六章「真実の愛」3
「着いたっすよ」
「ありがとうな。この山道は自転車だと大変だったかもな」
辿り着いたのは山間部にひっそりと佇む教会。
「こんなところに教会とはね。ボロっちくて雰囲気あるっす」
「うちの学校の親団体が運営する施設らしいぞ。挨拶してくるからちょっと待っててくれ」
事務室に入る。
シスターや神父が出迎えてくれると思ったが、エプロン姿の物腰の柔らかいおばちゃんが出てきた。
「本当にありがとうね。私も歳でね、困っていた所なのよ」
「いえ、これくらいなら実家を直すときにやったことありますから」
どうやら屋根が雨漏りしているので直して欲しいとのことだった。
案内されたのは教会の裏手の寮のような一角。
「なんか手伝うっすか?」
梯子を支えてくれている茜が声を張る。
「いや、俺一人で大丈夫だよ。それより俺の姿ばっちり撮影してくれよ」
学校から借りた工具を使って雨漏りの部分を補修していく。
「雨漏りの補修終わりましたよ」
「ありがとうございます。中で麦茶でも飲んでいってください」
照りつける太陽の元、大量に汗を掻いたのでご厚意に甘える。
廊下には雨漏りのために置かれたバケツが散乱している。
やはり寮なのだろうか。小部屋がたくさんあるみたいだ。
「中の方も大分傷んでる箇所があるみたいですね」
こういうのはやり始めるとあちこちが気になって仕方がない。
「そうなのよね。自分達で直せればいいのですけれど。子供達にも不便を擁してしまって申し訳ないわ」
「俺で良ければ直しますよ。自分の家を直した経験があるんでなんとかできそうなんで」
床が抜け落ちて立ち入り禁止とロープで張られているのを見るとなんとかしてあげたくなる。
「大変助かります。お言葉に甘えてもよろしいでしょうか」
「もちろんですよ。廃材とかってありますか? べニア板みたいなのがあればいいんですが」
「えっと……」
「それなら裏庭にあるよ! こっちこっち」
小学生くらいの子供がぞろぞろとやってきて俺の手を引っ張る。
な、なんだこの子達は?
「俺達の秘密基地だからせんせーには内緒だぞ」
「ああ、約束だ」
俺がグッと親指を立てると男の子も親指を立てる。
奥に隠されていた丸太やタイヤなどのガラクタで出来た場所。見ているだけでもわくわくしてくる。確かにこれは秘密基地だ。
「君達はここに住んでるの?」
一緒に材料を運んでくれている子に話しかける。
「うん! 皆と一緒だよ」
教会にある児童施設。
ベタにそういうことなのだろう。
皆が興味津々といった様子で見守る中、補修を始める。
穴が開いている箇所は塞ぐとして、腐っている箇所も張替えが必要だな。
「俺、手伝うよ」
「私も私も」
秘密基地を案内してくれた子が元気よく手を上げる。
「じゃあ、ここを抑えてくれるかな。うん、そのままだぞ」
「おにーちゃんなにしてるの?」「そのカメラ本物? 私を撮って」「せんせーこの人達だれ?」
その音を聞きつけて更に子供達が集まってきた。
数時間後。
「ゼアァ!」
なぜか俺は教会の壇上でヌンチャクの演舞を披露していた。
「今日は何から何まで本当にありがとうございました」
「いえいえこちらも楽しかったのです」
「取れ高ばっちりっす」
「子供達も夏休みに入って暇を持て余していたのでいい思い出になりました」
せんせーと呼ばれていたおばちゃんはここの園長先生だった。
聞くところによるとやはり身寄りのない子供達の施設。
どうやら一人でここを切り盛りしているらしい。
「昔は楽団を呼んでコンサートを開催したり、ヒーローショーなんてのもやってたんですけどもね、今は財政難で……」
雨漏りの補修も頼めないくらいカツカツなのだろう。
「教会だったら結婚式やって、儲けたりできないんっすか?」
「こんな山奥のオンボロよりは都会の綺麗な式場の方がいいでしょう。人生の大事な式ですからね」
街中でもチャペルウエディングは出来る時代。
式場も併設されてて使い勝手がいいのは事実だ。
「ここは夢見坂園という名前なんです。子供達が苦しい坂道でも夢を見て歩いて行けるように願いが籠っているんですよ。でも子供達に夢を見されられない時点で役目は終わっているのかもしれませんね。愚痴ばかり言ってごめんなさいね。今日はありがとうございました」
園長に見送られ俺達は教会を後にした。
「世の中に負けたって雰囲気だしてたな。あの園長」
「言い方悪いっすけど、園のあの状態だと負の連鎖っすよね。どうにもならないというか」
「夢くらいは見させてやりたいよな。大人として」
「その顔……勝負を仕掛けるっすか?」
「俺のことわかってきたじゃないか。気軽に呼べる愛人を持っているものでな」
我が道場の夢を見せつけてやろうじゃないか。




