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一章「運命の出会い」8

「トーマ」


 忘れるわけがない。俺の因縁の相手。


 片手で人の顔を鷲掴みにして持ち上げる怪童で二人に分身するという規格外の逸話も持っている。


 男の癖にして肩口まで髪を伸ばした他の奴とは一味違うルックス。

 常に勝気な表情でスギコーカーストの最上位に居やがった。


「そうだ! トーマだ。懐かしいな。それでユーヤはトーマ何したんだっけ? 氷雨に教えてやれ、くくっ……」


「野郎に決闘を申し出た」


「ぷはっ……出た。決闘ってお前……ウケるわ。普通に喧嘩しただけだろ」


 ただの喧嘩じゃない。

 当時の俺は奴に対して譲れないものがあり、それを賭けて闘ったんだ。

 決闘と呼ばずして何と呼ぶのだ。


 結局、激しい攻防の末、流血騒ぎが起きて大人達に止められたんだ。


「その後にトーマと闘ったって噂が広まって、人気者になったユーヤと仲良くなったんだよな」


 親に叱られてしばらく自宅謹慎を言いつけられていたが、戻ったらトーマという化物と闘ったということで遼が労ってくれたきっかけだ。


「だが勝負は引き分けだ。勝たなければ意味がない。決闘をしたあの日は俺の誕生日だった。俺は自信に勝利をプレゼントするつもりだった」


「そっか、ユーヤは四月の誕生日だったな」


「遼はこの右腕の傷を覚えているか?」


 トーマの渾身の一撃は右腕に傷が残るほどだった。


「確か、トーマにつけられた傷だよな。その代わり向こうもユーヤに傷つけられたって話じゃないか」

 俺はカウンターで奴の額に傷を残してやった。それが俺の唯一の抵抗だった。


「この傷がよ。疼くんだ。奴を倒せと」


 俺は拳を天高く掲げる。


「お前頭大丈夫か? 時差ボケか?」


「傷ついたトーマと俺はある約束を交わした『大人になったら再び会おう。この関係に決着をつける』と」


 そうして、俺達は病院へと親に連れていかれたんだよな。


「つまり大人になって誰にも邪魔をされない状況下で、勝敗をきちんとつけよう。奴からの決闘の約束だと俺は受け取った」


「一言で随分と想像を広げたもんだ。てか、十年も前の約束を良く覚えてるよな」


「まぁな。俺は奴との決闘に備えて近所の道場に入門したんだ」


 それがヌンチャクだったというくだりはもうおわかりいただいているだろう。


「俺にはカンフー映画の真似事しているだけに見えたが」


「一年間、真面目に強さを追い求めてたんだぞ」


「でもヌンチャクってお前……くくっ」


「正式にはスポーツヌンチャクな」


「ヌンチャク? 縄跳びの紐が短いのみたいなのですよね」


 そういう例えをされると物凄く弱そうに感じる。


「そうそう。気になって様子を見に行ったら、ホァターって半泣きでヌンチャク振り回してさ。しかも同年代の女の子にボッコボコにされてやんの」


 半眼を向けるとニヤニヤする遼。


「もしかしてそれが妖怪ヌンチャク女ですか」


 ヌンチャクをまるで生き物のヘビのように扱う妖怪。別名、妖怪ヘビ女。

 のちの藤宮 千咲である。


「そうだよ。あれは妖怪の類だ。人間じゃない」


「じゃあ勇也は妖怪の元で化物を倒す修行してたってことか。ウケるな」


「クソ……馬鹿にしやがって……道場って言うくらいだから武術とか想像してたのにまさかヌンチャクの道場があるとはな……親が一年分月謝先払いしちゃったから辞めるに辞められなかったんだ。それだけだ」


 得られたものは……反射神経とか奇声を発しても恥ずかしくない精神力くらいか。

 あと受け身。これが一番役立っている。


「だが、確かに俺は強くなった。そして、世界各地を回って更に強くなれた。前回の決闘は大人に止められた。ならば二人が大人になったらこの因縁に決着をつけようと奴は言った。俺は明日十八歳の誕生日を迎え大人の仲間入りとなる」


 トーマはいくつか年上だったのでもう既に大人の仲間入りしているだろう。


「んー、日本じゃあ二十歳を成年と認めてる意識を方が強い気がするが。なぁ、氷雨」


「うん、成人式も二十歳で行われてますし、十八歳が成年と認められるのはもうちょっと未来の話ですよ先輩」


「えっ……と、とにかく。俺は明日、スギコーに赴きトーマに決闘を申し込む」


 約束したし……たぶん覚えてるよな。

 確認しようにも奴の連絡先どころかどんな顔してたかも正直微妙だ。


「トーマね。お前が日本を経ってからめっきり姿見せなくなったしな。やんちゃしてるって噂も聞かなくなったな」


「止めてくれるな……俺はこのために日本に戻ってきたと言ってもいいくらいだ」


 日本の大学に進学したいだのは建前だ。


 すべては奴に決闘を申し込むために俺は帰ってきたのだ。


「明日も学校だし止めるつもりはないぞ。まぁ、相手が来なくてもケジメとつけるにはいいんじゃないか。大事なのはユーヤの気持ちだ」


 遼が俺の肩をポンと軽く叩きニカッとした笑みを浮かべる。


「その時思った気持ちを大切にしろよ」


 遼がサムズアップしたのに続き、桜井さんもおずおずと親指を立てる。何か可愛い。


「トーマが闘う因縁の相手であれば再び相まみえるはず」




 こうして、因縁の相手と再会し、運命の相手と結婚したのだった。


一章終了です。

次話からメインヒロイン再登場です。

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