へかえろう!!」
「そうね!!元気になったってみんなを安心させなきゃね!!わ、わたくし手紙一通で勝手に出てきたから…!!」
「姉さん、甘んじてそのお叱りは僕が受けるから!!姉さんは部屋に入って寝ていいからね!!!」
「あら助かるわ!!!なら早く帰りましょうか!!」
お互いに動揺に動揺を重ね、アパートの住人から「うるせぇ!!!」と叫ばれて、慌てて待たせていた馬車に乗り、変な空気のまま屋敷へ戻ったのでありました。チャンチャン!!!