成人は16歳なのですよ。
「ロイはん、シルっくん…!!大変やっ!!姫さんが…!!」
放課後、ユーリは生徒会室に行かせてる間にシルクと空き教室で相談をしていると、青い顔でロットが飛び込んで来た。
「理由は…説明するよりまずは来て貰ったほうがええわ!申し訳ないけど生徒会室まで大急ぎで来てやっ!」
言うが早いか、ロットが駆け出すのを顔を見合わせて後を追う。
「姉さん…最近具合悪そうな日が…もしかして…!」
「わかってる。しかし推測は何も生まん。まずは行くぞ!」
そうして生徒会室に飛び込めば…
「あっ!シルクとロイさんだわぁ〜」
何故か赤い顔をしてソファでリランの腕に絡みつくユーリが目に入る。
「何をしている?」
「乙女の友情を育んでおりま〜す」
ハーイと、片手を上げてご機嫌に答えるユーリに違和感しか感じない。
シルクが慌てて扉を閉めて、レイが風魔法で音を遮断する。
「どういう事だ?」
睨む様に生徒会の面子に聞けば、アベイルが申し訳なさそうに答える。
「あの…卒業式にお酒を持ち込んだ方が居たの覚えてますか?あの時、お酒は全て回収して教員に引き渡したのですが、一部ジュースもあったので、それは生徒会で飲んでいいと先日渡して頂いてたのを、給湯室の冷蔵庫内に入れてあったんです」
「それがまさか…酒だったと?」
青い顔でこくりと頷き
「瓶のシールを…その、上手く貼り直したのかカモフラージュされてまして……」
「それが毒だったらどうするつもりだ」
抑えられない怒りに身体から魔力が溢れるのを感じる。
「ロイ様、申し訳ありません。私達もユリエルくんに最初に飲ませるつもりも無かったのですが…」
「もしかして、それリンゴ味だったりします?」
こめかみに手を当てて呆れた様にシルクが聞けばレイが頷く。
「ロイ様…申し訳ありません。姉がきっと自ら飲みました。昔からリンゴジュースに目がなくて…」
「だからと言って…!!」
抑えられぬ怒りにシルクにも当たろうとすれば、腕に柔らかいものが当たる。
「ロイさん怒ってますか?顔怖くなってますよぉ?」
ニコニコと腕を組みそのままソファに促されるまま座る。
「はいはい、シルクも座って座って〜」
そう言って次はシルクも連れてくる。
「ね…姉さん、ちょっとお水飲もうか?」
オロオロとした様子のシルクにニッコリと微笑むと、
「ジュース飲んだばかりだから大丈夫。シルクはいい子ね〜いつもお姉ちゃんを心配ばかりして」
そう言っていい子いい子と撫でれば、シルクは諦めた様に言葉を失う。
「ロイ、シルクちゃん、本当にごめんなさい。ウチも本当にジュースだと思ってたのよ。未開封で教員に一度渡してるし、紅茶に入れてフルーティーに飲もうかってユーリちゃんと話してて、そしたらユーリちゃんが、なら紅茶入れて来きますって言ってくれて、給湯室に入って…」
「だって凄く凄く好きなやつだったんですよ。紅茶に入れる前にちょっとコップに一杯入れてちょいとばかしグイーッと頂いちゃっただけよ?ね、シルク、ダメだった?」
シルクの隣に座り、その膝に手を乗せて顔を覗き込むユーリにシルクも困惑して「いや…ダメ…だけど、ちょっと姉さん近い!」と慌てている。
「もーーーーっ!最近シルクは手も繋いでくれないし、大きくなってもお姉ちゃんなのにーー!」
ポカポカとシルクを叩き出す始末。
「ユーリ、ちょっと落ち着け。シルク、ユーリは酒は飲んだことあるのか?」
「無いです。成人しても飲む気配も元より飲む気もないようでしたし、両親も成人祝いの時に声を掛けた時もありましたが断ってました。…まさか…こんなことになるとは…」
「ふっふっふ、お酒は二十歳になってからの方針ですの!お姉ちゃん偉いでしょ?褒めて」
「飲んじゃってるよ…」
