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忘れるわけのない思い出





「ロイはん、姫さんお疲れさん!どっか行っとったんか?」


講堂まで戻り中へ入れば片付けていたロットさんが声を掛けてくれる。


「もう終わってしまっていたのですね。いつも良いところで抜けてしまい申し訳ないですわ」


駆け寄りその手に持った荷物を受け取ろうとすれば、「姫さんは無理せんでえぇんやけど…ありがとな」そうニカッと笑って渡してくれる。


「他のやつらはどうしたんだ」

ロイさんも近付いて、すでにざっと纏めてあった近場の荷物を手に取っり綺麗にまとめ直す。


「あぁ、リランはんは裏手の片付け、レイは教師と話し合い。あとの候補者はもう今日はお疲れやろうから、教室に荷物取り行って帰る手筈や。ロイはんもお疲れさん。流石な口上でホンマ痺れたわ。あんなん対抗馬おらんで正解やね。大差付きすぎて泣いてまうよ」


「ロイさんは言うまでもなく素晴らしかったですが、立候補演説なんて生徒の前でみんな立派で素晴らしかったですわね。…でもアベイルさんの演説は聞けませんでしたの…いかがでしたか?」


ちょっと不安で聞いてみれば、ロットさんも一度下を向き「アベイルな…」なんて呟くものだから、一層不安が増せばニヤッと笑って、


「めっっちゃシッカリしとったで!!過去になんやあった相手とからしいで、キッチリ文章も纏めて書いてきとったし、でも結局暗記しとってほぼ手元も見ずに読み上げたわ。いや〜いつもボソボソしとるけど、学年首席は伊達やないわ。しかも相手はどうにも偉そうな態度が見え隠れするわ、誰かに書かせた演説だったらしくて、途中途中読めずに止まるわで散々やったしな。あれでアベイルが負けたら嘘やろって思えるわ」


思わず胸に手を当てほっと息を吐く。


「あとはカフィトルも最初は良かったんやけど、やっぱまだ子どもやね。心を掴むってのは難しかったな」


ちょっと困った様に笑うロットさんに、なんだかお兄ちゃんのような面倒見の良さが見えて、思わず微笑んで頷く。


「まだカフィには来年もありますものね」


「カフィトルが来年出るかはわからんけど、まぁ色々勉強になったやろ。問題は書記候補やな」


思わず状況を思い出し、

「ミラさん、カミカミでしたわね。可愛らしくてわたくしは大好きでしたが、やっぱり厳しいものがございますか?」


「ん〜…それやなくてな……まぁえぇわ。また後日なんかあれば伝えるしな。姫さんも裏方ご苦労さん。ロイはんもホンマ立候補してくれてありがとな!!安心して引退出来るわ!」


「あぁ、優秀な先輩方に引けを取らない様に頑張るさ。あぁそうだ、ユーリの魔力がまたちょっとな…それで教室と往復させるのも疲れさせそうだし、ここで待たせて構わないか?シルクにも伝えて荷物を持ってくる」


「え、あっ、申し訳ありません。宜しくお願いしますわ」


そうお願いすれば、裏からリランさんが「ちょっと待って〜」と顔を出す。


「ロイ、なら生徒会室にここの荷物持ってくの手伝って頂戴〜、教室に行くのはそれからでもいいでしょう?」


細腕で運べるとは思えないほど大きな荷物をヒョイとロイさんに渡して、リランさんもまた箱の荷物を持って「助かったわ〜」なんて運んで行くのをロットさんが手を振り見送る。


「だから抜けとったんか。姫さんもう大丈夫か?」


「えぇ、はい大丈夫…それにしても…講堂、あんなに沢山人が居たのに…誰も居なくなっちゃいましたね…」


「そらもう演説時間終わったしな。みんな解散や……って姫さん!!どないしたんや!!?」



言われて涙が溢れている事に気がついた。



「い…引退とかっ、ロットさんが言うからぁ〜」


「えぇぇ!?オレが悪いんか!!?いや、引き継ぎっちゅーんはそーゆーことやろ!?」


ロットさんはオロオロとポケットから綺麗にアイロンされたハンカチで目を抑えてくる。



「姫さん泣き止んで!?オレが泣かしたと思われるわ」

「ロットさんに泣かされてるのですわぁ〜」


感情からの涙の止め方が思い出せず、止めどなくホロホロと溢れる涙がロットさんのハンカチに吸い込まれていく。


空っぽの講堂がまるでみんなの居ない生徒会室とリンクしてしまったらもうダメだった。


「卒業したら寂しいですわぁ〜」

「いや、まだ卒業はせんし、なんなら生徒会も9月までは引継やらなんやらでオレらおるし!?」

「やだぁ〜…」

「どっちやねん!!あぁもう!!?」


涙が止まらないわたしの手を引いて端の椅子に座らせて、そしてそのまま手を握って隣へと座ってくれる。


「堪忍して姫さん?泣かれたらどないしたらいいかわからんわ…」


「すみません…だって、引退って聞いたら突然寂しくなって…生徒会室に行ってもロットさん達が居ないの…想像…したら…」


ずっと引き篭もり状態から学園に出て、なかなか話す友達も新たに出来ず、そんな時にレイさんに声をかけられ、ロットさんに気さくに話して貰えてた日々にこんなにも救われ、楽しかったのだと気付いてしまった。


