不安定なナニカ
「…なんでここにおりますの?」
宣言してから数日は何事もない日が続いて居たのに、生徒会室に入った瞬間ぐらりと視界が歪み、思わず目の前の彼女にそう告げていた。
「え?あ、生徒会立候補の申し込みをしたので、その手続きの関係で…、ごめんなさい!ご迷惑でしたか?!」
「姉さん、そんな言い方は失礼だよ?ごめんね。たしか立候補してた…えぇっと」
「はい!ヒナタ・エレディといいます!シルク様、ユリエル様、宜しくお願いします!」
輝く様な笑顔で挨拶するヒナタさんに、なんとか笑顔を返し「失礼な言い方だったわね。ごめんなさい。ユリエル・セルリアよ。宜しくね」と、少し歪む視界で返事をする。
生徒会室に入る前から違和感はあって入るのを一瞬止めようかと思ったが、用事はあるし気のせいだと室内に入った瞬間に視界が揺らいで思わず失礼な物言いになってしまった。
「あのユリエル様!ずっと素敵だと思ってて、お知り合いになりたくて…、お会いできて嬉しいです!」
そう言って出された手を握れば、全身に違和感が広がり、思わずその手を勢いよく離してしまう。
「あっ…ごめんなさい…、ヒナタってば、馴れ馴れしかったですよね…ごめんなさいっ!!」
そう言って頭を下げられ、こちらこそ申し訳ないとお詫びしようと思うが、視界が揺れて返事が出来ない。
「姉さん?どうかした?」
「……あ。ごめんなさい…、シルク、わたくしちょっと気分が…ヒナタさんもごめんあそばせ…失礼いたしますわ」
そう言って感覚に頼り生徒会室を出ようと背を向けると、後ろではシルクがヒナタさんにお詫びを言っているのが耳に入る。
構わず扉を出ようと歩けば扉あたりで誰かにぶつかり、お詫びを告げるとそのまま抱き止められる。
「だれ…っ」
「ユーリ?」
その声でロイさんだと気がつき「どうかしましたか?」と聞けば「どうしたんだ?」と質問で返される。
「ごめんなさい。…我が儘は承知で…少し遠くまで運んで下さいますか?」
小さく告げれば返事もなくそのまま抱き抱えられ、何処かに運ばれつつ息を整え…気が付いた時には屋上に居た。
「目が覚めたか?」
そう覗き込むロイさんの顔で、抱かれたままベンチに座って居たのだと気がつき、慌てて降りようとすれば、そのまま抱き止められる。
「わわっ!ごめんなさい!?わたくし寝てましたか?重いのに申し訳ないですわ!?お、降ろして下さいますか?え?ど、どのくらい?」
思わず慌てるが、至近距離で覗かれるその顔に何も言えなくなってしまう。
「ほんの…30分くらいか?」
「30分はほんのって時間ではないですわ!ごめんなさい!お、降ろして下さいませんか!?」
「ユーリが俺に頼るなんて珍しかったし、寝顔が見れるなんて貴重な体験、手放せなくてな」
フッと笑うその顔が直視できず、顔を覆って「寝顔なんて見ないで下さい」と言うのが精一杯。
そして目眩もあの嫌な感覚も落ち着いてる事、そしてロイさんに触れている部分から癒されるというか、さっきとは逆に楽になっている事に気が付き、思わずその胸に頭を預けてしまった。
「…ユーリ?」
「なんだろ…ロイさんとこうしてると落ち着きます…」
ホッと息を吐いて目を瞑ると、みるみる魔力が安定していくのがわかる。
「……ん?ロイさん、心臓の音随分速いですね?やはり重くて運ぶのにご苦労おかけしてましたのね」
一気に落ち着いたのでピョンと飛び降り、前に立って改めて頭を下げ「ちょっと具合が悪くなってて…助かりましたわ。ありがとうございました」そう告げて顔を上げれば、ロイさんは顔を押さえて下を向いてる。
「ロイさん?あっ!!もしかして魔力が安定しないとか!!?だっ、大丈夫ですか!?」
目の前へ座り見上げるが、その手は頑なに外されない。
「いや、大丈夫だ、大丈夫。ちょっと落ち着くまで待ってくれ」
「本当ですか?あの、やはりなんかこう魔力が…やっぱり…ごめんなさい…わたくしが我が儘を…」
もしかしてロイさんはあの場に残り彼女と喋りたかったのかもしれない。
それを婚約者だからと、わたしの我が儘を通し無理して…
そう思って血の気が引く。
我が儘と言えば悪役令嬢の十八番。
