レディーの扱いを習ってから出直してくれないかしら!?
「約束なんぞしておらん」
お約束を無視してキッパリと言い放たれたその言葉に「面白みのない方ね」と返す。
いや、犯人は殺すだなんだの前に犯行理由を至極丁寧にご説明して、その間にヒーロー達が到着して万事解決大団円!!…が、効かないのは、わたしも悪役側だからかしら?
むしろこの流れからわたしが倒され、それでヒロインが到着して、
『ユリエル様…何故こんなことに…!!ワタシが遅かったせいで…ごめんなさいっ…!』
とかなって、秘められたパワー発揮!!!
そしてほんとの大団円〜!!
〜〜〜 エンディングロール 〜〜〜〜
「とかやられたらたまったもんじゃないわね…!!」
「何を言っている?」
「こっちの話ですわ」
ともあれ身体の中の魔力がどうのなんて詳細は正直自分じゃわかりゃしない。
それでもベレト先生の「血液と違って魔力は無くなった所で倒れはするけど死にはしない」と信じれば、とりあえず動けてる今、魔力はゼロでは無いし死にはしない。
「貴方も先程仰ってた魔力のお弁当にご興味があるのかしら?」
「答える必要が無い」
「レディーとの会話を不躾に切るのはマナーに反しますわよ?」
背中を幹から離し、なんとか己の足で立つ。
「そろそろ死ね。そして黙るといい」
そう言うと視界からフードが消えて、耳元で風を切る音がする。
「…チッ」
目に纏まらぬスピードで近づいたらしいフードのその手にある大振りのナイフはわたしの髪をまたも一房薙いで、わたしは吹き飛ばす勢いで横っ腹に突っ込んできたクロモリと共に飛んだ…いや、実際に飛ばされたので、
ズシャァァァァァァーーーー
っと物凄い効果音と共に、地面を這った。
「ふっ……、まだ黙らなくていいようね!」
なんとか立ち上がりキリッとした顔で告げるが、顔は泥だらけの砂だらけ。
なんならその上切り傷だらけ。
ごめんね?と言うようにクロモリが申し訳無さそうに首を傾げながら頬を舐めて治してくれる。
「クロモリは悪くないわ…ありがとうね。それよりもちょっとそこの貴方!!!このユリエルの綺麗な顔に傷ついて、お嫁に行けなくなったらどうしてくれるのかしら!!?いや、わたし的にはぶっちゃけお嫁はどうでもいいのだけれど、乙女の柔肌に傷付けた罪は万死に値するわよ!!?」
ある意味八つ当たりは百も承知で、とりあえず痛かったし、ビシッと指差し言い放つ!
「…ユリエル…?」
その返された言葉を聞いて………ちょっと一回目線を明後日の方へ逸らして、改めて……!!
「この…タナカの綺麗な顔に傷つけた罪は万死に」
「ユリエル」
「………人違いですわ?その方どちら様かしら?テヘペロ☆」
オデコをコツンして、右足上げて可愛いポーズキメッ☆
「ユリエル…か」
「そのユリエルさんが何処のどなたか存じませんが、とりあえずクロモリさん!やっちゃって!!!」
色んなものを誤魔化しながら、特技!人任せ!!!
叫ぶとと同時にクロモリが駆け出す。
「ほう…いい動きだな」
そう言ってもの凄い勢いで突っ込んでいくクロモリをフードは軽やかに上空へ飛び躱すと、クロモリもそれを追うように地を蹴り空へと追う。
しかし躊躇わずに振り下されるナイフから身体を捻り躱してその先の木を蹴り方向転換。
素早く先に地上に降りていたフードへと更に飛び移った木を蹴り勢いを上乗せて鋭い爪を振り翳すが、ギリギリの所で身体を捻り躱された。
クロモリはその飛び込んだ勢いを地面に爪を立てて殺し、改めてフードへと飛びかかろうとすれば、フードは懐から出したナイフを勢いよくわたしへと向かって投げた。
「あっっぶな!!!」
反射的に右へ飛び寸でのところで躱せば、クロモリが唸りを上げてわたしの前へと護るように立つ。
「だから!!レディーに対して失礼ですわよ!!」
「ユリエルに対してか?」
「わたくしナカタですわ!!!」
「さっきはタナカだったと思うが」
「…ちょっと何言ってるかわかりませんわ」
そう言いつつ少しずつ下がり、わたしは勢いよく藪の中へと飛び込み、クロモリは逆に勢いよくフードに向かって駆けて行く。
フードがクロモリに気を取られてる間に、わたしは藪の中を頭が出ないように中腰で動き隠れる。
召喚獣だしてるんだから、召喚士狙わないって御約束くらい守って欲しいわ!!魔法祭でのロイさんを見習ってちょうだい!!と、心の中で嘆きながら、藪の中からクロモリとフードの戦いをコッソリと見つめる。
魔法の効きづらい召喚獣相手の為か、魔法を一切使ってこないフードにクロモリも一進一退を繰り返す。
斬られたからとて、クロモリは即回復に転じることが出来るのはロイさんとの魔法祭で実践済み。
しかしクロモリがきっとそうならないように、傷つけられないよう躱すのは、多分…いや絶対わたしのせい。
たとえ一瞬でもクロモリが動けなくなれば、フードは躊躇わずにわたしを狙うだろう。
だからこそあぁして慎重になっている。
そんなクロモリへ一言。
安定の役立たずでごめんなさい!!!!