「飲んでないわ〜ジュースよシルク?」
グデっとそのままシルクの胸に寄りかかるので、慌ててその両肩を掴み引き剥がせば、そのまま上を向く様に此方を見て微笑む。
「ロイ様も大きく立派になりましたねぇ〜!!こーーんなちっちゃかったのにぃ〜!」と、両手を軽く広げてコロコロと笑う。
「そこまで小さくは無かった筈だが…」
「わたしにとったらちいちゃかったんですよぉ?はーー喉乾いた!ジュース飲んで来ま〜す!」
酔っ払いとは思えないほど素早く動き給湯室へ向かうユーリの前に、慌ててロットが両手を広げて立ち塞がる。
「ひ、姫さん、ジュースは…そうや!オレが全部飲んでしもたんや!ごめんな!!ジュースは無いからお茶か水でも飲もか!?どっちにする?」
「ロットさん…酷いっ!!わたしあのジュース好きなのに!!」
「すまんすまん!!また今度買うて来とくから堪忍したって?」
なんとかロットの言い訳で誤魔化せたかと思えば、その両頬をパチンと掴む。
「ひ…姫さん?」
怒っているのかと思えばマジマジとロットを見つめ、
「ロットさんの瞳はホント綺麗ですねえ〜赤と緑いいなぁ〜!なんでそんな色になれるの?ちょっとよくよく見せてくれる?」
顔がグイグイと近づく。
「姫さん!!離したって!?姫さんの目も十分綺麗やで!!?近い近い近い近い!!ホンマに堪忍して!殺される!!」
「誰にですの?こんな親切なロットさんを虐めるならわたくしが月に変わってお仕置よ?」
「ユリエルくん。ロットを殺さないでくれるかい?」
俺たちが止めるより先にその両手をレイが掴み、ロットの逃げ場を作る。
「レイさんがロットさん虐めてますの?」
「なんでそうなるのかな?」
「ん〜…なんででしょう?」
少し眠くなってきたのか目を擦るユーリは、レイを見上げて「ホントいつ見ても端正なお顔ですねぇ〜お仕事振りもいつも素晴らしいです」と笑う。
「ユリエルさん…あの、水です。一口でも飲んで下さい」
アベイルが水を進めれば、そのコップではなく何故か眼鏡を奪った。
「か、返して下さい…!?」
「貰ったものは返せない〜♪ですわ!」
「あげてません…!」
「アベイルさんは優しい顔立ちですよね。性格が出てますわ。眼鏡なんてしなきゃいいのに〜」
そう言ってニコニコとアベイルの頬を触れば「め、眼鏡返して…」と泣きそうになっている。
「ユーリやり過ぎだ!」
「姉さん、もうお願いだからこっち来て?」
呼べばこちらを向いてその眼鏡を掛けると転びそうになるのをアベイルが慌てて腕を掴み止める。
「この眼鏡…度が強すぎて…気持ち悪いですわ…」
「あの…多分、眼鏡のせいじゃ無いと思います…」
「アベイルさんはやっさし〜い♪」
「会話が成り立ちませんっ」
慌てて側へと行こうとすれば、ソファを回ってる間に入り口近くまで逃げられた。
「待って姉さん!?どこいくの!!?」
「大好きなミラさんに会いにいくのですわ〜!アラホラサッサ〜♪」
「ユーリ待て!」
部屋の者が口々に名を呼び近づくが「クロモリ〜!わたくしを逃がしてちょうだい」と、俺たちと自分の間に黒豹を呼び出し、時間を稼ぎ楽しげに「ガチャっとな!」と掛け声と共に鍵を開けると…誰かにぶつかった。
「ワタクシめノックをしておりましたが…ユリエル様?」
「あの教師に感謝する日が来るとは…」
「ベレト先生!姉さんを部屋から出さないで下さい!!」
「ワタクシめはユリエル様からの命令しか聞きませんよ!」
「一瞬でも感謝した俺が馬鹿だった!!そのままユーリを外に出してみろ!!下手したら退学だぞ!二度と会えんし会わせんぞ!!」
「…!!ユリエル様大変申し訳御座いません。お叱りでも何でも受けますので、失礼を…!」
事態の緊急性に気付いたのか目を見開きユーリのゆく手に手を出し、抱き抱えて部屋に戻る。