「すみません…いい歳してこんな…」

「ぶはっ!いい歳ってなんやねん。一応オレのが年上やで?」


そう言って笑って手を離し、ブレザーを脱ぐとわたしの頭から掛けられる。


「姫さん普段は他所じゃ猫さん上手に被っとるみたいやし、こんな姿見られたく無いやろ。これなら姫さんやなんてバレへんわ」


そう言って笑ってまた隣に座って手を繋いでくれる。


涙とブレザーでロットさんの顔は見えないけど、優しい手の温もりに安心する。


「あ、でもこのブレザーはあげへんよ?ちゃんと返してな!」

「なら卒業したらこれも貰いますぅ〜……っ」

「せやから、まだ半年以上はおるわ!!…って、自分で卒業言うてまた泣かれたらどうしょうもないわぁ〜」


その時扉が開く音がして、反射的にロットさんが立ち上がり座ってるわたしを抱く様に前に回る。



「ロット、話しが…え?お邪魔してしまったかな?」


ロットさんの胸に当たるおでこと、その頭に回された手の力が抜けるのがわかる。


「なんやレイか、助かったわ。ちゃうねん、これ姫さんでな…」


そうして開けた視界でブレザーの中からレイさんを見れば、驚いた顔をされた。


「ロットになにかされたのかい?」

「なんでやねん!」


そんな事微塵も思ってない笑顔で聞かれて思わず釣られて微笑んでしまう。


「姫さん、オレらが引退すんのが寂し〜悲し〜うえ〜ん言うてな」

「そっ、そうなんですけど、なんか悪意のある言い方ではございません?」

「いや要約すればそんなもんやろ?」

「だって!ロットさんやレイさんとお掃除から沢山お話し出来て、学園来るの楽しかったのに…もうあっという間一年も経っちゃって……そしたら引退だって…」


そう説明してたらまた涙が目に溢れて来るのが分かる。


「うん。そっか。ありがとうユリエルくん」


微笑むレイさんに、

「なんで若いのにそんなにシッカリしてるのぉ〜?わたくしが子どもみたいじゃ無いですかっ!」

そんなよくわからない泣き言を言えば、レイさんも笑って頭を撫でてくれる。


「レイさん、ロットさん、ありがとうございましたぁ〜っ楽しかったですぅ〜」


涙ながらに感謝を伝えれば、ロットさんはまた隣に座ってポンポンと背中を叩いてくれる。

「いや、てゆーか、まだおるし」

「ユリエルくん、私達今日卒業しないといけない雰囲気だねぇ?」

レイさんはクスクスと笑って逆隣に座る。


「嫌です〜っ。留年して下さい〜」

「うわっっ!無茶言い出しおった!」

「ふふっ、ユリエルくんにそこまで思ってもらえて光栄だよ」


そうして両サイドで2人はわたしの手を握ってくれる。


また扉が開けば今度はレイさんが素早く前に立ちわたしを隠す。


「あぁ、なるほど。ロットの気持ちがわかったよ」

「せやろ?」


そんな会話に「二人ともどうしたの〜?」なんて、気の抜けた声が響く。


「丁度良かった。リランくん、ユリエルくんのお化粧お願い出来るかい?」


「え?ユーリちゃんの?」

そう言ってレイさんがそっと退けば、わたしの顔を見られてしまったので情けなく笑う。

「あらやだ、こんな顔をロイやシルクちゃんに見られたらあんた達…怖いわよぉ〜?レイはなんか適当な言い訳して足止めして来て頂戴!お化粧品持って来るから、ロットはそこでユーリちゃんとお留守番」


「レイやなくてオレが走って行ってくるで?」

「レイとお姫様2人きりにしてご覧なさいな。どっちがどう漏れても大事(おおごと)よ?」

「オレのが置いとく安パイって訳か」


ロットさんが苦笑いで返せばウインクして「そゆことよ」と、また扉から出て行き、レイさんも頭を撫でて「ではまた後でね。」と出て行った。


「毎度…皆さまにご迷惑ばかりお掛けしてすみません…」

「オレは迷惑やなんて思ってへんよ?」

「ロットさんの心は広大ですねぇ」

「てかきっと誰も姫さんのすること迷惑だなんて思ってへんよ。姫さんのそんな面を見れたら嬉しいやつらばっかりや…」


その言葉の意味が分からずにブレザーを退けて顔を見ようとすれば「あかんあかん」とブレザーを掛けられる。


「あれや、姫さん、誰が来たら困るやろ?だからそれ被ってて」


「もう涙も止まりましたよ?」


「せやけど泣いたって目が真っ赤でバレバレやからね。今生徒会以外の面子が来たなら言い訳出来へん。…せやから、リランはん来るまで、姫さんは姫さんで無く、せやな…オレの…恋人の振りやね」


「恋人ですか?」


「せやせや、髪と顔さえ見えへんかったら、誰か来ても隠したるわ。公私混同でここ使っとるけど内緒やでってな」


可笑しそうに笑う声に、クスクスと笑い返す。

「ならこの髪は隠さないとですね。でもロットさんのご迷惑に…」


「せやから、迷惑なんて思ってへんよ。姫さんの涙零させたなんて光栄な事やで。…忘れられへんやろ、オレの事」


「忘れませんわ。絶対に」


いつもより低いそのトーンに思わず真剣に返して、ブレザーを退けようとすれば「せやから被っときっ!」と抑えられてしまった。


「髪がぐしゃぐしゃになっちゃいますわ〜」

「おーおー、姫さんの綺麗な髪やったらすぐ直るやろ。オレみたいにツンツン好き放題いかんやろしな」


うひゃひゃと楽しげないつものその声にホッとすれば、リランさんが沢山の化粧品を持って戻ってきて「さて、はじめるわよぉ〜」

と、ニッコリと微笑んだ。




タイトルを2月1日から


「悪役令嬢なんて もうちょい若い子に任せたい」


に変更いたします。

すでに読んで下さってる読者様には、違和感を感じさせてしまい申し訳ありません。


引き続き頑張りますので、変わらずお楽しみいただけると嬉しいです!

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『悪役令嬢なんてもうちょい若い子に任せたい』

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