四章「愛の行方」8
ふと、意識が戻る。空から戻ってこれたみたいだ。
「あ、ようやく起きた」
見上げる視線の先には七海さんの顔。
その前に広がる大きなおっぱい。
「一番星を俺は手に入れる」
「あん……ちょっと、強すぎもっと優しくしてへへへっへえへ」
俺に触られて嬉しい反面、エッチな気持ちになっている表情を七海さん。やわらけー。
「ははは……なんだその二人の甘い空気は……敵わないな」
お星さま、じゃなかった藤宮が呆れたように笑顔を浮かべる。
「武道家としてではなく女の弱点をついてくるとはね。ユウ君、君は強いな。勝てないよ」
「俺は強いからな。はっはっはっはー」
なんかわからんがちーちゃんとの決闘に勝ったらしい。
「トーマ、いや、旗井さん。参りました。自分の負けです」
潔く頭を下げるちーちゃん。
「藤宮さん……」
「ただし今回は、ですからね。次は勝ちます」
「ふふっ、望む所よ」
二人は握手をして笑い合うのだった。
◇
色々とあったキャンプの帰りの車内。
運転している七海さんの左手薬指の指輪に思わずニヤニヤしてしまう。
「七海さん、愛してるよ」
運転中の真面目な顔をしている七海さんの頭をなでる。
「うしょひょおおほほい! しゅきー!」
「愛とは強いものなんだな。自分はその強さが欲しくなったよ」
後部座席に乗り込んでいたちーちゃんが身を乗り出す。
「はぁ……自分はこんなにもユウ君を愛しているのにな。君を強くしたくて仕方がない」
「ちーちゃんが抱いている愛は師弟愛だ。履き違えるなよ」
「それでも愛に変わりはないのだろう? 二人の愛とは違うのは承知だよ」
「そもそもお金で繋がっているだけだからな」
「まるで都合の良い愛人関係みたい……そうだ、自分はユウ君の愛人になる」
「はぁ?」
「自分がユウ君に愛を捧げるのは自由でしょ。愛が自分を強くしてくれる。それが今の自分を支えている原動力だと気づいた。ユウ君愛してる。さっそく稽古に励むぞ!」
「うぉ、車の中でヌンチャクぶん回すなよ」
「勇也、浮気は許さないから」
前見て運転して! ハンドル強く握りしめすぎてエアバッグ出てんじゃん!
「だ、大丈夫だって俺は七海さん一筋だから」
「自分らが愛せばユウ君は愛に応えてくれる。あぁ、美しき師弟愛」
結婚を申し込んだ相手の決闘を阻止したら愛人になった。
こうして俺と藤宮は師弟愛で結ばれた愛人関係となったのだ。
◇
「おっす、ちーちゃん」
週明けの月曜日。いつもの時間にスギコーで待っていた。
「おはよう、ユウ君」
ちーちゃんは熊探しを諦めてくれた。
あの夜――ちーちゃんの愛人宣言を俺なりに受け止め考えた。
ちーちゃんは愛し、愛されたいのだ。
そこに恋愛感情があるのかは……正直見えないというのが俺の主観だ。
もし、そこに『恋愛』があるのであればきっぱりと関係性を断つべきだとも思った。
だが、今の師弟愛は失くしたくない。
七海さんにこの想いを正直に打ち明けたら、『ユーヤの信じたものを信じるわ。それが妻の役目ですもの』と笑って見せてくれた。
ならば、俺は俺の信じた道を進むだけだ。
「ほら、ぼさっとしてると置いていくぞ。師匠……ちーちゃん」
「師匠を置いていく弟子がいるか。自分が先行する! 援護しろ、ホアタァー!!」
俺と七海さんの愛は家族愛へと形を変えた。
関係性が変わらない愛だってきっとあるはず。
それも一つの愛だと信じて。




