一章「運命の出会い」7
ブクマありがとうございます。
放課後。
店の前で待っているとで遼が手を挙げて近寄ってくる。
「おっす、ユーヤ。お待たせ」
「おう……あれ? その子は?」
小柄で眼鏡をかけたおさげ頭の子が遼の制服の袖を握っている。
「俺の彼女。ユーヤにどうしても自慢したくてさ」
丁寧に頭をさげて畏まった立ち振る舞い。
「こんにちは。桜井 氷雨です。遼先輩から旗井先輩の話は良く聞いてました」
お人形さんみたいな子に先輩って呼ばれるのはグッとくる。
「えぇ! 遼に彼女……しかもこんな可愛い子が」
ネクタイの色からして二年生。
後輩か。年齢よりも幼く見えるのはおどおどして遼に引っ付いている所為かもしれない。
「か、可愛い!? うぅ……」
照れて顔を真っ赤にしてぶんぶんと両手を振る。
小動物みたいで愛くるしいな。
「ほら、俺がいつも言ってるようにやっぱり氷雨は可愛いんだって。自信持てよ」
「うん……頑張ってみる」
遼が頭をなでると気持ち良さそうに目を細める。
なんだこのほわほわな空気は。
「負けた……こんなイケメンで気が利く。そして、アニメの世界にしかいないような図書委員系後輩彼女を持っている。どうすれば俺はお前に勝てる?」
「おーいうずくまってナイーブになるなよな……彼女持ちに勝つには、か……結婚して奥さん作ればいいんじゃね?」
「それだ!」
「マジにとるなよな……なんかユーヤだったらマジで明日とか結婚しそうで怖いわ。それじゃあ店に入ろうぜ」
店に入って店員に注文をする。いちいち、俺の発音にニヤニヤする遼。次第には店員までも笑われてしまった。
「てりやきヴァガァーにポティトォにコーク……くくく」
「遼先輩、笑っちゃだめだよ」
といいつつ。口元を抑える桜井さん。
発音直した方がいいなぁと思った瞬間である。
それぞれの注文のトレーを受け取り二階の飲食スペースへ上がる。
俺達の空白の時間を埋めるようにお互いのことを語り合った。
そんな思い出話をニコニコと聞く桜井さん。
「へぇ、桜井さんって本当に図書委員なんだ」
「はい、本が好きなんです。あ、……でも本より……遼先輩の方が好きです……や、恥ずかしい」
なんか聞いてるこっちが恥ずかしいんですけど。
「桜井さんはいつから遼と付き合ってるの?」
「あ、中学校からです。実は同じ中学なんですよ」
「当時は俺が生徒会長で氷雨が書記だったんだ。忙しい俺をいつも気遣ってくれてそこに惚れちまったんだ」
「恋してんだな。羨ましいぜ」
「そういうユーヤは恋してないのか? クラスの女子で気になる子はいなかったか」
「俺も恋しているぜ。あの子に」
「あの子って誰だ?」
「あの子は……あの子だよ」
良く考えりゃそれ以上何も知らないんだよな。
桜井さんが困った顔をして遼に目配せしているのであわてて話題を振る。
「遼はクラス委員任させれるだけあって相変わらずリーダー気質なんだな。昔っから面白いことを提案するのはいつも遼だったもんな」
クラスの中心人物であることは雰囲気から伝わった。
「妖怪ヘビ女を探索した時も遼は」
「それはやめろ! ユーヤだって妖怪ヌンチャク女にゲロ吐かされたじゃねーか」
「ふふ……どっちもおもしろそう」
俺達の昔話に桜井さんは嬉しそうに相槌を打ってくれた。
「お二人は昔から仲が良かったんですか?」
「いいや。お互い最初は別グループにいたんだ。十年前、俺達が八歳の頃に仲良くなったんだ。それまでは『東区の狂犬ユーヤ』ってあだ名呼ばれてたことしか知らない。俺がユーヤってあだ名で呼んでるのもその名残だ」
「旗井先輩そんな危険な人だったんですか?」
「まぁな。あちこちに噛みついて暴れまわっていたからな」
俺の発言に遼がぷるぷると震えている。当時の俺のアウトローなエピソードがフラッシュバックしやがったか?
「ぷぷっ、ははは。何言ってんだよ。おままごとで犬役ばっかやったからだろ」
「おままごと。旗井先輩かわいー」
「可愛くないんだって。躾の悪い犬って設定自分でつくって。色んな人にマジで噛みついて喧嘩ばっかしてたんだぞ。そんなんだから俺も当時はユーヤのこと避けてたんだ」
「お父さん役の子が家に二匹も犬はいらないって言うから必死でキャラつけて生き残りをかけてたんだよ。思い出した。遼はそれを遠巻きで見てニヤニヤしてたよな」
「でもどうして二人は仲良くなったんですか?」
「ユーヤが西区の化物と闘ったって聞いてよ。東区の俺達から英雄扱いされたんだよな」
「西区の化物? なんだか怖そうな人ですね」
「俺とユーヤの住んでる杉野は東と西に町内会が分かれててな。そこの中心に杉野公園があったんだ。んで西区の化物と恐れられてた奴がいてだな。そいつの名前は……」
「トーマ」
忘れるわけがない。俺の因縁の相手。