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六章「真実の愛」4

「おい、そこのガキ。ちょっと遊ぼうや」

「や、止めてください。誰か助けて」


 大和が二人組の輩に絡まれている。


「お前らも見てないでこっちにこいよ」


 男の一声で会場から悲鳴が起こる。


「待てーい! 自分が来たからにはもう安心だ」


 えらく棒読みの胴着姿の女が飛び込んできた。

 手にはヌンチャク。


「なんだてめー!」

「やっちまうぞ」


 殴り掛かった二人をいなして、華麗なヌンチャク裁きをお見舞いする。

 俺が教えた受け身が役に立っているな。


「ぐ、こいつ」


 怯んだ男はポケットから取り出したピンポン玉を連続で投げつける。


「ほっ、たっ、やぁー!」


 すべて打ち返して開いた口元にすっぽりと収まる。

 わっ、っと会場から笑い声が聞こえる。


「これでもくらえ」


 投げつけたきゅうりを一刀両断する。

 男はその様子を見て逃げ出していく。


「お姉さんありがとう。どうしてお姉さんはそんなに強いの?」

「それはね――藤宮流双節棍道場で修行しているからさ」


「デーン!」 


 銅鑼の声が鳴り渡る。


「僕も強くなる。師匠と呼ばせてください」

「強くなりたいそこの君! 我が道場はいつでも大歓迎だ!」


 会場から拍手が鳴り全員で頭を下げる。 


 スタッフロール――

 暴漢A・B:ヨーチューバ―、大学生

 子供:大和

 師匠:ちーちゃん

 銅鑼:俺


 俺必要だったのだろうか……効果音だけって。もっと他の役をくれよ……。


 俺の案で開催された出張藤宮道場イン夢見坂園。

 ヒーローショーもどきに試合風景やヌンチャクの体験など子供たちに大いにウケた。


「さっそく推進活動に力を入れてくれるとはなさすが愛弟子よ。愛しているぞ」


 うちの愛人は呼べばすぐ飛んできてくれた。

 なんて都合のいい……おっと、なんて敬愛すべき人なのだろう。


「子供達の他にも見に来てる人が結構いたからな、入門してくれる人が増えればいいな」


 今は皆で軽く打ち上げをしている。園長がスイカの差し入れをくれた。


「子供達にも勧めておきますね。本当に旗井さんにはお世話になりっぱなしで何かお返しできればいいんですが」

「ボランティア活動の一環なんで気にしないでください。俺が好きでやってることなんで」


「皆さんおつかれっす。地元のテレビ局も来てくれていい宣伝になったんじゃなっすか? 園で義援金募集している旨も夕方のニュースに入れてくれるみたいっすよ」


「茜も協力してくれてありがとうな。これで子供達は強くなりたいと夢見るだろうな」

「水を差すようで悪いっすけど。男の子はそうかもしれないっすけど、女の子は夢見ますかね?」


「ぐっ、たしかにそうだな。女の子の憧れってなんだ?」

「ヌン……」


 ちーちゃんに視線を送るがこの人は女の子のカテゴリーエラーだった。


「結婚じゃないかしらね」


 園長が頬に手を当ててにこやかに話す。

 今の時代、少し古い考えかもとは言いづれぇ……。


「誰か芸能人とかここで挙式あげてくれれば最高っすね」

「結婚か……僕にはまだよくわかりません」


 首を傾げた大和の頭をガシガシとなでる。


「いつか分かる日が来るさ。結婚はいいぞ」


 そういえば、俺と七海さんってバタバタしてて結婚式って挙げられてなかったな。


「てか、ユーヤとトーマの結婚式挙げればいいんじゃないっすか?」

「俺達が? 金銭面でちょっとまだなぁ」


 結婚式なんてそれこそ夢見るだけの夢物語だ。


「旗井さんでしたら無料で教会をお貸ししますよ。ただし、子供達も見学させてくれるのであればですが」

「衣装でしたら自分が用意しますよ。ウチの専門学校は撮影用の貸衣装も豊富なんでウエディングドレスもあるっすよ」


 園長と茜の期待の視線が向けられる。


「俺としてはむしろお願いしたい所だけど、主役である花嫁の許可が取れたらだな」


 夢物語が現実となってきたな。

 俺もここで夢を見て見たい。




   ◇




 密着取材に限って起きるのが予想だにしないハプニングである。

 とはいえ学生夫婦の二人に何かが起きる訳もなくイチャイチャしている夫婦の絵が撮れるだけ。


 茜の密着取材が一週間経とうとしている。


「家族物の密着取材みたく離婚の危機とか夫の交通事故とかあれば面白いっすけど。何かないっすか?」

「縁起でもないこと言わないの。でもこれで私達夫婦が本物だってわかったでしょ」


「んーまだ証拠と実績が欲しいところっすね。修羅場起こしてくださっす。三角関係とか」

「私達に限ってそんなのありません」


「そうだぞ、俺は七海さん一筋だぞ」

「ういっすユーヤ。お邪魔してるっす」


 夏期講習を終えて家に帰ると、姉妹仲良く三時のおやつを食べていた。


「取材の方は順調なのか?」

「目ぼしい所は取材したのでユーヤのバイト先を取材して終わりにしようと思ってるっす」


 茜は星型クッキーを頬張って味の感想をメモしている。


「トーマの作るお菓子は最高っすね。トーマは意外といい奥さんしてますね」

「あら、茜が褒めてくれるなんて珍しいわね」

「それに比べユーヤはあまりいい夫じゃないっすね」


 七海さんがギロリと睨む。

 びくっとする茜だが取材メモを見ながら淡々と話し始めた。


「あくまで一般論ですけど、夫としては落第点っすね。学業も仕事も意欲的じゃない、稼ぎも悪い、負けず嫌いで非を認めない。将来をあまり見ていない。典型的なダメ夫ですね」


 第三者から見た見た俺の評価。

 はぁ……自覚があるだけに口に出して言われるとちょっとへこむわ。


「でも勇也には私に対する愛があるわ。それだけで十分」

「七海さん……俺も七海さんのことを愛してるよ」


「ユーヤよりもトーマに対する愛が深い人が出てきたらアウトっすよ」

「ぐっ、負けられねぇ」


「ユーヤ、クッキー沢山焼いたからバイトの休憩時間に皆で食べて」

「おっ、サンキュー。四時からバイトだから準備してくるわ。茜も出掛ける準備しておいてくれよ」

「了解っす。弟子のバイトという斬新な仕事に体当たり取材っすよ」


 俺と茜は藤宮の道場へと向かったのだった。



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