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四章「愛の行方」7

「つまり熊を追い求めて山々を歩いてたら隣の県まで来てしまったと」

「うむ。そういうことになるな。っあち、ふーふー」


 焚火で温めたインスタントのカフェオレを口にする猫舌なちーちゃん。

 冷ますためにぶん回すヌンチャク。


「して、ユウ君はどうしてここに居るのだ?」

「俺達はキャンプだ」

「プロ野球選手がシーズン前にやるヤツか。なんだユウ君もやる気に満ち溢れているじゃないか」

「違うわ! 俺は七海さんと天体観測に来ただけで」

「七海さん?」


 訝し気な視線を送るちーちゃん


「初めまして。勇也の妻の旗井 七海と申します」

「妻だと。なっ、ユウ君結婚していたのか!?」

「言うタイミングなくてだな……四月にトーマ、七海さんと結婚したんだ」


 西区の化物って恐れられていたけどトーマって俺と決闘するまでそこまで有名人じゃなかったはず。

 俺と決闘して噂が流れ始めたんだよな。

 まるでトーマが自分を存在を俺に知らしめるためにも思える。


「トーマ……確かユウ君はトーマを倒したくて入門し、自分に弟子入りしたのではないのか」

「そうだった。でも今は違うんだ」

「……」


 腕組みをして目を閉じるちーちゃん。


「絆されたか……」

「まぁ、そういうことになるかな。因縁よりも運命を感じたんだ」


「トーマを倒すのがユウ君は強さを求めた。そのために強さを手にしてきたのだろう」

「そうなんだけどさ、何て言ったらいいのかな……好きになっちゃったんだ。色々なしがらみとか理屈なんてどうでも良くなるほどに俺は七海さんを愛している」

「やっぱり勇也は運命の相手ね。私達は愛し合っているもの」


 ふふんと、自信たっぷりの表情を浮かべる七海さん。


「愛し合っている……? 愛の強さなら私の方があるぞ」

「へ?」

「ユウ君と自分らは愛し合っている絆があるじゃないか」


「いや、俺らの場合は師弟愛であってだな。そもそもちーちゃんって俺のこと好きか?」

「全くだ。だが愛している。それは愛には変わりがないのだろう。なら自分と結婚するべきではないのか」


 どう説明したらいいかわからず押し黙っているとちーちゃんが再び言葉を紡ぐ。


「ではなぜ。今も強さを求める? ユウ君が強さを求めるから私は愛しているというのに」

「七海さんのためだよ」


 彼女を、家族を守れる強さが欲しくなった。


「堂々巡りだな。不甲斐ない弟子の尻拭いをするとするか。それが私の、師匠としての責任だ」

「責任……」


 遠い遠い記憶が蘇る――あれは俺が道場に通い始めた頃。


 トーマにやられ、女の子にも敵わない弱かった俺。


『藤宮、俺を弟子にしてくれ!』

『自分が旗井の師匠になってやる』


 俺は強くなりたくて、自分より強い女の子に弟子入りをした。

 どんな手を使ってでもトーマを倒したかったから。


『もし、旗井がトーマを倒せなかったら、師匠の私が倒す。それが私の師匠としての責任だ』

『約束だぞ。頼むぜ、藤宮』


 上から目線の自分の利益しか考えてないクソガキの我がまま。


『父が言っていたんだ。師匠と弟子の間には愛があると。ならば愛称というので呼び合おう。ユウ君。自分のことはちーちゃんと呼んでくれ』

『わかったぜ、ちーちゃん』


 もしかしてヌンチャクを常に持ち歩いてる理由って。


『もし、ユウ君がトーマを倒せなかった時のために、自分はいつでもトーマを闘ってもいい様にヌンチャクをずっと持ってるぞ』


 ちーちゃんをヌンチャク狂人に。人の人生を歪めてしまった。


「思い出したか。熊よりも目の前に倒すべき相手がいるじゃないか。我が宿命の相手!」

「……ねぇ、ユーヤ。もしかして私ピンチ? なんかこの人構え始めたけど」


「トーマ! 貴様に決闘を申し込む!」


「はぁ、やっぱりこうなるのね……せめてお手柔らかにしてほしいわ」


 ちーちゃんはヌンチャクを構え、七海さんは拳を握る。


「「……」」


 対峙した二人は沈黙を貫いている。


「ホアタァー!」


 ちーちゃんが一歩踏み出して、一振りを放つ。


「やぁあああー!」


 七海さんがカウンターで拳を突き出す。


「ちょっと待ったぁあああー!! 決闘なんてさせるかよ。ぐぼぉあ、げふっ……いってぇ」


 俺は二人の間に大の字で立ちはだかる。

 そして、二人の攻撃を体で受け止める。

 あまりの衝撃でその場に腹を抱えて倒れ込む。


「勇也!? 何してるの!? 危ないから下がってて。この人理屈でどうにかなる人じゃないよ」

「ユウ君邪魔だ。自分はトーマに用があるんだ」


 藤宮が無様にはいつくばっている俺の横を通り過ぎる。


「ちーちゃん……待ってくれ」


 出せる力を振り絞ってなんとか立ち上がる。


「これは俺の人生だ。俺が決める権利がある」


 俺は七海さんに背を向けて師匠と向き合う。


「ユウ君……」

「すみませんでしたー!!」


 地面に頭突きをする勢いで土下座をする。


「ユウ君……どういうつもりだ」


「俺が弱いのを盾にその場の勢いで貴方の人生を捻じ曲げてしまうような身勝手な発言をしてすみませんでした!」

「ユウ君の言葉によって私の人生が変わったのは事実だ。でも選んだのは自分自身だ。だからこれからも自分で決める」


 俺の存在を無視して歩き出す。


「行かせるか……行かせるかよ!」

 俺はちーちゃんの足首にしがみつく。


「離せ! 人の決闘を邪魔して」

「ぐっ」


 ヌンチャクで何度も叩かれる。意識が遠のきかけたが必死で食らいつく。


「約束したんだ。七海さんを、家族を一生守り続けると……俺が、俺が七海さんを守るんだ」


 端から勝てない相手だとしても立ち向かわなければならない時なんだ。


「だから俺は七海さんに結婚を申し込んだんだ」

「そんな……自分は闘うことすら許されないのか」

「いや、これは俺とちーちゃんの決闘だ。……絶対に負けない」


 それでも、それでも俺はがむしゃらにちーちゃんの足にしがみつく。


「離せ馬鹿者」


 ヌンチャクで何度も何度も殴られる。競技用でも本気で殴られると痛い。


「離さない」

「いや……あの、本当に離して……胴着が」

「負けるかよ!」


 意識が飛びそうになり俺は拳に力を込めて握り締める。すかっと軽い感触がして藤宮が倒れ込む。


「きゃっ」


 朦朧とする眼前に広がる白い景色。


「あれ? こんなところに天の川が。星がたくさんあるぞ」

「いや……息を吹きかけないでほしい」


「勇也、そういうのは私だけにしなさいよ!」

「いでででで」


 七海さんの馬鹿力で耳を引っ張られる。


「ん?」


 時が止まる。

 状況整理しよう。

 股を広げて座り込むちーちゃん。

 胴着がずりさがって白いおパンツが丸見え。カラフルな星柄まではっきり見える。


 どうやら俺はやらかしたみたいだな。


 時を戻そう。


「ワァーオ、スターライトパレード」

「「黙れ変態!」」


 二人のコンビネーションアタックで俺の意識は天へと駆け上ったのだった。あ、織姫さん、彦星さんちぃーす。


 

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