六章「真実の愛」2
「つまり、ユーヤは因縁の相手に決闘を挑もうと思ったら結婚を申し込んでいたと」
「言っておくけど後悔はしてないぜ」
「大好きな人と一緒になれる。これ以上の幸せはないわね」
「本当にそれは因縁の相手で間違えないんすか? 証拠は?」
「この右腕の傷が証拠だよ」
「あ……」
声を上げた茜を視線と送ると慌ててカメラを構える。
「私にも勇也につけられた傷があるのは知ってるわよね」
「えっ!? ユーヤに言って無かったっすか。この傷はあああああーー!!」
カメラからひょこっと出た顔にベアークローが伸びる。
「うぎゃああああー! あああああーん」
奇声を上げる点は姉妹なんだなぁと実感する。
「この傷は私と勇也が決闘でついた傷って教えたでしょ?」
「そうでしたね。確かにユーヤとトーマが決闘したという話は有名ですからね。ふーむ、でもそんな因果関係でいきなり結婚しますかね? やっぱり嘘くさい」
「本当よ。役所に言って確認するなりしてもいいわよ」
「茜は記者の端くれ。真実は自分の手で見極めますよ……夏休みの課題の題材が決まったっすね」
「夏休みの課題?」
「自由研究のようなもんっす。自分で取材したことを記事するっす。二人が本当に結婚したのであれば面白いネタですしね。付き合っても無い二人が互いを思い続けて十年越しに結婚する。しかも二人はまだ学生。これほどのドラマは中々起きないっすよ。若者の未婚、晩婚に一石を投じる作品になりそうっす。今後とも二人にはよろしくお願いするっすよ」
「茜、話が見えないわ」
「つまり旗井夫婦に密着取材させて欲しいってことっすよ。二人の愛がどんなものか見せてくださいっす」
「密着取材か。情〇大陸とかプロ〇ェッショナルみたいな感じか」
ちょっとああいうのって憧れるのよな。
色々と名言を出して語りたい。
「はぁ……だから紹介するの嫌だったのよ……すぐ自分の分野に持っていこうとするんだもの。別に秘密している訳じゃないけど、そっとしておいて欲しいわ」
「二十四時間家にお邪魔して二人の私生活や学校生活の邪魔するような無粋な真似はしないっすよ。茜も自分の時間を大切にしたいですし」
「プロ意識に欠けるジャーナリストだな」
「要は二人の夫婦愛が本物かどうか見極めるのと、その愛の形についてわかればいいっす。週に何回かお二人の生活や生き方を取材できればじゅーぶんっす。ユーヤ、トーマ頼むっすよ、一生のお願いっす」
「アンタそれ何回目だと思ってるよの。勇也、どうする?」
「俺達夫婦の愛を疑われてるんだ。言わば茜からの勝負。疑いを晴らす闘いに勝とうぜ」
面白そうじゃないか。ジャーナリストと闘う。負けられねぇな。
「まぁ、勇也がいいって言うなら。茜、ちゃんと私達の言うことは聞いてね。聞かないと……」
「ベアークローっは勘弁っす! 了解っす。よろしくお願いしますっす」
こうして旗井家にあまり密着しない密着取材が始まったのだった。
◇
密着取材。これは茜からの勝負と受け取った。
俺が七海さんと結婚する価値のある人間だと見せつけたい。
「なぁ、遼。生徒会長のお前に折り入ってお願いがある」
「ん? どうした勇也」
食堂で自習をしている遼にすり寄る。
「ボランティア活動を紹介してくれないか?」
「構わんが急にどうした?」
腕を組み半眼を向けてくる。
「俺も一人の大人として社会貢献活動したいという意欲が湧いてきてだな」
「……本当は?」
「成績がやべぇから推薦入試のポイント稼ぎがしたい! って、嵌めやがったな」
「墓穴掘っただけだろ……他には?」
「ちなみに密着取材を受けてていい所を見せたいっていうのもある」
茜とのやりとりを簡潔に説明した。
「茜って斗馬 茜か? トーマの飼い犬でお馴染の」
「そうだけど知ってるのか」
「知ってるも何もお前の昔の遊び仲間だろ。てか、姉より妹と仲良かったしなお前は」
「そうだったけな? あんまり印象に残ってないな」
「ま、いいや。ボランティアの件だけどお前なら力仕事の方が向いているだろ。ちょうど人手がいなくて困ってるのあるから放課後に早速行ってもらえるか」
遼から説明を受けて俺は放課後とある場所を目指すのだった。
「本当に待っててくれたんだな。いいのか? 乗せてもらっても」
密着取材中は茜の車で移動している。取材のお礼ということらしい。
「移動中の車内も貴重な取材時間ですからね。テレビでもよく見るじゃないっすか移動中にインタビュー受けたりするのを」
「仕事の流儀について語る様なことは特にないぜ。強いていえばヌンチャク使えば意外と筋肉痛になる。あ、そうだ。今日は寄る所あるんだよ」
目的地を説明すると車がゆっくりは走り出す。
「友達から聞いたんだけど俺と茜って昔は良く遊んでた?」
「おままごとの家族でしたっすよ。覚えててくれないなんて……でもその冷たさも快感に……はぁ、はぁ」
おままごとの時は『お父さん』とか役名で呼んでたからな誰が何て言う名前かわからなかったんだよな。
てか、俺犬だから暴れまわってるだけだったし。
「トーマの飼い犬ってことは茜も犬役だったりする?」
「我が家はペット一頭までだったじゃないっすか。茜は壁役でしたよ」
「壁って……」
「叩かれたり、本物の犬におしっこかけられたり、それはもう……最高でした」
「マゾっ子め。じゃあなんでトーマの犬扱いされてたんだ」
「トーマの犬って呼ばれ始めたのは、見栄っぱりが関係してるんすよ。トーマの見栄を暴こうとした茜は口封じでベアークローされている間に主従関係が出来てしまって、口答え出来ない体になってしまったっすよ」
「なるほどな。俺はそういう強引な七海さんも好きだけどな」
「……ほんと、トーマには勝てないっすね」
溜息をついた茜は苦笑いを浮かべる。
「取材ってさ、二人の結婚生活とか家での様子をした方がいいんじゃないか?」
「や、茜が取材したいと思ったのはユーヤ自身ですから」
俺に焦点を当てた記事にするということだろうか。
「茜はユーヤを見た時に運命を感じたっす。この人と何か因縁めいたものあるって」
「そりゃどーも。でも、俺の運命の相手は七海さんだったみたいだ」
「言ってくれるじゃないっすか。二人は愛し合っているんっすね」
赤信号で車が停止する。なんとなく窓の景色を眺めていると茜が問いかける。
「もしも本当の運命の人が現れたらその時はどうします? その愛は変わらずにトーマに向きますか?」
「考えたことも無いなぁ。……その時になってみないとわからないな」
「そっすか」
茜はキャップを深く被り直し、車のアクセルを踏み始めた。




