六章「真実の愛」6
「おかえり……大事に至らなかった?」
家に帰ると七海さんが心配そうな表情で出迎える。
チャットアプリで事情は説明をしておいた。
「その子は?」
「あぁ、大和って言うんだ。うちでしばらく引き取ることになった」
「そうなんだ。私は旗井 七海って言います。よろしくね大和君」
「……」
七海さんの満面の笑みに対して時が止まったように微動だにしない大和。
「運命の相手だ」
……どっかで聞いたことある台詞だな。
「僕、愛の意味がわかりました」
「ん? いきなりどうした。立ち話もなんだし居間に行こうぜ。それから詳しい話聞くからよ」
「七海さん!」
「なにかな? 大和君」
七海さんは屈んで大和の目線で話を聞く。大和は一歩踏み出し七海さんに抱き着く。
「結婚してください!」
「え?」
「えええええ!! 大和、何を言ってるんだ」
「うっは! 修羅場キター! これこそ密着取材らしい展開っすよ。三角関係とはトーマもやるっすね……決定的証拠を激写ああああーーん! んいいいいー! しゅごいいいいー!」
カメラを構えた茜が飛び出してきたがノールックで七海さんに鷲掴みで潰される。
「大和君」
「はい、なんですか七海さん」
キラキラと曇りなき眼で見つめ返す大和。
「私はね、勇也と結婚してるから君とは結婚できないぁ。ごめんね」
七海さんはいたって冷静に興奮した大和を諭す。
「……わかりました」
納得した様子にほっとする。
茜だけは小さく「ツマンネ」と呟く。
「勇也さんがいるから僕と結婚出来ないんですね。……勇也さん」
「な、なんだ?」
この後の展開が透けて見える……。
「七海さんを賭けて僕と決闘してください!」
ほらな。
この世界の人はいつもこれに辿り着くんだよなぁ。
「大和。七海さんは惚れるほど素敵なのはわかる。だけどな七海さんは俺のものだ。誰にも渡さない」
「も、もう勇也ったら。そんなところも私は好きよ」
「色々あって疲れただろ、今日は休めよ」
大和の肩をぽんと叩き、居間へと向かう。
「逃げるんですか」
「は?」
「勇也さんが勝負から逃げ出すとはね。それじゃあ七海さんは僕のものでいいですよね」
挑発的な視線を送りぎゅっと七海さんに抱き着く。
「これからは僕が勇也さんに変わって七海さんを愛します」
「勝負から逃げ出すかよ。いいだろう受けて立つ。表出ろ。スギコーに行くぞ」
大和では俺の代替にならない。それくらいわかるだろうに。
「小学生のプロポーズに本気で立ち向かう夫。超展開キタコレっすよ」
「ちょっと、勇也ったら」
慌てふためく七海さんを制して俺は外へと出る。
七海さんを渡してたまるかよ。
「シンプルに喧嘩でいいよな。お前が吹っかけてきたんだ。いまさら不公平とか言わないよな」
「言わないですよ」
「勇也本気なの? 大事にならないように話し合いで解決する方法もあるはずよ」
七海さんが俺の腕を引っ張る。
その力は強く咎められているような気がした。
だが、それが俺の気持ち余計火をつける。
「俺にはこういう闘い方しか出来ないもんでな」
「……バカ」
背を向けた七海さんが興奮している大和をなんとか宥めようとする。
「きゃっ」
しゃがみこんだ七海さんを突き飛ばしやがった。
頭に血が昇る。
「おい、始めるぞ」
両者が睨み合う。
茜のカメラのシャッター音が静寂を切り裂く。
俺はファイティングポーズを取り静観する。
「うわぁああー!」
先に動き出したのは大和。
と言ってもどうすればいいかわからず両手を上げて走り出す。
「ふんっ」
俺はその体当たりを真正面で受け止める。
「どうした大和の想いはその程度か」
「このっ、このっ、このっ」
無駄なあがき。
さて、どうしたものか。
勝負にならないのをわかってるくせに負けたくない一心でここまで来てしまった。
心が冷めていく。
えらく俯瞰で物事を見ている自分がいる。
大和を傷物にしたらそれこそ責任を取らなきゃならない。
お母さんと約束しちゃったものなぁ。
「七海さんは僕のものだ」
その台詞についカッとなる。
俺は大和を持ち上げてそのまま放り投げた。
「がっ、はっ」
背中を地面に打ち付けた大和が苦しそうに悶える。
「俺の勝ちだ。七海さんは俺のものだ!」
様子を見ていた七海さんが駆け出してくる。
ははっ、思いっきり抱きしめてやるよ。
「っ!」
両手を広げた俺を通り過ぎる七海さん。
「大和君!? 大丈夫?」
「うぅ……うぅ……」
「七海さん聞いてくれよ。いや、違うんだ。大和なら受け身とれると思って」
パチン。
顔から火が出たような熱さが込み上げる。
「こんな小さい子が咄嗟に出来る訳ないでしょ。何でも自分だけで物事を考えないで」
「七海さんのために闘ったのにどうして俺が殴られなきゃならないんだ……俺は七海さんを守りたくて……どうしてわかってくれないんだ」
「自分自身のためでしょ。独りよがりは止めてよ。私達家族なんだよ……私だって守れてばかりは嫌よ。もっと私を頼って欲しかった。」
頬を伝う涙。俺が彼女を泣かせたのか。
他人事のように心が冷え切っている。
「擦り傷を治療しないと。家に帰りましょう。茜、手伝って」
「了解っす」
七海さんと茜が大和を抱きかかえる。
取り残された俺は独り空を見上げる。
星は何事もなかったかのように変わらずに俺を照らし続ける。




