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六章「真実の愛」8

 花火大会当日。

 俺と遼は待ち合わせ場所で女性陣の到着を待つ。


「おぉ!」


 遼が感嘆した先を見る。

 浴衣を着た三人が歩いてくる。


 やはり最初に目が行くのは七海さん。

 紫色の浴衣に大きな三つ編みをサイドにアップしている。


「似合ってるでしょ?」


 向けられたその言葉は俺にではなく遼との会話を弾ませる。

 桜井さんも加わり楽しそうにこれからの予定で盛り上がる。


「ささ、行きましょ」

「うん」


 七海さんは大和の手を握り先に歩き出す。


「大和すっかり元気になったな」


 ちーちゃんが腕を組んでうんうんと頷く。


「そうだな」

「その代わりにユウ君が元気なくなったな」

「そうだな」


「なんだその腑抜けた態度は。私の浴衣姿を見て元気にはならないのか?」

「ヌンチャク持ってなきゃ素敵だと思うぜ。てか、ヌンチャク柄……。どこから調達したんだ皆の浴衣は」

「旗井さんの妹さんの学校では撮影用の貸衣装も取り扱っているらしいんだ。他にも冠婚葬祭様々な用途の衣装があったぞ」


 先日の和解以来、茜の密着取材は終わった。

 本当は俺に会うための口実ではなかったのかと思う。


「……話は聞いたぞ。他の皆は私が守ってやる。守る強さとやらもいいものだな。力が湧いてくる」


 ちーちゃんはヌンチャクを振り回す。

 通行人が迷惑そうな顔で避けていく。


「頼んだぞ。まぁ、ヌンチャク振り回してる奴がいる集団にナンパはしないと思うがな」

「うむ。まずは腹ごしらえだ。皆に合流するぞ」


 ちーちゃんのヌンチャクに促され歩き出す。


「おい、ユーヤ。あの子供は誰なんだ? まさかトーマの隠し子とか」

「俺の親戚みたいなものだよ」

「一緒に手を繋いで雰囲気いいじゃないかよ。まさかのライバル出現か」


 そのまさかなんだけどな。


「うぅ、結構人がたくさんいるね」

「氷雨はぐれるなよ」


 遼は桜井さんに手を差し伸べる。

 桜井さんは嬉しそうにその手を握る。

 羨ましい。見せつける立場だったんだけどな。

 どこもかしもカップルだらけで溜め息が出る。




 川沿いの土手では出店が立ち並び結構賑わっている。


「わー、大和君何食べる?」


 七海さんはやはり花より団子らしい。


「りんご飴に、綿あめにやきそば。あ、たこ焼きも食べたい!」

「ふふっ、全部食べ切れるの?」


 二人が楽しそうに盛り上がっているのを尻目に俺は携帯の画面を眺めている。

 と、目の前にたこ焼きの入った紙パックが差し出される。


「六個入りだから皆で一つずつ食べようって大和君が」


 七海さんがぶっきらぼうに話しかける。


「そうか」


 俺は爪楊枝にささったたこ焼きを頬張る。


「あっち! はぁーはぁーほぉー」


 冷まさずにそのまま口に入れてしまったため熱さで悶えてしまう。


「ふふっ、何してんのよ。ほら、飲みなさい」


 手渡された瓶のサイダーを口に流し込んでいく。


「ぷはっ、助かった。ありがとう七海さん」


 七海さんは口に手を当ててくすくすと微笑んで話を続ける。


「少し痩せた?」

「ん? あー、そうかもな。あんまり飯食えてないからなぁ」

「ちゃんと三食食べなきゃだめじゃない。あ、明日は何が食べたい?」

「じゃあカレーライスで……」


 話の最中に自分達の現状を思い出す。その様子に七海さんもはっとして俯いてしまう。


「勇也、あのさ……」

「おーい、ユーヤ! 場所取りのブルーシート敷くの手伝ってくれ」

「わかった。今行く」




 土手の斜面に腰を下ろして花火を見上げる俺達。


「ちょうどいい場所があるじゃねーか」

「俺達に座らせろや」


 缶ビール片手にド派手な柄シャツを着たいかにもな二人が俺達の敷いたシートに割って入る。


「なんだ貴様らは」


 ちーちゃんがヌンチャクを構える。


「ひひ、ねーちゃんカッコいいじゃん。アチョーってか」

「まーまー、スペースはまだまだあるしいいじゃねーかよ。この、イカ串余ってるんでどーぞどーぞ」


 遼がニカッと笑ってその場を収めようとしてくれている。

 桜井さんがきゅっと遼の袖を握る。遼はその手を握り締めて引き寄せる。


「話のわかる奴じゃないか」

「そこの美人のおねーさんも一緒に飲まない?」

「私は結構です」


 ぴしゃりと言い放つ七海さん。

 肝が据わってる。


 彼女の反応に狂がそがれたらしくぶつくさと言いながら男は缶ビールを飲む。


 花火に照らし出された七海さんを盗み見る。

 あぁ、やっぱり好きだなぁ。


「っ」


 俺の手に暖かなぬくもりが重なる。

 七海さんは星を見上げながら何事も無いかのように俺の手を握り締める。


 震えていた。

 強気な姿勢はただの見栄っ張りなだけ。

 それが愛おしくも思えるのは七海さんだからだ。

 俺はそっと彼女の頭をなでる。


「にゅでゅへへへ」


 久しぶりな気がする。このだらしのない緩み切った笑顔も。


「七海さん」

「大和君どこ行ってたの?」

「実はあっちに人が居なくて花火が大きく見える場所見つけたんだ。一緒に行こっ」

「それじゃ案内してもらおうかしら」


 大和は七海さんの浴衣の袖を引っ張って去っていく。


「……おい」

「ああ」


 野郎達が立ち上がる。二人の後をついていくようにふらふらと歩き出す。


「ユーヤ」

「わかってる」


 俺は遼の言葉に頷く。


「行ってこい」


 遼に背中を叩かれる。


「頑張ってくださいね」


 桜井さんが優しくポンと背中を押す。


「ホワァター!」


 ちーちゃんから放たれたヌンチャクを片手で受け止める。


「皆の想い受け取った。これは負けられねぇな」


 これが俺の勝負所。

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