「ヤダーー!なんかやだーー!下ろして〜!ミラさんも誉める〜〜っ!」
そう両手両足をバタバタさせるユーリに
「も、申し訳御座いません。緊急事態で御座います!!」
とオロオロするベレトに、ユーリはキッと睨んで
「降ろしなさい」
と一声掛ければすぐさま降ろした。
「何で降ろすんや!」
「ユリエル様に命を受けたならそれが全てです!」
「ベレト先生ありがとう!」
「勿体ないお言葉です!……ところでユリエル様、まさかお酒を…?」
こんなんでも教師…しかも担任に学園内で酒を飲んでいるのを見つかったとなれば、停学退学は免れず、ユーリの経歴に傷が付くと、一同が顔色を青くする。
「ユリエル飲んでないよ?」
ベレトを見上げてそう告げれば、そのまま跪き
「飲んでおりません!!ユリエル様は飲んでなどおりません!」そう頭を下げる。
「見つかったのがこの人で良かったのか何なのか……」
すでに入り口に周り鍵を閉めたシルクの呟きに一同が頷く。
ユーリは跪くベレトの前に座り同じ目線になると、その瞳あたりを触り
「不思議だけど綺麗な瞳ですね。ベレト先生も沢山頑張ったんですね」
微笑みその手を背に回して抱きしめた。
「ユーリ!?何をしてる!!?」
「褒めて伸ばしてます」
「せやな…伸びたわ…ご愁傷様…」
ロットが言うようにユーリが手を離せばベレトはグラリとその場で倒れ伸びた。
「誰彼構わず褒めて回るな!!」
「だってみんないい子達ばっかりなんですもの!!褒めてあげたいわ!」
「姉さん…もしかして眠くなって来た?」
イヤイヤと頭を振るユーリに、黙っていたシルクが困った様に笑って告げれば、少し悩んでこくりと頷く。
「姉さんこっちおいで?ホラ、膝掛けもあるし、クロモリもいるよ?」
フラフラと出されたシルクの手を取り、促されるままソファに移動し座ると、シルクの肩に頭を乗せ少しすれば小さく寝息を立て始めた。
「ユーリちゃん可愛いわね。起きて騒いでる姿も可愛かったけど」
「姉がご迷惑をおかけしました。…最近寝不足なのか、多分その辺りも拍車を掛けたのかもしれません…」
「理由は知っているのか?」
「わかりません。聞いても話してくれませんから」
それぞれユーリの体調不良の様子に心当たりでもあるのか、言葉が繋がらない。
「…あの…ユリエルさんに口止めされてますが…その、ユリエルさん、最近少し魔力が不安定になる様で…」
「アベイルは理由は聞いているか?」
「いえ、やはり話してくれなくて…ボクは…その魔力が少し見えるので、それで…」
「それで最近姉さんがよく…」
「はい…黙っていて申し訳ありません」
そうこう話してると、ユーリが辛そうに小さく呻いた。
思わずその手を握れば、少しホッとした様にまた落ち着いた様子で寝息をたて始める。
「姫さん…まぁ起きたらまた別の意味で騒ぐんやろうけど、寝れてるなら少し寝かしてから帰ったらどうや?」
「すみません…お言葉に甘えて少しだけ…」
「しかし…シルクくんもロイさんもアベイルも…あとは誰よりもミラくんが大変だね」
そう笑って告げるレイを見ればクスクスと楽しそうに笑っている。
「だってユリエルくんがこんな自分を出せる場所、今学園ではここだけでしょう?ここに第三者が来て、ユリエルくんが寛げるのかな?」
「生徒会選挙か…」
繋いだ手を見つめ一つため息を吐く。
「みんな頑張ってな。オレらには応援することしか出来へんけど」
少し寂しそうにロットが笑えば、レイもその横に並び、
「そうだね。あとは外に連れ出すくらいかな?」
「連れ出す…?」
眉間にシワ寄せて聞けば
「せやな!生徒会やったらわかるわ。時間なんてあっちゅー間やで?でもオレらは暇やでぇ〜!ほんで第三者入ってみぃ。そしたら姫さん、ここには来れへんとなれば、オレらと遊ぶ時間十分出来そうやなぁ〜」
