ご飯タイム
新年度が始まって1週間。
トントンとノックをすれば、可愛いピンクのふわふわの頭がこちらを向いた。
「こんにちは。今大丈夫かしら?」
「あっ!ゆりえるせんぱいだ〜!来てくれたんだ!!いらっしゃいませっ!」
「こんにちはカフィ、お昼のお誘いに来ましたわ。食堂で聞いたわよ?没頭するとご飯抜いちゃう事が多いのですって?」
「だって鐘の音に気が付かなくって〜」
悪びれる事もなく、てへへと笑う。可愛い。
カフィの研究部屋は、中等部から上がっても同じ教室を専用に使わせて貰ってるそう。前に来た時は薬品の様なものが並んでたけど、今回はネジやら時計を分解したようなものが並んでる。
「突然だけど一緒にご飯食べられるかしら?」
「ん〜…ゆりえるせんぱいのお誘いすっごーーく嬉しいのだけど、このまま離れちゃうのは困っちゃうかも…」
「なら、今日はここにご飯を運んだらいいかしら?」
「え?それならいいけど…?」
首を傾げるカフィに、わたしの後ろから「姉さん、カフィトル、サンドイッチ作って貰ってきたよ」と、シルクがやってきた。
「えーーー?!やったーー!」
ビックリしたのか、目を丸くしてピョンピョンと飛び跳ねカフィ。可愛い。
「食堂の方がね、カフィがあまり来ないって心配してるのが聞こえてね、話しを聞いたらお昼ごはんに来なかったり、食べても時間ズレて一人での事が多いって言うから、わたくしから来ちゃいましたわ」
そう微笑めば、カフィの頬が染まってそれは嬉しそうに「ありがと〜ゆりえるせんぱいとシルクさまっ」って笑った。
「可愛いーーーーーーーーーっっ!」
「姉さん心の声漏れまくってる」
「仕方ないわ。可愛いのだもの!さぁカフィ、沢山学ぶ為には、沢山食べないと脳の栄養が足りなくて効率が悪くなりますわ」
「そっかー!ゆりえるせんぱいかしこいね!」
「ありがとうカフィ。ね、食べましょう?シルクもありがとう。…あ、シルクは?食堂で食べる?」
「僕もここで食べるよ」
苦笑いでそう言うシルクにお礼を告げて、カフィが使っていない端のテーブルを台拭きがわりのハンカチで拭き、シルクからサンドイッチを受け取りみんなの分を並べる。
「ゆりえるせんぱい。ハンカチ汚してごめんね」
「そんなの洗えばいいのですわ。気にせず美味しく楽しく食べましょ?」
カフィは本当に嬉しそうに大きく頷いた。
そういえば最初に来た時も、『ここにお友達が居ないから、お話相手してくれると、すごく嬉しい』と言っていたのを思い出す。
「約束していたのに、昨年はなかなか来れなくてごめんなさい。でもカフィも高等部になったから、お友達もみんなこちらへ来たかしら?」
微笑めば少し悲しげに「ん〜…」と言葉を濁された。
「カフィ?」
「…えっとね。あんまりね、ぼくがやってることわからないって、みんなあんまり来てくれないんだ。同級生だけど…ぼくって同じ歳じゃないからかなぁ〜」
眉を下げて言うカフィに、
「わたくしも…、あまりお友達が多い方ではないから、カフィの気持ちはよくわかるわ!あっ失礼だったかしら?気を悪くしたらごめんなさい?で、でもね、最近思うのだけど、お友達って数じゃないと思ってね。少なくっても多くっても、どれだけ大切な…それこそもっとカフィが大きくなった時に、気の置けない相手である事が大切だと思うの。…えっとね、だからね、一緒にご飯を食べましょう!!」
胸の前で小さくガッツポーズをしてお誘いをすれば、カフィは首を捻って「ゆりえるせんぱい?」と、疑問符をつけてくる。
「つまり同じ釜の飯を食べた仲ですわ!」
「姉さん口悪いよ?」
「んんんっ、伝わらないかしら?とにかく一緒にご飯食べるだけでも、こうして会話が出来て思い出になるじゃない?だからね、誰も来ない〜じゃなくて、まずはわたくし達と一緒にご飯を食べに食堂へ来て…その時に一緒に入学されたお友達に食べる相手を変えても構わないわ。だからね、お昼だけは、食堂でみんなに顔を見せて下さいな。まずはそこからよ」
ちょっと支離滅裂になった気もするけど、気持ちは伝わったと思うので、とりあえず微笑んで締めてみる。
「もしもさ…ぼくが行って…同級生に断られて、しょんぼりしてたら…ゆりえるせんぱい…」
「うん?」
少し悲しそうに下を向いたカフィの言葉の続きを待てば、
