ほくそ笑む、ほくそ…ほくそって何かしら…ほくそ…ほ…はっ…!はな…はなく「わーーーーっ!!(義弟)」
ダンスホールでは生演奏による音楽が流れ、初めは照れ臭そうに触れ合い踊っていた男女が柔らかな笑顔に変わてゆく姿や、
端の方では「初めて見た時から決めてました!お願いしますッ!」「ちょっと待った〜!!」と割り込み、しかし返事は「お二人共ごめんなさい!婚約者がおりますの!」
その流れに思わず「大ッッどんでん返し!」とかマイク持ってカメラ目線で騒ぎたくなるけど我慢我慢。
とりあえずカメラさん、やる時はどうかズームと引きをくりかえしてねとか、ビデオカメラの開発されてないこの時代に考える。
兎に角色んな青春の1ページを見せていただきました。
そんな楽しい時間が過ぎるのは本当に早くて、パーティも残り時間はあと少し。
ホールには手を取り合い息を合わせ頬を染め合い、まるでこの一曲が終わらなければいい。
そんな雰囲気がここに山ほど!!!
勿論わたしには関係はないけど!!!!
え〜幸せ〜〜!!ここに居るだけで、幸せのお裾分けが貰えます!!
前に渋々出た夜会のなんかもう大人同士の上辺の会話とか、裏ありそうな会話とか、そーゆーの無い!!!キャッキャウフフしかない、この平和な世界。
もじもじしてる男子よ!!声を掛けるといいわ!!彼女もきっと待ってる!!玉砕しても明日に学校来なくていいんだから、レッツらゴーよ!!
可愛らしい仲良しさんの3人組が相談中!赤のドレスのお嬢様、お友達は青、もう一人は黄色……
名付けて天道虫ちゃん達!!レイさんに声掛けてみようか誰から行くのか相談ね!!多分お忙しいから無理かもだけど、あんなに可愛らしい子達ですもの!しゃしゃり出るのよ!いけいけゴーゴー!!
「ところで、わたくしの仕事全く無いのですが。何故皆様代わる代わるわたくしの側へ?」
「…ユーリと居ると仕事が回ってくるんでな…」
「だからその仕事をわたくしがやりたいのですが…」
パーティーが始まり、会場で音楽が鳴り出して暫くするとわたしの元へと男性から何か頼み事をされそうな雰囲気で近付いて来た。
やったー早速お仕事お仕事!と、内心喜んで聞こうと思えば、隣にいたシルクがスッと前に入り「御用はなんですか?僕が代わりにお聞きします」
そしてまた立ってたら声掛けて貰えそうだったのに「お!困り事ですか!?オレで良ければ聞きますんで遠慮なく!」
とロットさんに先を越され、
その次は「今日は卒業おめでとうございます。どうぞこちらお飲み下さい」と、レイさん。
アベイルさんにベレト先生と、そんなことを繰り返して、今はロイさんが隣に立ってる。
「わたくし、こんな皆さんと触れ合う機会無いので楽しみにしてたのですけど」
「…触れ合いたいのか?」
「誰かに頼まれごとしてその場でハイッとお仕事出来るなんて、わたくし達では貴重ではございません?」
「…まぁな」
そしてロイさんが隣に来てから声が全く掛からなくなってしまったし!!
王太子パワー恐るべし!!
グレー着てるんだから遠慮なくわたしでもロイさんでも声掛けて欲しいわ。
ふぅっと目を瞑り溜め息を吐いて、改めて目を開けば、世界は変わっていた。
……ーー?
