前世では県大会までは行きました。
「珍しい召喚獣でもっと遊びたいが…、余計なのが来たようだな」
クロモリの牙をそのナイフで受け止め横に薙ぐ。
外させないよう立てた牙とナイフの擦れることで不快なほどに高い音が鳴り耳に響く。
その瞬間フードの横から、胴体程の太さがある超高圧洗浄機張りに勢いのある水が彼を襲う。
「チイッ!!」
大振りのナイフをクロモリから取り上げるのを諦め、その水をバク転でもする様に飛び躱す。
「クロモリさん!!!無事ですか!!?ユリエルさんは!!?」
「アベイルさん!!上!!!」
思わず叫べば、人とは思えない程の高さへと飛んでいたフードが懐からナイフを取り出し、アベイルさんを狙う。
「水よッッッ!!!」
慌てた様に手をかざし叫べば、その全身を覆い包むほどの水が勢いよく噴き上がり、ナイフを散り散りの方へと飛ばし、アベイルさんにしては珍しく大きな声で叫ぶ。
「誰ですか貴方はッ!!?」
「ユリエルの知り合いだ」
「あなたなんて知りませんわ!!それにわたくしユリエルではございませんわ!!タナ…ナカ…タナナカですっ!!」
思わず隠れたまま反論すれば、「こいつもユリエルと呼んでいた」なんて着地しながら言われてしまう。
「もうっ!!アベイルさんのバカーー!誤魔化せてたのに!!!」
「え!?すみません!!?」
「いや、誤魔化せてない…ぞッッッ!!」
声の出所でバレたのか、こちらに向かってナイフのを投げてくるのをなんとか木々の合間を走って躱せば、その投げて出来た隙を見逃さずにクロモリが飛び出し爪を伸ばすが、マントを掠り千切るのが精一杯。
「多勢に無勢か…しかし…!!面白いッッッ!!」
今度はフードが低い体勢でクロモリに素早く駆け寄り、クロモリも受けて立つと身構えた所で、その横をすり抜け、中振りのナイフをまたも懐から出してアベイルさんへと振りかざす。
「氷よッッッ!!!!」
その慣れ親しんだ声と共に、勢いよく現れた尖った氷の塊がフードの横から現れ襲う。
「新手か……!!」
アベイルさんに向けていたナイフの向きを変え、現れた氷の先に当てて滑らし軌道を逸らすが、勢いに負けバランスを崩したところへクロモリが襲いかかる。
しかし崩れた体勢のままオーバーヘッドキックを喰らわされ、クロモリが2メートルほど飛ばされてしまうと、今度はアベイルさんがその両手からまるで放水する消防士の如くフードをもの凄い勢いの水で押し、またもバランスを崩した所に持ち直したクロモリが現れ、唸り声を上げてその左腕に噛み付く。しかしフードの右腕にまだ握られていた中振りのナイフを顎に刺され思わず口を開いた隙に逃げられた。
だがフードが地面へと脚を着ければ、その足元へと今度はシルクの氷の矢が刺さるのを更に後へ跳び躱す。
「くそ…ッ!!せめて召喚士だけでもッッ!!」
噛まれた腕をだらりと下げ、どうやって入ってるのか気になる懐から、またも飛び上がりながら小さなナイフを取り出す。
「アベイルさん!!!こちらに霧を!!!!」
隠れて指示を出すわたしの声に「はい!!」と良い子の返事をして手を振りかざせば、わたしのいる辺りへと霧が掛かる。
しかし高い位置にいたフードの目からはわたしの頭が見て取れたらしく、
「そこかッッッ!!!」
投げられたいくつものナイフは髪と周辺へと刺さり、一瞬遅れたタイミングでその頭の手元からは黒いサッカーボール大の球!!
「今ので仕留めてない!?…チッ!さっきの球かッ!!」
地面に着いた彼へと猛スピードで黒い球が向かうが、またも高く飛び上がり躱される。
その言葉でやはり馬車を止めるところから見られていたのだと察するが、そんなことはどうでも良い!!
「クロモリ!パァァァーーース!!!シルクはわたしを飛ばして頂戴!!!!」
「はぁぁッ!?」
そう叫べば、フードの向こう側に居たクロモリが、躱されたボールをオデコで弾き宙に飛ばし、驚いた声をあげたシルクは「姉さん!後で説教だからね!!!」と是非勘弁して欲しい事を追加で叫びながら、先程刺された頭よりも離れた場所から上へと飛び出したわたしを風魔法で更に上へと飛ばす。
「なっ!!!?」
驚くフードが先程の場所を見ればその風で霧が晴れていき、そこには枝にかけられたわたしのカツラ。あとついでに割れた眼鏡。
霧で隠れたのを利用して少し離れた場所から魔力弾を撃ち、カツラの辺りで江川選手をも超えるカーブボールで手元から打ち出したかのように見せたのよ!!!
そして今!シルクの風魔法で勢いよく木の高さあたりまで飛んだわたしの元へとクロモリのパスが繋がって、目の前にはその風に巻き込まれてバランスを崩したフード!!
「アタックチャァァァァンス!!!」
往年の名司会者を思い出し、前世でバレー部の鬼コーチの元で鍛えた幻の右腕を身体を弓形にそって振り下ろ……そうとしたところで彼のフードが風で捲れ、しかも丁度雲が晴れて月明かりに照らされたその顔が目に入る。
「子どもおぉぉぉぉ!!?」
その顔はカフィよりは上に見えるが、まだ12.13歳と思われる幼さの残った顔。
しかしそれより気になるのはその茶色と黒の混じった鬣に、ピョコンと出た猫系の耳!!
しかし反った身体からの勢いは止められず、なんとかズラして彼ではなく地面に叩きつければ、そちらからは知った声の悲鳴とクレームが聞こえる。めんご!!!
「クロモリ助けてぇ〜〜!!シルクは地面に魔力を〜〜〜〜ッッッ!!!!」
重力逆らえず涙ながらに指示を出せば、クロモリが飛び出しわたしを背に乗せ、フードくんはフードを被り直しながら、体制をも立て直し地面に着地すると、張られた氷で〝 ツルンッ ゴンッ! 〟と、分かりやすいほど滑って転んだところをアベイルさんが慌てて拘束する。
アベイルさんが水を撒いてくれた後だから、案の定いい感じに凍ってたわ!
「地味にヒドい…」
シルクの呟きは無視して、クロモリの背に乗りわたしは華麗に舞い降りた。