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六章「真実の愛」5

「自分が二代目藤宮流双節棍。藤宮 千咲である!」


 そんな漢だらけの塾長みたいな言い方してないだろう。

 取材が来るとことでちーちゃんは見るからに浮かれている。


「勇也さんお疲れ様です」

「おー、大和は今日も元気だな」


 兄弟弟子とハイタッチをすると嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「……つまりちーちゃんとユーヤは愛人関係であると」

「ふむ……そういうことになるな。自分はユウ君を愛している」


「変な誤解を生むから止めてくれや。愛人っていっても師弟愛の関係だからな」

「何を言っている。お金が繋がりのただれた関係であろうに」


「でも、そこの愛はあるのでしょう? 愛を育む二人。それは浮気にならないっすか」


 俺とちーちゃんのツーショットの写真を眺めながら首を傾げる。

 と、そこへ大和が手を挙げて近寄ってくる。


「藤宮師匠は僕のことも愛していますか?」

「大和も愛おしい弟子の一人だよ」


「やったー! 僕も師匠を愛してるよ」

「この二人の関係もやましいものに見えるか?」


「それはないっすね」


 俺の質問に大げさな否定のリアクションをする茜。


「思うのは自由ですけど想いは変わるものですからね」

「ちーちゃんの愛はライク、七海さんの愛はラブだと俺は思うぜ。変わりはしないさ」


「勇也さん、同じ愛なのにライクとラブって何が違うんですか?」

「そうだな。大和が母さんと思う愛がライクだ。ラブの方は大和にはまだ早いかな?」


「えー、そうなんですか……」

「あぁ、でもいつかきっとわかる日がくるさ」

「その日のためにまずは特訓だ。今日は取材も来てるし張り切っていくぞ。全員構え。ホァタァー!!」




「三十二……ん?」


 ちーちゃんの視線の先には先代の師範が手招きしている。

 久々に見たな。……引退してもヌンチャクは手放してないみたいだ。


 親子揃ってぶんぶんとヌンチャクを振り回しているが会話聞こえてるのか。

 いや、違うこいつら……ヌンチャクで会話してやがる。


「大和ちょっとこっちに来なさい」

「はい」


 大和が呼び出される。

 俺は残りの弟子の二人と顔を合わせるが誰も状況がわかってないみたいだ。


「嘘だ! そんなの嫌だ!」


 大和の驚いた声が聞こえてくる。


「何かあったのか?」


 さすがに心配になったので駆け寄ると、ちーちゃんが下唇を噛みながら呟く。


「大和の母親が交通事故にあったらしい。詳しい状況はわからないがとにかく病院へ向かおう」

「お母さん……嫌だ……嫌だ。僕が守るって言ったのに」


 放心状態の大和を抱き寄せる。大和は堰を切ったように泣きじゃくる。


「大丈夫だ。大和は強くなりたいんだろ。だったら泣いたら駄目だろ……ちーちゃん俺もついていくよ。茜、悪いが取材はまた今度にしてくれ」

「そんなの言われなくてもっすよ。茜が車出すっすよ。急ぐっす」


 予想だにしないハプニングが起きてしまった。




「茜は駐車場に車回して待ってるっすよ。あまり大人数で行っても迷惑でしょうし」


 案の定、ちーちゃんは危険物所持で警備員に止めらた。そんなの構っていられないので大和と二人で病室を目指す。


「お母さん!」

「大和、どうしてここに?」


 ベッドに座っていた大和の母親が驚いた表情を浮かべる。

 大和は泣きじゃくりながら倒れ込むようにすがりつく。

 良かった。命には別状はなかったみたいだ。


 状況を把握できていない大和の母親が俺に視線を送る。

 簡単な自己紹介と状況説明をする。


「道場の稽古中に事故の連絡を受けまして。急いで駆け付けたんです」

「それはどうもご迷惑をおかけしました」


 聞くところによると信号無視してきた車と正面衝突する大事故であったとのこと。

 奇跡的に大事にはなかったらしいのだが、


「この通り両手を怪我してしまいましてね。しばらく入院が必要みたいで」


 包帯に巻かれた両腕。これでは日常生活がままならないから病院で介護を受けながら安静にしてた方がいいとのことだった。


「でもお母さんが居ない間僕は……どうしよう」


 問題は大和の方だよな。確か母親と二人暮らしだったはず。


「あの、近くに親戚は居ないのですか?」

「前の夫と結婚する時に家族の反対を押し切って逃げるように家を出たものですから絶縁状態でして……」

「そうですか。すみません」


 迂闊だった。空気が更に重くなる。


「どこか施設にでも預ければいいのでしょうが、私の治療費で精一杯でして……。一週間もすれば利き腕は使えるので退院は出来るのですが」


 ふと夢見坂園が頭をよぎる。

 いや、これ以上子供が増えても負担になるだけか。


「一週間くらいなら僕は一人でも大丈夫だよ。お母さんが帰ってくるまで家で一人で暮らすよ」


 声を震わせ、大和が胸に手を当てて微笑む。


「まだ一人で眠れないくせにないを言うの。それに家事だってやったことないじゃない」


 現実問題、小学生が初めての家事をすべてこなすのか不可能だろう。


「僕ね、道場に通って、勇也さんのおかげで強くなれたんだ。何だってできるさ」


 大和はヌンチャクを手に取り振ろうとするが震えが治まらずに上手く握れない。


「大和にはまだ出来ないわよ」


 闘え――

 勝てない現実に必死で闘っている大和と共に。

 負けられないな。


「なら、これから出来るようになればいい。家事を覚えれば今後も大和の母さんを守れる強さにもなるんじゃないか?」


 俺は大和の手を握り締める。


「勇也さん……でもどうすればいいんだろう」

「困った時はいつでも頼れって言ったろが。ウチに来いよ」


「よろしいのですか? 見ず知らずの方にそんなことお願いするなんて」

「僕と勇也さんは兄弟弟子だから家族みたいなものなんだよ」

「お母さんもその方が安心でしょう」


「……わかりました。旗井さん、息子をよろしく願いします」

「約束します。大和を家族として守ります」


 こうして大和は旗井家が預かることになった。


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