目の前の壁から目線を上げれば、そこに立っているのはグラヴァルドさん。
「まぁ!いらっしゃらないから心配してましたのよ?体調でも悪かったのですか?」
微笑めば、苦笑いを返される。
「ユリエル嬢にそれ言われるとなぁ〜」
ボリボリといつもと違い、後ろへ撫でるように綺麗に整えた髪を掻いている。大柄な身体とボサボサした髪で気が付きにくいけど、こうして見ると男前なのねぇ。
「わたくしが何かいたしました?」
首を傾げれば「ふはっ!」と笑い、膝を折ってその場に跪く。
「ユリエル嬢に教わったダンス、練習でも共には踊っておらん。どうかワシに晴れの舞台を用意してくれんか?」
そう言って差し出す手は、少し震えている様で。
たしかに最後までわたしと踊らず、後半は女性パートを覚えさせたベレト先生に頼み、その細部まで確認しようと必死になっていた事を思い出す。
そうはいっても給仕の仕事のある今、受けて良いのか悩んでいれば、横でロイさんが溜め息をついてわたしの手をグラヴァルドさんの手の平に乗せた。
「今日だけ、それも一曲のみだ。それにユーリが教えたダンスで彼女に恥をかかすことは許さん」
「まぁこのまま最後の曲まで踊ってくれとはワシも言わんわぁ!」
「言わせるか!」
よくわからないその会話に質問を挟む間もなくその大きな手に引かれ、ホールの真ん中まで来てしまう。
「えっと、宜しくお願いしますわ。是非グラヴァルドさんの成果、今日感じさせて頂きます」
そう微笑めば、それは嬉しそうに笑ってくれた。
「始まるのぉ!」
「折角ですから楽しませて下さいませ」
生演奏で流れる曲に合わせて足を動かし、その高い視線へと目線を送れば、楽しそうに踊っている。
「免許皆伝ですわね!大変だったのにお疲れ様でした」
最初の頃では考えられないほど、危なげなく運ばれるその動きに、自然と笑みが溢れる。
「先生が良かったからじゃぁ!ワシ一人じゃもうとっくに投げ出しとったわぁ!」
楽しそうに語る余裕も、沢山の練習の結果手に入れたもの。
「わたしが教えたのはほんの一部で、グラヴァルドさんお家でも沢山練習されましたものね」
「なんでぇそれを!?」
驚いた顔にクスクス笑うと
「わかりますよ、だって来るたび前回のこと忘れてないどころか、ちゃんと上達して来られてましたもの。お疲れ様でした。なのに厳しくし過ぎてごめんなさい。わたしも上手になって欲しくて必死だったの」
眉を下げてそう言えば、少し驚いて破顔する。
「お陰でユリエル嬢を誘えるレベルになれたわぁ!こんな思い出まで貰って感謝しかないのぉ!」
楽しい時間はあっという間で、曲が終わって頭を下げる。
「ユリエル嬢…ワシはぁ…諦めた方がいいんか?」
その意味が分からず顔を上げるが、グラヴァルドさんはまだ下を向いたまま。
「えっと?なんのことか分からないのですが、諦めたらそこで試合終了です。って昔、素晴らしい先生が仰ってましたよ?やりたい事は一生懸命やられたらいいのでは?ほらっ!ダンスもこんな上手くなれたのですし!?2か月前は…ほら、あれだったじゃないですか?」
「下手くそかぁ?」
「…まぁ、そうとも言いますが、あの…お顔上げて下さいませんか?」
「ユーリ時間切れだ。さぁ戻るぞ」
いつの間に横に来ていたロイさんに手を引かれ返事を聞く間も無く端へと向かう。
すると今度はロイさんへと、
「ロイ様、あの…っ、踊って貰えませんか?」
そう言ってリボンの沢山付いた可愛らしいドレスに身を包んだ、キラキラと輝く様な白い髪、しかしそれ以上に目を奪われるのは儚さも感じさせる可愛らしい容姿の女の子が立っていた。
「悪いが、俺は彼女としか踊らない」
ロイさんはそんな彼女に目を向けることなく、わたしの手を引き壁に向かう。
通りすがりの彼女は顔を真っ赤にして、その大きな瞳はすぐにでも涙を溢しそうなほど潤んでいて…、それ以上は腕を引かれてしまい見る事は叶わなかった。
この華やかな話で、タイトルが最低な事を心よりお詫び申し上げます。