「その時は…ゆりえるせんぱいのお膝でご飯食べてもいい?」
上目遣いのそのお願いに思わず
「いい「わけないだろう!!」」
割り込む様にシルクに言われて、「でもカフィは傷ついてますのよ?」と言えば、
「傷ついてもない今言ってるのおかしくない!?てゆーか、おかしいよね?どういう状況でこの年の男女が膝の上でご飯食べさせる状況になるのかなぁ?!姉さん他の子がしてたらどう思う?」
「微笑ましいなって」
「ならないから!絶対ならないから!!姉さん以外絶対ならないから!」
はーっはーっと息を切らせて熱弁するシルクに折れる。
「カフィ、ダメだって」
「『お姉ちゃん』も『お膝の上』も両方シルクさまのじゃズルいよ〜!!」
「お姉ちゃんはともかく、僕は膝の上には乗ってない!!」
「ならぼくにちょうだい?」
「あげる訳ない!」
「とりあえず…シルク、落ち着いて?血管が切れそうよ?」
どうどうと、落ち着かせようと言えば、キッとシルクに睨まれる。
「いい?姉さん。カフィトルの見た目に騙されないで?姉さんカフィトルが『ゆりえるさま〜けっこんして〜』とか言われたら、『そうねぇ、カフィが10年して覚えてたらね』とか平気で言いそうだけど…」
「ちょ…シルク、カフィ物真似のとこもう一度プリーズ!!」
「そこはどうでもいいからっ!でも、こんな見た目でももう12歳、立派に物を考えてるからね!!考えてみて姉さん!あのロイ様は6歳の姉さんに婚約までしてきたでしょ!?6歳でアレなんだから、12歳だなんて更に油断して適当な約束なんてしちゃダメなんだよ!!」
ゼーハーとしてるシルクに、カフィが涙目で
「ゆりえるせんぱい。シルクさま怖いっ!」
と、怯えるのを手を握り安心させる。
「カフィ大丈夫よ、本来はシルクは優しい子なのよ?でも…そうねそうだわあの時は確かに6歳……うん!約束って大事ね。カフィも12歳なのね…うん。わたくしも約束の重みを考えないといけないわ。カフィ、ご飯は一緒に食べれる時は来てね。でもお膝の上は流石にダメだわ」
「シルクさまのだから〜?」
「ん〜…シルクのというより、最近はクロモリが乗ってるわねぇ〜」
「姉さん話ズレてる」
「それは俺のだ」
突然の第三者の声に驚いて振り向けば、なんだかお怒りのロイさんが居た。
「食堂に居ないからどうしたのかと思えば…アレで悪かったな」
こめかみピクピクしてますわ。
「アレ?」
「いや、やっぱりいい、掘り下げて良い方向に行く気がしない」
よくわからないので、首を傾げてそうですか?と続ければ、怖いも知らずのカフィが「ブーブー」と言い出す。
「何でゆりえるせんぱいの膝がロイさまのなのさー」
「婚約者だからだ」
「膝って…膝に抱くのは流石にマズイのはわかりましたが、ひざ枕くらいなら全然宜しいのではなくて?」
「良い訳ないだろう!」
「ならわたくしシルクに何度か借りてるのも不味いのかしら…」
真剣に考え込めば、ロイさんとカフィがシルクを見る。
「あ、違いますのよ。わたくしの具合悪かったり、寝ちゃったりした帰りの馬車とかです。流石に屋敷で借りてる訳じゃないし、ノーカンですわよね?」
「姉さん…お願い黙って……」
そう言われてシルクを見たら顔色が悪い
「あら?シルク具合悪いなら、そーゆー時こそ膝枕ですわ!!ほら、横になりなさいな!」
ここは姉の威厳を見せつける時だと、ドヤ顔で膝をポンポンすれば、
「ほう…?」と、ロイさんの目が細まりシルクを見るが、シルクは目を瞑って明後日方向に顔を背ける。
「ユーリ、俺も公務で寝不足でな、借りてもいいか?」
「あっ!!ろいさまずっるーーい!!」
「こんな場所で王太子が寝られるのはマズイかと思います」
「お前に言われたくないな公爵家の倅!!」
なんだかワイワイと男の子達が騒いで居るうちに、クロモリが勝手に現れ膝に顎を乗せた。
とりあえず確かにここはクロモリの場所かもしれないと、いい子いい子しながら、自由に出入り始めたクロモリの成長を嬉しく思う。
あれね、気持ちは今まで手を繋いでどこでも行ってたのに、それが小学校になったら一人で歩いて行って帰ってくるみたいな気持ち。うん!子どもの成長って凄いわ。
とりあえずみんな騒いであんまりご飯食べてないけどいいのかしら?と、半分食べたサンドイッチをクロモリにあげたら幸せそうなので、わたしは幸せだわ。