闇は影とは違うらしい。そう言われれば光の魔力もお日様の光とは違うものね、
「無……ですか?」
「零の為の魔力……とも言われます。光が5を10にする為の魔力なら、闇は5を0にする為の魔力」
「零……」
「ですので過去の文献をいくら探して回ってもユリエル様のように光と闇を同時に持った人間などおりません!!特別なお方なのです!!!」
5を10か、5を0か……。
ざわざわと胸が騒ぐ音がする。
「……ベレト先生はご自分が闇の魔力だとお気付きになってどう思いましたか?」
「人の命など儚い物だと」
そう言って微笑まれれば、何故だか胸が苦しくて。
「儚いとは?」
「幼い頃、ただワタクシめの中に魔力が渦巻き、放出の仕方も分からず、グルグル渦巻いておりました」
「幼い頃……ですか?」
首を縦に振り肯定すると、少し遠くを見るように話し出してくれる。
「普通の幼い子の魔力は必要なければ、無意識に放出され大気に溶け出すそうです。しかし闇は元々大気にない物。ワタクシめはソレが魔力であるとも分からず、両親には病弱な子とされておりました。それでも幼かったので家に居れば友人が恋しく、ある日コッソリと家を出て歩いていると、体の内でグルグルとソレは渦巻き、立っていることも出来ず、木の影に座って息を整えて居ると友人が可愛がっていた猫が擦り寄って来ました。その時まで動物に触れたこともなかったので、恐る恐る触れば、グルグルと行き場の失っていたソレがその猫に向けて突然身体から出ていき……気が付けばその子は息絶えていて……。その時、ワタクシめの手にはその子の心臓を潰す感覚が残って居ました」
何を言って良いのか分からず黙っていれば、ベレト先生は何事もなかった様に微笑んでくれる。
「その時、友人がワタクシめを見つけて、傍で冷たくなっている猫に驚き……いいヤツだったんですね。横に居るワタクシめを疑う事なく、まずは座り込んだワタクシめを助けようと手を伸ばされた瞬間、ソレはまた動き出そうとしたんです」
驚いて目を見開けば「大丈夫、彼は無事ですよ」とわたしを安心させて、また話し出す。
「猫のお陰なのか、渦巻いていたソレは弱まっていて幼いワタクシめでもなんとか押さえつけることが出来ました。……ただ、その時からこの目には、彼を……人を0にするビジョンが見えていました。ソレを使い、身体に潜り込ませ、心臓を止めることも、息を吸う器官を締めて窒息させることも、その身体の内に入り込みどうしたら殺せるのかが手にとる様に」
「もしかして……その目の紋様は……」
「……ッ!!見えているのですか!?」
出会った時から気になっていた、眼の中の不思議な紋様について思わず聞けば、とても驚いた顔を向けられる。
「そうです。その時からワタクシめの瞳には紋様が浮かび上がり……。でも今まで他の誰にも見えていなかったのです。親や知人、触れ合ってきた人達も」
「そうなのですか?あの……えぇあの東屋でお会いした時から気になっておりましたわ」
告げればまるで子供の様に嬉しそうに笑う。
「あぁ、そうでしたか。ワタクシめは誰に聞いてもそんな物は無いと言われ続けて…だからこれは自分への戒めの為に己にしか見えぬ様に刻まれているのかと…あぁ…これはユリエル様に仕える為に刻まれた……!!」
「いやそれはどうかと!とりあえず続きをどうぞ!」
ここで拒否っとかないとまた変な世界にはいっちゃうわ!!
「ですのでお恥ずかしい話…ユリエル様に出会うまで、人の死は必然で儚く………奪う事はしませんでしたが、ワタクシめはいつでも人を殺す事が出来るのです」
それは小さく消え入りそうな声で「『自分から進んで』奪うことは」……と、わたしの耳に届いてしまった。
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