そう言って揶揄うようにうひゃひゃと笑う。
「お前ら…!」
「ほなここに来れん間は姫さんどないするん?フラフラさせとくんか?」
「それは…そうですね…」
シルクは肩のユーリを見て困った様に笑う。
「ほな4人全員当選せなあかんなぁ〜ロイはんはまぁどこでも受かるやろけど、シルっくんにアベイルも今年の実績もあるし…問題はミラはんやな」
「そうだね。みんなのお手並み拝見といかせてもらおうか」
そう笑う2人に珍しくアベイルが一歩踏み出す。
「えっと…ボクも…実績と言われるほどのアレでは無いのですが…がっ頑張りますっ!」
「なら僕も…姉さんの為に頑張るしかないかな」
「…そうだな。あとはミラか」
「ミラさんは受かりますわ〜」
突然ユーリむくりと起き上がってほにゃりと笑う。
「姉さん起きたの?」
「ミラさんは受かるのよ?だって可愛いもの」
「見た目の問題なの?」
「…ミラさんが…わたし…いいなぁ〜…」
そう言って、シルクの膝を枕にくたりと寝直す。
「姉は…こんなですけど、あまりあぁしたいこうしたいって我が儘言わないんですよね」
膝掛けをかけ直し、シルクがポツリと呟く。
「俺にも頼ることも少ないな」
「ボクに…辛いことも黙っててって言いました…」
「なら決まりじゃ無いの。アンタ達滅茶苦茶がんばんなさいな。そんでウチら引退組にユーリちゃんかっさわれないようにね。…ってシルクちゃんだけは落ちたら落ちたで、早く帰宅できてユーリちゃん独り占めって手があるわねぇ〜」
リランがニヤリと笑うと、思わず全員の視線がシルクに集まれば苦笑いで
「……………いや、それは流石に…ねぇ?」
「シルク貴様、無駄に間が長いな!お前考えたな」
「しかし実際の話、姉に自由時間を持たせたら…何しでかすのかと思えば、仕事のある生徒会が一番いい選択肢だと思えます」
遠い目をするシルクにみんな無言で頷く。
「レイ、申し込みは多いのか?」
「まだ開示前だからね、ハッキリとは言えないけど、少しは居るよ?…やはり書記希望のミラくんあたりが厳しそうかなとは思えるね」
「アベイルと当たるのか?」
「いえ、ボクはロットさんから引き継いで会計をやるつもりです」
「シルクは?」
聞けば驚いた様に少し考え、
「そういえば役職の申込みとか書いてないのですが…」
「あ、シルクくんは副会長にしといたよ。だって会長のロイくんと当たってはまずいだろう?」
爽やかに笑うレイに
「知らなかったです」
「俺も申込み書に名前しか書いてないぞ」と、二人で言えば、
「なら他に希望が?」そう言われたら二の句が告げない。
「まぁどこでもいい。たった一年の仕事だ。どこぞの先輩方の様に2人でやる鬼畜な事にはならんだろうし、なんとかなるだろう」
「あらやだ痛い」
「そうですね。では、先輩方当選に向けてご指導お願いいたします。」
シルクが言えば2人の先輩はニコリと笑って、
「当選方法なんか知らんわ」
「私たちは突然押し付けられて選挙なんてやってないからねぇ。私たちにとっても初めてのことだよ。なのでなんとか頑張ってね」
そんなアドバイスも何もない助言に2年組は頭を抱えた。
区切るところが見つからず、平均の三倍のボリュームでお届けしました…!!
生徒会室来るとみんな喋るからボリューミー!
ブクマ、⭐︎評価、感想、誤字報告、勝手にランキングポチり等、ありがとうございます!!
ブクマ無くとも読んでくださってる方もありがとうございます!
読んで貰えてることが嬉しくて活力になります!感謝感激です!!
御礼を毎回言えませんが、いつも気がついては感謝の気持ちが溢れてます!!!
ありがとうございます!