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一章「運命の出会い」6

「それじゃあ教室へ入って」


「失礼します」


 教室へ入ると全員の視線が俺へと向けられる。こういうのはもう慣れたもんだ。


「今日から我が三年五組の一員となりました旗井 勇也君です。皆拍手」


 拍手が鳴り止んだ所で一礼をして自己紹介をする。


「アメリカから来ました、旗井 勇也です。日本の文化に不慣れな所もありますがよろしくお願いします」


 海外から来たという転校生に教室がざわつく。

 ふっ、帰国子女というだけでクラス内の注目を集めた。

 これは俺の勝ちだな。


「……」


 クラスメイトを見渡すがあの子はいなかった。

 うーん、運命の相手ならばこういう所でばったり再開とかありそうなんだけどな。

 歳も近そうだったし。


「それじゃあ、旗井君の席はクラス委員の神室(かむろ)君後ろの席になるから」


 神室? まさか神室って。


「おーい、ユーヤこっちだ」


 立ち上がり手招きをする生徒。このニカっとした笑顔間違いない。


「遼、遼なのか! 久しぶりだな」


「噂の帰国子女の転校生ってユーヤだったんだな。すっかり大きくなりやがって」


 神室(かむろ) (りょう)は小学校の時の親友。家が近所で良く遊んでいた仲だ。

 身長は百八十センチを超えているだろうか。昔は俺の方が大きかったのに。


 適度に制服を着崩して挙動にチャラさがあるが不快というよりノリが良さそうだ。

 茶髪でデザインパーマを当てている感じからするとある程度自由な校則だということが伺える。


「ぐっ、なんだこのパーペキイケメンは……なんか負けた気がする」


「相変わらず、勝負師というか勝ち負けばっか気にしてるんだな。変わってなくて安心したよ。先生が言った通り、俺がクラス委員だから色々と教えてやる」


 昔の面影漂う、ニカっとした笑みを浮かべて手を差し出す。


「あぁ、よろしくな」


 俺は遼と握手をして再会を喜ぶのだった。




 休み時間の度に訪れる質問タイムも無難にこなした。


 やっぱり海外からの転校生というだけで食いつきは良く、ひっきりなしにクラスメイトが訪れた。


「ユーヤ、お疲れ様。すっかり人気者だな」


 遼が俺の肩を揉みながら話しかける。


「まぁな。それにしてもやっと昼休みか。腹減ったー」


「昼はどうするつもりだ? 何か持ってきているのか?」


「んや、なんも考えてなかったな」


 登校するのに気を取られて昼食のことが頭から抜けていた。コンビニとか見てたのに。


「うちには学食があるからそこで食べないか? 俺も毎日利用してるし」


「学食! いいね。案内してくれよ」


 鞄から財布を取り出して立ち上がる。


「おっけー。それじゃあ行こうぜ」




 学食は百人ほどのキャパだろうか。広々とした空間である。


 赤、青、緑。ネクタイの色で何年生かわかる。

 緑色のネクタイで俺と同じくきょろきょろしてるのは新入生だろう。


「ここの券売機で食べたいメニューの食券を買うんだ」


「うーん……たくさんあって悩むな。おすすめは?」


「全般美味いよ。ただ、今日は混んでるから揚げ物はおすすめしないかな。時間かかるからさ」


 そう言って遼はお札を入れてカレーライスのボタンを押した。


「それじゃあ肉うどんにするぜ」


 俺が硬貨を入れようとすると遼が手で制する。


「今日は俺のおごりってことで。再会祝いってことで受け取ってくれよ」


「マジか。テェンキュー」


「おぉ、発音がネイティブだな。ウケる」


 食券を受付のおばちゃんに手渡し料理が出来上がるのを待つ。


「どうして今日は混んでるんだ?」


「新入生がとりあえず食堂を利用してみようって理由で入学式は毎年混むんだ。そのうち弁当組とか仲間内で別の場所で食べたりとかするから落ち着くさ」


「なるほどな。俺は独り暮らしだし毎日学食利用するかもな」


「ユーヤは独り暮らししてんのか。両親は?」


「仕事があるから向こうにいるよ。母さんも付き添い。てか、老後も海外生活満喫するって。でも、俺は奴との因縁に決着をつけるために日本に来たという訳さ」


「くくっ、そういうことね。授業はどうだ? ついていけそうか」


「端から日本に戻ること前提に勉強してたし、英語や数学は問題ない。たまに日本語の解釈に時間が掛かるときはあるがな」


「わからないことあったらすぐに聞いてくれよな」


「うーん、それはそれでなんか負けた気がするんだよな」


「わからないで自爆して完全敗北するよりはマシだろ。融通は聞かせてくれよ」


「俺もそこらへんは大人にならないとな」


