六章「真実の愛」1
七海さんの勉強のお礼の件を尋ねたら妹に俺を紹介したいとのことだった。
家族関係をあまり語らない七海さん。
どんな妹なのだろうか。
「お、こっちだよ。七海さん」
カフェのテラス席で待っていたら七海さんともう一人の女性の姿が。
カーキーのワイドパンツに七分丈のネルシャツにタンクトップ。
被っているキャップも相まってボーイッシュな印象を受ける。
「この子は斗馬 茜。私の一歳下の妹よ」
「どうも。旗井 勇也と申します」
「どもどもっす。いやー、本当にトーマに婚約者がいたっすね。てっきりいつもの見栄だと思ってたっす」
パシャリと首元にぶらさげた一眼レフカメラで撮影する。
深く被ったキャップは邪魔にならないのだろうか。
「こら、茜。断りなく写真撮るのは止めてって言ったでしょ」
「こんなにも茜の取材意欲を駆り立てる題材があるのに止められないっす」
俺達二人を様々な角度で撮影する妹さん。
俺が戸惑っていると七海さんが溜息をついて右腕を彼女の顔面に伸ばしてベアークローをかます。
「ぎゃああああー! ごめんっす!! 顔がぁ、顔がメキメキって鳴っちゃいけない音がするっす」
ギャグ漫画見たいな光景が繰り広げられてる。
十年前も見たことが……あぁ、これを見て皆トーマが化物だって言ってたんだ!
「ああああーん! はぁ……はぁ……いぐぅー!! いっちゃうのー!!!」
「七海さん、妹さん大丈夫? なんかやばそうな声上げてるけど」
「これくらいやらないと反省しないからね」
握り締めた手を離すとよだれを垂らしただらしない顔がお見えする。
「あんっ、茜はトーマの手癖の悪さに快感を覚えちゃってぇ。はぁ、はぁ……」
そういえばベアークローも後半から叫び声が喘ぎ声に変わってたような……。
「だ、大丈夫ですか?」
「茜は妹というよりトーマの犬っす。同じ犬同士よろしくっす。ユーヤ」
「この子は人に変なあだ名付ける天才だから。私のことも昔のあだ名のトーマで呼んでるし、あまり気にしない方がいいわ。」
「な、なるほど。てか、俺は君と違って七海さんの犬って訳じゃあないんだが」
「昔は『東区の狂犬ユーヤ』と恐れられてたじゃないっすか」
「俺のあだ名知ってるってことは妹さんは昔スギコーで一緒に遊んでた?」
「覚えてないっすか……まぁ、一歳違いの姉妹なんて見分けつかなかったのかもしれないっすけど」
キャップのつばを摘まみ口を尖らせる。
確かに比べると結構似てるな。
似てても七海さんの方が断然好みだ。
「茜が色んな人をあだ名で呼ぶからでしょ。本名わからない人多かったわよね。茜が私をトーマってあだ名で呼び始めたのがいつの間にかユーヤ達にも広まったのよね。それにこの子のせいで人が化物みたいな扱いになってるしね」
それは七海さん自身にも問題があるのでは?
片手で成人女性を持ち上げる握力って……。
「あ、それと茜は茜と呼んでっす。歳上だろうとガンガンタメ口でいいっすよ。ドMなんで助かるっす」
「わ、わかった。そうするよ」
なにが助かるんだろう。
「変な奴でごめんね。茜は報道記者を目指してる専門学生なの。この前遊んだ時に左手の薬指の結婚指輪見られちゃってね。結婚したって言っても信じてくれなくてね。こんな感じだから茜が結婚相手を紹介して欲しいって言ってきたって訳よ」
「それで俺がここに呼び出されたという訳か」
「茜は偽装結婚だと思ってます。お金を払ってレンタル彼氏でも雇っているのではないかと睨んでます」
「私達は誰が言おうと夫婦よ。なんだったらここでセッ〇スしてもいいわよ!」
出た。見栄っ張り。
さすがにこんなお洒落なカフェテラスでは出来んわ。
てか、まだしたことないだろ。
「七海さん落ち着いて。さすがにそれは厳しんじゃないかな」
「ふむふむ……それは別料金になるとことですかね」
茜は手にしたメモ帳に万年筆ですらすらとミミズのような文字を書いていく。
「勇也、いくら払えば私とやってくれるの!?」
「そういう問題じゃなから!」
「トーマは昔っから見栄っ張りですからね。大それた見栄を張っては体を張って無茶をするの繰り返しでしたよ。トーマの見栄を暴くために記者を目指したと言っても過言ではないっす。今回も実は結婚じゃなくて決闘するはずだったっていうオチじゃないかと睨んでたんっすよね」
「ははは……」
苦笑いしか出てこねえよ。
さすが記者目指してるだけあって鋭いな。
「茜。これを見てくれよ、俺も七海さんと同じ結婚指輪してるだろ。俺からプレゼントしたんだ」
なんか俺達の結婚が疑われてるのがむっときて七海さんと手を合わせて結婚指輪を見せつける。
「その絵面いいっすね。芸能人の結婚報道みたく二人とも左手をかざしてくださいよ」
七海さんに視線を送ると首を横に振りやれやれといった表情をする。
「いいじゃん。七海さん。悪いことじゃないし仲良し夫婦のアピールしようよ。これで少しは信じてくれるんじゃないかな」
「勇也が言うなら仕方がないわね。ほら、茜早くして」
「ユーヤに感謝っす。うっは、シャッタチャーンス」
それから俺達は茜に出会いから今までを根ほり葉ほり質問を受けた。




