シルク様の華麗なる休日4
あれから一人部屋へ帰り、窓の外を見れば楽しそうに庭園を歩く二人が目に入る。
「さて、続きをやろうかな…」
いつもの部屋なのに突然静かになった気がして、なんとなく紙を捲る音やペンの音が耳につく。
「僕、何してるんだろ…」
おかしな事はない。
姉を婚約者に預けただけ。
それだけの事だ。
「…あっ!」
集中力が切れたのか、インクに手が当たり溢してしまった。
とりあえず近場の紙にインクを吸わせて、タオルで拭き取れば、手にインクは付くし、インク瓶も最後だった気がする。
歯車が狂った様に悪い方に転っていく様に感じてしまう。
適当に綺麗にしてからなんとなく疲れてその場を離れ、ソファに腰をかけて誰かにお茶を頼もうとも思うが、わざわざ声を掛けるのすら億劫で…、
そうこうしているうちに窓から差し込む陽の光にうつらうつらとさせられていた。
なんとなく、温かな何かを感じて薄らと目を開く。
「おはようシルク。よく眠れた?」
「ね…さん?」
隣に座る彼女をぼんやりする頭で呼べば、優しく微笑みその手は僕の手を握っていた。
「シルク疲れてるのね。いつもわたしの心配ばかりだけど、わたしだってあなたの事も心配なのよ?」
「手…」
まだ握られたその事を問えば、また微笑んで
「見てて…いや、感じて?かしら?」
そう言って目を瞑り、その指先から少し温かな何かが流れ込んでくる。
「ん…っ、姉さんこれ…」
「微々々々ったる光魔法よ?届いた?」
「いつ使えるようになったの?」
「今さっき。貴方の寝顔見たらね、なーんか疲れてて、しかもこーんな顔して寝てたのよ?」
そう言って眉間に皺寄せてへの字口をする。
「あはっ!そんなへんな顔してた?」
「してたわよ!」
そう言って僕に釣られて笑う彼女。
「だからね、なんとか出来ないかなぁ〜って思って、ほら!わたしお母様やロイさんや治療師さん、それにリランさんとか…とにかく使ってもらうばかりで、光属性もあるらしいのに使えた試しないじゃない?」
「そう言えばそうだね」
「そう言えばじゃなくてそうなのよ。なんならクロモリにまで使って貰ってわたしが使えないっておかしいでしょ?…でも使えなかったのよねぇ」
困った様に笑う彼女の手が暖かくて、気がつかないふりをしてそのまま繋いでいれば、ぎゅっと握られて驚いてしまう。
「それでね、貴方の疲れた顔見てたらね、使える気がして。それにまず使えるならシルクにって思ってね」
「姉さん…」
その微笑みに嬉しさとか色んな感情に胸が苦しくなれば、今度は僕の手をギュッと両手で握った。
「それでね!使ってビックリよ!!使えた驚きより自分のショボさ!!ちょっと見てみてみてみて遠慮なさらず寄ってらっしゃい見てらっしゃい、この驚きのショボさよ!…ん〜〜〜!!!」
どっかの客寄せみたいに勢い良く喋って、必死で光魔法を使ってるらしい彼女に、可笑しくてまた笑ってしまう。
「わかった!わかったよ姉さん!光の力すこーーーーしだけど感じたから!」
「ねっ!ホントよ!!自分でも流れてるんだか流れてないんだかわからないレベルでしか動かないのよ!?ビックリよね!!才能ないのかしら!?そしてわたしこれが何に効いてるのかすらわかりゃしないわ!!」
目を見開いて話す彼女に耐えられず、思わず吹き出し笑ってしまう。
「あはっ、癒しっ…癒しじゃないの?」
「そりゃ光魔法だから癒しなんでしょうけど、どの辺?なんか楽になってる?」
「ふふふっ、なってるなってる、癒されてるよ!!」
「だからどこがよ!?なんのお役に立てる魔法なのかしら?」
「……え〜っと…心?」
そう返せば眉を寄せるやら下げるやら、また変な顔をするのでまた吹き出してしまう。
「もう!それって結局どこに効いてるかもわからない、一番お愛想的な返答じゃない!?」
「いやいや、効いてる効いてる!ほらアレだよ…肩こり良くなった!ふふっ!」
「シルクは元々肩こりないでしょう?!」
思わず笑っていたが思い出して慌てて、「ロイ様は!?」と聞けば、「お忙しい中来てくれてたし、もう帰ったわよ」と言われた。
「シルクもロイさんも生徒会の皆さんもお疲れだからわたしも使えたら良かったのになぁ〜…」
「姉さん…僕には効いたよ。ありがとう」
苦笑いを浮かべられたので「本当だよ」と告げれば「ありがと」と笑ってくれる。
「ならさ、また使ってくれる?」
と聞けば、
「ならまた仕えて差し上げますわ」
と返される。
「…………ん?」
その微妙な違いに違和感を持てば、
「ではシルクぼっちゃま!!こんなショッボイ魔法より、まずわたくし机のインクを綺麗にして参りますわ!!!汚して適当に拭いて染み込んだシミ、必ずこのユリエルメイドが綺麗にして差し上げます!!!」
立ち上がり胸に手を当て使命感に燃える姉に思わず
「まだ続いてたッッ!!!!!!」
そう叫んでしまったのは致し方ない事だと許して欲しい。
※オマケ話※
シ「ところで…どこが華麗なる休日なの?」
ユ「シルク様の加齢なる休日…?」
シ「確かに今日1日でなんか老けた気もするよ…」
ユ「しかしシルクはメイドさんに萌え萌えキューンしないのね?」
シ「もえもえ…って何?メイドはメイドのお仕事でしょう?」
ユ「so cool!」
読んで頂きありがとうございます。
昨日こぼれ話も更新しております。
宜しければそちらも見て頂けると嬉しいです。
感想等も頂けると天にも登るハイ天ションです。
レビューは夢…いつか誰かがくれる日を夢見てみたり…。