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五章「夏の思い出」3

 遼の仕切りと合図で勉強会が始まった。

 俺の隣に座っていた七海さんが椅子を寄せて距離を詰める。


「理数系は実は暗記科目なの。公式をひたすらといて応用するだけ。簡単でしょ」

「なるほどな」


「……」

「……」


「え?」

「え?」


「教えてくれないの?」

「教えたじゃないの!」


「え?」

「え?」


「えぇ……」

「ん」


 早く解けや、みたいな視線を送る七海さん。

 この人もしかしてわからない人の気持ちがわからないタイプの天才か。


「七海さん家庭教師のバイト上手く出来てる?」

「何故か毎回生徒が変わるのよね。なぜかしら?」


 クビにならないだけマシなのかもしれない。


 俺は無言でひたすら基礎公式を解いた。


「……」


 七海さんにじっと見つめられながら勉強は妙な緊張感を醸し出している。


「ぁ」


 間違うと眉間の皺が寄って恐い。


「ここがわからないんだけど……」

「しょうがないわね。ここはね……」


 おっぱいを よせてくるよ ありがとう


 どうでもいいエロ五七五が頭を占領する。


 教えてくれるときは身を寄せておっぱいを押し付けながら教えてくれるので全然頭に入らないの。


「なるほど、わかったぞ。教えてくれてありがとうな」

「んほぉぉー! なでなでしゅきー!」

「うおっ、なんだ!?」


 遼達が驚いた表情で視線を向ける。やべ。いつもの感じで頭をなでてしまった。 


「……こほん。ここのなで肩の式はね」


 それで誤魔化せてるか。

 なんだよ、なで肩の式って二次関数だろ……。


「トーマの高校時代ってどういう感じだったですか?」

「私? 私は取り立てるような学生じゃなかったわよ。理系クラスだったんだけど、女の子が圧倒的に少なくてね遊び相手が少なくて勉強漬けだったなぁ。だからこうして勉強会も初めてで、なんか青春してるなーって感じで楽しいわ」


「理系で思い出した。白衣! 白衣着て! 白衣着た七海先生に勉強教えて貰いたいぜ」

「えー、いきなりね」


「約束したじゃんかよ」

「おっ、いいね。俺も見たいっすね」

「私も気になります」


「し、仕方ないわね。少し待っててね」


 十分後。


「お待たせ」


 白衣を着た七海さん。

 ポケットに手を突っ込む姿勢が様になっている。

 ご丁寧に眼鏡まで掛けてくれた。


「おお! インテリ七海さん!」


 ミニスカ白衣。

 なんだろ。そこはかとなくエロスを感じる。


「くっ、自分も胴着を着てくればよかった」


 何で張り合おうとしてるんだよ。


「理科の先生っぽいですね。旗井さんは大学で白衣を着るってことは何か実験をするのですか」

「薬品や動物のサンプルを使うこともあるからね。まぁ、私達は実験というよりは観測データの解析や実際の観測、理論計算してるわ。」


「じゃあさ、天文学的確率って物凄いラッキーって聞くけどあれって実際どれくらいのもんなんだ?」

「意味としては宇宙に生命が居る確率は少ないという比喩表現なのよね。分母の数が星の数ほどあると言えば正しいのかしら」


 七海さんが好きなものを語るときって目が星になって饒舌になるよな。


「ほぼ無理ゲーって言っているようなものだってのはわかるぜ」

「まぁ、勇也がテストでいい点を取るのは百パーと言えるわね。なにせこの私が教えてあげてるからね」


 眼鏡くいっとしてにんまりと笑顔を浮かべる。

 確かに七海さんの白衣姿はやる気スイッチを連打で押してくれた。




 二時間後。確かに基礎は覚えた。教えて貰ったというよりも努力の割合が大きいが。

 休憩を挟んで講師陣の交代となった。


「え?」

「え?」


 向こうで繰り返される悲劇。


「これも修行だと思えば」

「その意気よ」


 体育会系の二人はノリだけは合うようだ。


 それに比べこっちは。


「この漢文はここから読めば意味が解って、次の文に繋がりますよ」

「それでテストでは選択肢が消去法で答えが出るってわけだ。ここの問題は穴埋めで出ることがあるからさっき氷雨が教えてくれた変換活用を使って……」


 こっちの講師陣は生徒の立場に立って教えてくれる。

 しかもテスト対策の秘訣まで教えてくれる。


 こうして半日費やしてテスト対策の勉強会は終わった。


「みんなお疲れ様。夕ご飯食べていってね」


 白衣からエプロンに着替えて台所に立つ七海さん。


「マジすか。ごちになります」

「ありがとうございます。お母さんに夕ご飯はいらないって電話してくるね」

「自分もいただくとするぞ」


 七海さん得意料理のカレーライスを皆で食べてその日は解散になった。


「こうやってこの五人で集まれるのも今年が最後かもしれないよな」


 帰り際、玄関先で遼の発した一言。

 確かに来年の今頃はどうなっているかは誰もわからない。


「それならさ、皆で思い出作らない? 月末の花火大会この五人で観に行きたいわ」


 そういえば毎年、大きな花火大会が近所で行われるだっけな。

 宵宮も開催されてちょっとしたお祭り気分も味わえる。


「いいですね。人ごみはちょっと苦手ですけど遼先輩との夏休み満喫したい」

「愛人として弟子との愛を深めなければな」


 七海さんの提案に女性陣は賛同する。

 俺と遼は顔を見合わせて頷く。


「女子は全員浴衣着てくれよ。特に七海さんはマストで」

「もちろんよ。氷雨ちゃん、藤宮さんの分も用意しておくわ」

「ありがとうございます。わぁ、浴衣着るの初めてだなぁ」

「ヌンチャク柄を所望する」

「決まりだな。気分良く花火観るためにまずは二人に補習を合格してもらわなきゃな」


 こりゃ、補習なんかに負けてられない。




   ◇




 それから一週間後。


「どうだったちーちゃん?」

「見事に合格したぞ」

「良かったな。俺も勝ったぜ」


 お互いテストの結果を見せ合って喜び合う。


 勉強の成果があってか、俺とちーちゃんは無事に補習のテストを合格したのだった。


「自分は就職組なので講習は受けないので学生生活最後の夏休みを満喫する。あーもう、勉強はこりごり」

「俺は今回で勉強の大事さを知ったぜ。これからに備えて真面目に勉強するよ」


 練習した分だけ力になる。勉強も面白さを知った。

 俺はまだまだ強くなれる。


「ただし八月からな! 七月は遊ぶぜぇ!!」

「知だけではなく武も強くならねばな。道場でまた稽古つけてあげるぞ愛弟子よ」


 ヌンチャクをぶんぶん振り回して去っていく師匠。


 チャットアプリで七海さんにも合格を連絡をして俺は学食に向かうのだった。


「ユーヤと藤宮のテストの結果はどうだった?」


 自習をしていた遼と桜井さん合流する。


「今日こそ合格出来た。遼と桜井さんのおかげだよ」

「やったな。理系科目に関してはほぼお前の努力だよ」

「おめでとうございます」


 パチパチと拍手を貰う。


「合格のお礼だ。今日は俺が昼を奢るよ」

「それじゃあ、かけそばのトッピング全部乗せやってみようぜ」


「おいおい、勘弁してくれよ」

「ふふっ、三人で食べればなんとかなりますって」

「桜井さんも乗り気なのか。よっしゃ挑戦するか」


 帰ったら七海さんにもなにかお礼しないとな。


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