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金銭感覚の緩みに気付いた日





「ユーリにバレちゃったのか」


孤児院から家に帰ってお父様に無償の寺子屋の話を聞けばあっさりと笑って言われた。




「わたくしだってこっそりと支援しようとしてたのに、バレちゃってましたわ」


「孤児院の寄付はペンニーネ商会がそのままやってくれたけど、寺子屋の方は建築の話から立ち上げないといけないしね。ペンニーネ商会も別途で纏めてこちらへ持って来てくれたんだよ」


「あっ!それは当然そうですわね。わたくしの考えが至らなかったですわ。申し訳ありません」


そりゃゼロから立ち上げるのに、お金だけ別にされても商会の方も困らせてしまっていたのだと今更気がつく。


「そしてうちの天使がそんな素晴らしいことをしてると知ったなら、僕らが手伝わずにいられるかって事なんだよ」


そう笑うお父様の言葉に「()()?」と聞けば、


「実は、この件はシルクに任せてるんだ」

言われて驚いて隣を見れば、照れ臭そうに笑っている義弟が見える。


「そうだったの。シルク…大変なお仕事をさせてごめんなさい」

「姉さん、こういう時は『ありがとう』って言うって僕は聞いたよ」


それはわたしがいつかどこかで言った言葉のようで、思わず笑って

「ありがとうシルク」と言えば「どういたしまして」と笑い返された。


「しかしわたくし、何も知らないし気がついてもおりませんでしたわ」


「だって姉さん、ペンニーネの売り上げすらわかってないだろう?」


困ったように笑うシルクに、確かにと苦笑いを返して、

「だってたまの買い物と、前にシルクへのプレゼントを家から出してもらうなんて、そんな格好悪い真似さえしない程度にあればって…それ以外はありがたいことに生活出来てしまうのだもの」


そう言いながら、なんて緩んだ金銭感覚になっていたのだと改めて思う。


「ユーリは本当にお金を使わないからね。年頃の娘ならドレスや宝石を欲しがってもおかしく無いのに、下町で買った可愛らしい筆箱を自慢する様な子だからねぇ」


目を細めて笑うお父様に、

「あれは初めてお友達とお揃いの筆箱ですもの!」と胸を張って答える。


「お父様が働いて下さり、こうして幸せに暮らしいられるだけでわたくしは充分ですわ。そりゃたまにはお洒落したくて買い物をしますけど、わたくしは1人ですからね。いくらドレスがあっても着られる数は知れてますわ。それにこの先、夜会に行くにしてもロイさんからの贈り物のドレスや宝石も十分ありますし、普段着るならペンニーネ商会さんの服が身軽でクロモリと遊ぶにしても散策するにしても好きなんです。それでも足りなければお母様の服でも借りますわ。そんなに体型も変わらないし大丈夫でしょう?」


そう言って微笑めばシルクは呆れたような顔をして、お父様は楽しそうに笑った。


「シルク、諦めなさい。この子はね小さな頃からこんな感じだよ。豪華な食事よりも食後の一つのケーキ。大きな宝石よりも要らないタオルで雑巾が欲しいとせがむ天使だからね」


「そんな天使聞いたことないですね」

「ならシルクの隣にいるわたくしは誰かしら?」

「変わった姉さん」

「あはっ!ならそれでいいじゃない!」


くすくすと笑えば、シルクも笑う。


「そうだお父様、今日姉さんと行った孤児院ですが、素晴らしいものがありましたよ」


その少し意地悪な物言いに動揺すれば、お父様も楽しそうに続きを促す。


「孤児院の建設前からあると言う礼拝堂なんですが、立派なアマテル様のステンドグラスがあり…それが姉さんそっくりなんです」


「そっくりではないですわ。黒眼黒髪が珍しいから似てるように見えただけよ!」


「ミラさん達も言ってたじゃないか」

悪戯っぽく笑うシルクに、

「なら茶色からオレンジ色の毛に流れてたらミラさんに見えた筈ですわ!」なんて言っても、お父様は「なら僕も今度見に行ってみようかな?」なんて興味を示されてしまった。


「ん・もう!シルクは余計な事をっ!」

「だって凄く綺麗だったよ?」

「褒めても何も出ませんわ!!」

「ステンドグラスだよ?やっぱり姉さんも似てると思ったんだね?」


なんて言われて顔に熱が集まるのを感じ、

「シルクなんて知りませんわ!!寺子屋の話また今度聞かせて頂戴!!では、お父様おやすみなさい!」


と部屋から出て行った。






******




扉が閉まってもまだ楽しそうなシルクに笑いかける。


「君達は楽しそうだねぇ」


「そうですね。姉さんも高等部に来て生き生きとしてますし。…でも最近は少し体調…いえ、魔力が安定しない日もあるようで、学園で時折目眩を起こすようです。」


「そうなのか。シルクは見てくれているんだよね」


そう微笑めば、少し困ったように報告を繋げる。


「ロイ様といらっしゃる事が増えました。ロイ様に触れると魔力が安定する様です」


「そうか…安定しない魔力が光だとするならば、ロイ様と近いものもあるのかな…。僕らにはわからないけど、彼女達には薄くとも血の繋がりはあるからね…しかしそれを言ってしまうと、辛いものがあるね」


シルクは返事もせず眉を下げ微笑み返す。


「だからと言ってできない事は無いわけじゃないからね。シルクはシルクの出来る事をすれば良い。そして出来ることを増やせば良いだけさ。…それで?寺子屋の方はどの状態まで進んでいるのかな?」


少し真面目に問えば、シルクも顔を引き締めて現状を話し出す。


そんな姿に僕が喜んでいる事を、君達は知らないのだろうと、親の喜びを噛み締めた。





*******




「アナ、おやすみなさい。今日もありがとう」


「おやすみなさいませお嬢様」


頭を下げて出て行くアナをベッドの中から見送り、今日あったことを考える。


サーシャさんの可愛さと、ホースくんのお兄ちゃん振りや子ども達の笑顔を微笑ましく思い出す。


「楽しかったな…」


朝から出掛けてたので、子ども達と意図せずお昼寝をしたけどやはり疲れたのか眠気がやってくる。


そしてうつらうつらとしながらも、アマテル様のステンドグラスを思い出す。


昔話のように聞いていたアマテル様を、実際にあの様な形で見ると不思議だった…


「そういえば…何故ユリエル(わたくし)なのかしら…?」


改めて考えてみたら、あーゆーのはヒロインと被ってナンボでしょうに、悪役令嬢と呼ばれる立場にあるはずのわたしに似てる事を不思議に思う。


色味のせいで似てると言われたけど…やはり神様に対して申し訳ない話よね…


考えていればもう目が開かなくなっていく。



もう一度子ども達の事を思い出して、

「ふふっ…ママだって…」

なんて寝言のように呟いて、わたしの意識は落ちていった。






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