異変
「あの…ユリエルさん?どうか…しましたか?」
「え?あ、いえ、なんでもないですわ」
楽しかったダンスパーティーは盛況で終わり、卒業生の皆さんは生徒会の人達やわたし達に口々に感謝を伝えて帰っていった。
そして最後の片付けと残っているのだが、なんだか…グラヴァルドさんと踊って、ロイさんに連れて帰られて……あの彼女に会って……その頃から胸の内がグラグラと…なんとも言いようの無い状態で手伝っていれば、アベイルさんに気がつかれてしまったらしい。
「えっと…もう後片付けだけですし…具合が悪い様なら…あ、シルクさんか、ロイさんを呼んで…」
「あの…アベイルさん、少しだけ…お時間宜しいですか?」
思わず縋る様にその手を掴んでしまった。
廊下に出れば、先程までの賑やかさとは打って変わって静かで、アベイルさんの手を引いて少し死角になる角の椅子へ座ると、横ではなく、心配そうに目の前にしゃがみこちらを見ている。
「ユリエルさん…どうしたんですか?顔色も悪いし…」
その胸に巣食う何かを抑えるよう胸に手を当てれば、いつかロイさんが買ってくれたネックレスが当たる。
「あの…おかしな事を頼むのは承知で…アベイルさん、眼鏡を外して、わたくしの魔力の様子、分かる範囲で構いませんので…見て下さいませんか?」
「何故…?」
小さく首を振り「わかりません」と言うのが精一杯で。
このネックレス買った時楽しかったな、とか、よくわからない感情と、息苦しさと、胸の内に渦巻く何かと、どう言ったら良いのかわからないものに支配されそうになる。
「では…失礼します」
そう言って眼鏡を外してこちらを見たアベイルさんが少し目を見開いたのが目に入る。
「やはり何か…おかしいですか?わたくし…なんだかおかしいんですの…」
油断をすれば溢れそうな涙と、油断をすれば溢れ出しそうな負の感情。
「ユリエルさん…なんで…?」
「やっぱり…違うのですね?」
必死で作り上げる笑顔に、アベイルさんは小さく頷く。
「他の方に気付かれる可能性は?」
「ない…と思います。クロモリさんは…わかりませんが」
「あぁそうなの…クロモリにも影響出そうな程…」
声をあげようとするアベイルさんに「フォローは結構ですわ」とやんわりと断りをいれる。
「安定…している様には見えません。何故…?」
「……どんな状態ですの?」
アベイルさんは一度目を瞑り、
「今まで…ボクに見えていたユリエルさんの魔力は…8割型輝く光魔法でした。残り2割が黒く、闇だったのだと思います…」
「今は?」
伏せた目を開き、こちらを見ると
「…それが逆転している様です…」
「そうですか」
どうしていいのかも分からずに、とりあえず微笑み返せば、
「こんなに…安定していない魔力を…ボクは知りません…元々光と闇という、例のない物ですが、ロイさんやシルクさんの様に、いくつも魔力を持っていても、見ている限り割合はそう変わる事はありません…」
「ふふ、思ってた以上に色々と教えて下さりありがとうございます。流石魔法騎士団の次期団長候補様ですのね」
「茶化さずに…!」
「決して茶化しておりませんわ。不安定なのは自身で感じておりましたし…聞けて良かったわ。助かりました。ありがとう。明日には治っているかもしれませんし、どうか…内密に願いますわ」
ふらつきそうになる足に力を入れ立ち上がり、差し出された手に小さく首を振る。
「何故…」
「わかりません…。でも、きっとこれからわたくしは立ち向かわねばならぬ時が来たのかもしれません。」
その手を取らずに。
あぁ、もしかしてこの友の手はわたしへ差し出される事は最後だったのかもしれないと、胸に広がる痛みを感じながら、微笑む。
「大丈夫。負けませんわ。わたくしは皆さんの事、きっと他の誰が思うよりも 大切なのですもの」
明日は少し本編を外れ、ヒーロー目線が入ります。
お読み頂きありがとうございます。
もう本当に嬉しいしか言えないです。