 しばらく談笑していると昼ご飯が出来上がる。


「頼むぜ。メシも手に入ったし席を探さないとな」


「っても、相席するしかなさそうだ」


 混んでいるためか空いている席がなかなか見当たらない。


「それなら問題ない。いかなるときでも空いている席があるから」


 遼に促されとある一角を渡す。


「あれ? あそこだけ一人しか座ってない席が……ん?」


 確かに女子一人が席の中央に座っているだけなのだが彼女の周りに黒い残像がひしめいている。ヌンチャクだ。


「ちーちゃん……こんだけ混んでるのにぼっち飯かよ」


 師匠のあんな姿みたくなかったな。


「びびって誰も近寄らないんだ」


「食事中にヌンチャク振り回している奴と相席したくないわな」


「俺も普段ならお断りだが、今日はユーヤがいるから大丈夫だろう」


「そうだな。ちーちゃん、ここに座ってもいいかな?」


 猫背気味でそばを啜っているちーちゃんに声を掛ける。

 ……箸も紐で繋がれてヌンチャクみたくなってる。


「あ! ユウ君、どうぞどうぞ」


 俺と遼はちーちゃんに促されて向かいに座る。


「幼馴染三人が揃ったな」


 俺の発言にかぶりを振る遼。


「いいや、藤宮はユーヤの友達って感じで俺達はそんな仲良くないぞ」


「あ、そうか。遼は道場通ってなかったからちーちゃんと親しくなってないのか」


「そうだ。愛で繋がっているのはユウ君だけだ。かといって仲が悪い訳ではないが、自分と神室とはこの数年まともな会話してない」


「言われてみれば、俺とちーちゃんが修行してるのをニヤニヤと遼が見てる感じだったな。二人は俺が海外言ってる間何してたんだ?」


「俺はお前らみたく習い事とか部活はしてなかったな。中学入って生徒会の活動やってたくらいだ。今じゃこの高校の生徒会長だ」


「マジか。その見た目でかよ」


「見た目は関係ないんだよ。人徳だ人徳。ユーヤも学校生活で困ったことあったら気軽に相談してくれよな」


「頼りがいがあるな。ちーちゃんは……いいか」


「自分をさらっとスルーするのはやめなさい!」


「だってヌンチャクでしょ?」


「う、たまには三節棍だってやってるさ!」


 だからなんなんだ。


「ユーヤは何してたんだ?」


「自分の人生の振り返りは終わり!?」


「俺は父さんの仕事で世界各地を回ってた。だから友達もそんな出来なかったからこうして友達と話をするってのがすっげぇ嬉しい」


「これからはずっと日本に居るんだろ? 色々と遊ぼうな」


「それは楽しみだな。高校最後の学生生活を満喫するぜ」


「だったら彼女を作れよ。恋人はいいぞ。人生を豊かにしてくれる」


「ごちそうさま。自分は次の授業あるんでこれで」


 興味無さげなちーちゃんは口元を拭いて、箸を大事にしまう。


 あのヌンチャク型の箸、自分の専用だったんだ。


「おう、またな。……なぁ、遼」


「どした?」


「ちーちゃん……友達居んの?」


「授業中もヌンチャク振り回してるやつに友達いるように見えるか? さっきみたいに色恋沙汰も全くだぞ」


「なんとかちーちゃんとも学生生活を楽しみたいな」


 弟子としては師匠の幸せも願いたい。


「藤宮と付き合っちゃえば?」


「俺とちーちゃんが? ヌンチャク携帯している人はちょっと……」


「だよなぁ」


 俺達はしばらく無言になって食事をする。


「てか、箸もちゃんと使えるんだな。てっきり向こうの文化に染まってるかと思ってたわ」


「あぁ、家だと母さんが日本食作ってくれるし、インターナショナルスクールに通ったから現地の日本人生徒と良くつるんでたよ。ネットで日本の情報は見れたし」


「なんだ、チェリーパイとかミートパイばかり食べてるのかと思った」


「欧米か。欧米だったけどさ。実際に友達の家でホームパーティあれば出るぜ。パイは」


「マジか。じゃあ、肉の塊をバーベキューしたりしたのか」


「それもホームパーティでは当たり前だったな。あんなバカでかいのが一瞬でなくなるんだぜ。皆食欲旺盛だったな」


 それから俺達は空白の期間を埋めるようにお互いのことを語り合っていた。


「って、もうこんな時間か。まだまだ話したりないな。放課後どっかで駄弁らないか?」


「もちろん。あー、でも俺自転車なんだよな。遼はバス通学だっけ?」


「じゃあどこかで待ち合わせするか。駅前のマッゾわかるか?」


「おぉ、覚えてるよ。日本のマックダァナルゾのハァンヴァ―ガーの味楽しみだ」


「所々で出てくるネイティブの発音ウケるな。じゃあ、四時に店の前集合な。予鈴がなったし教室に戻るか」


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