無意識ながらにメインヒーローのロイさんをヒロインから引き離すアレをやらかしてしまったのだと気がついた。
『ロイ様、わたくしとあちらに行きましょう?ふふ、ヒナタさんご機嫌よう。』
ザザザッと雑音の様な音と、砂嵐に紛れた映像の様なものが頭を過ぎる。
「ごめんなさいロイさん。わたしそんなつもりじゃ…」
ふらりと後ずされば、ロイさんが少し赤い顔を上げたの見て心が騒つく。
『まぁ!庶民の着る物なんて、わたくしには似合いませんもの。せいぜい下町でそちらの方にでも着て頂くのがちょうど良いのでは御座いません?』
またもノイズの様に横切る映像に驚いて振り向けば、
「おっ!姫さん、ここにおったんか!」
屋上への入り口からロットさんの陽気な声が響いて来る。
「なんや様子おかしかったから、みんなで探しとったんよ?ロイはんおるから大丈夫とは思ったけど随分時間経ったしな…ん?どないしたん?」
「何故…彼女も?」
無意識に出た言葉には棘がある様で、思わず頭を振る。
「姫さん様子がおかしい言うたら一緒に探すって…いや姫さんホンマどないしたん?」
「あ、いえ、ホントなんでも、ごめんなさい…」
「ユリエル様、ヒナタ…何か悪いことしちゃいましたか?」
眉を下げ申し訳なさそうに近づく彼女に身体が萎縮する。
「クロモリ!!!!」
思わず呼べばブワリと黒豹のクロモリが現れるとその背に乗り、驚いている彼女へなんとか作り上げた笑顔を向けて、
「わたくし問題ございませんわ。ヒナタさんはお気になさらないで下さい。では皆様ごきげんよう」
そう告げればクロモリはトーーーンと軽々と飛び、屋上から近くの木、そして地面へと飛び移り、地面へと立つ。
「ありがとうクロモリ。10点満点ですわ」
「………姉さん……」
「あらシルク、用事は終わった?」
着地したのは昇降口前。
丁度出てきたシルクと鉢合わせたので声をかける。
「姉さん、ロイさんとどこ行ってたの?」
「屋上よ。ちょっと具合が悪くなったので助けて頂いたのよ」
「もう大丈夫なの?」
「えぇ、ロイさんのおかげねぇ。考えてみたら随分楽になったわ」
視覚で分かるわけないと思いながらも、なんとなく全身を見回しながらブレた魔力がある程度落ち着いたのを確認する。
「そっか…ならいいけど」
「心配させたかしら?」
「そうだね」
「ごめんなさいね。帰りましょうか?」
嬉しくてそう言えば「姉さん手ぶらで帰るの?」と呆れた様に言われて「確かに!」と両手が空なことを思い出す。
「なら僕は生徒会室に行って取って来るから、姉さんは馬車に行ってて」
その言葉に甘えてクロモリと共に馬車に行く。
思わず呼び出してしまったけれど、特にクロモリに変わった様子は見えず安心する。
正直アベイルさんにクロモリに影響が出るかもと言われ、不安でなかなか呼び出すことが出来なかった。
「ごめんなさいね?寂しかった?」
そう言って撫でれば目を細めてくれる。
オデコにキスして魔力に戻し、馬車に乗ろうとするとグラリと目眩がまたも起きる。
「あのっ!ユリエル様。少しだけお時間よろしいですか?」
「…ごめんなさい。わたくし体調があまり良くありませんの。またにして頂いても宜しいかしら?」
屋上から走って来た様子の彼女に、噴き出る脂汗を見抜かれない様、なんとか目を見て答えれば「何か…ヒナタが悪いことしましたか?」そう言って一歩ずつ近づけば近づく程、脳が振れてるのかと思うほどの目眩。
「いえ…そうではなく…ごめんなさい?」
そう言って馬車に向かおうとすれば、彼女が慌てたように近付いて来ると、クロモリがまたも黒豹の姿で現れてわたしの前に立つ。
「ユリエル様!?なんでですか?」
「ですから…今は、無理なのですわ」
そう言って馬車へ乗り込めば追おうとする彼女をクロモリが止めたところで、更にその前に誰かが入り込んだ。
昨日こぼれ話UPしてます。
そして読んでくださる方が優しいです…!!ブクマも勿論感謝感激なのですが、
プラス☆を下さった方は更にありがとうございます!!おかげさまで年末年始はどこかしらランキングに入れて頂きました。幸せな年末年始!!
読んで頂いてる方も沢山増えて感謝しかありません!!
ありがとうございます!!!