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四章「愛の行方」6

 キャンプ場内にはシャワールームも完備しており汗を掻いた体を洗い流せてさっぱりした。

 午後九時過ぎ。辺りはすっかり真っ暗になった。焚火も鎮火したので手元のカンテラの光だけが頼りだ。


 チェアの背もたれに寄っかかって夜空を見上げる。


「うお、すげぇ」


 満点の空に輝く星々。大小さまざな光が夜空に煌めく。


「楽しんでる?」


 シャワーから上がった七海さんが飲み物を片手に隣に座る。


「家で見る星とはまた違う景色だな」

「他に光源がないからはっきりと見えるのよ。都会の喧騒から解放されてたー! って感じね」


 背伸びをして星を眺める七海さん。


「湖を見て。星の光が湖面に反射してる。とても素敵」

「おぉ、本当だ」


 星の光の粒が水面に反射している。

 幻想的で映画のワンシーンみたいだ。


「星はいつでも傍に居るんだよ。人が気づいていないだけでさ。優しく照らしてくれて自分の居場所はここだよって教えてくれるんだ」

「そっか。なるほどな……俺も七海さんに会うまで空を見上げることを忘れていたよ。ずっと俺を照らしつづけてくれていたんだな」

「私もずっと傍に居るからね。ぢゅふふふふ」


 ぎゅっと手を握る七海さん。いいこと言ったのに緩み切った笑顔で台無しだ。


「俺もずっと傍に居るよ」

「ふふっ、ありがとう。ここで勇也に質問。一番身近な星って何だと思う?」

「えぇ、難しいな。俺あんまり星に詳しくないからわかんないぞ」

「答えは簡単よ。地球よ」


「地球?」

「探すのも簡単だし、誰だってわかる星でしょ?」

「なるほどな。星はとても身近にあるんだな」


 しばらく無言で空を見上げる。虫や鳥の鳴き声だけが響き渡る。


「無心になって見ているつもりが色々と別のこと考えてしまうな」

「それでいいのよ。これは遊びなんだからルールなんて無いのだから。自由に感じて、自分と向き合う時間だって大切よ」

「大人な時間だな」

「かもね」


 俺は大人になれているだろうか。自問自答をするが答えはわからない。

 遼や桜井さんの様に恋人以上の関係を築いている。


 だけど家計を一人で支えられるほど立派じゃない。

 師匠に教えを乞うほど未熟なちっぽけな人間。


 俺は……。


「七海さん!」

「わっ、いきなり大きな声だしてどうしたの?」


 彼女の両肩に手を乗せる。

 緊張感が伝わったのか真剣な表情をしている。


「これ……プレゼント」


 小さな箱を手渡す。


「どうしたの急に?」

「開けてみて」


「うん……これは指輪? 同じのが二つってことは……」

「そう。結婚指輪。俺達結婚したのに指輪買ってなかったからさ。バイト初めて三か月良く三か月分給料が相場っていうけど、俺の稼ぎじゃあ大したの用意出来なくて……それでも七海さんを想っての精一杯の気持ち……受け取ってください!」


「……」


 ……あれ? 無反応。

 薄暗くて良く表情が伺えない。


「ぐすっ」


 鼻を啜る音が聞こえる。


「……ねぇ、せっかくなら勇也が私に指輪をはめてよ」


 星明りに照らし出された涙が頬を伝う。

 七海さんは頬を拭って左手を差し出す。

 俺はその薬指に指輪をはめる。


「これで本当に勇也のお嫁さんになれたかもね」

「そうだといいな」


 七海さんはもう一つの指輪を俺の左手薬指にはめてくれる。


「誓いのキスをしましょう」

「ここで、か?」

「誰も見ていないわよ。皆星空を見てるんだから」

「それもそうか」


 星々が巡り合う元で俺達は誓いのキスを重ねるのだった。




「そろそろ望遠鏡で天の川を見て見ようかしら」

「待ってました」


 七海さんは立ち上がり、車から天体望遠鏡を持ってきた。


「見て、勇也。これが天の川よ」


 レンズを覗くと夜空を横切る雲上の光の帯。


「へえ、本当に川みたいだな。どこまでも続いてる」

「海外ではミルキーウェイって呼ばれてるらしいわよ」

「聞いたことあるぞ。天の川って意味だったんだ。ミルキーウェイだったら眺めてた記憶もあるし」

「私達同じ星を昔も今もこうして一緒に見ている。不思議な感覚ね」


 七海さんが俺の肩に頭を預ける。


「へへへっうへ」とにやけ笑いが聞こえる。


「織姫と彦星はどれなんだ?」


 一年振りに出合った二人はこのあと無茶苦茶するのだろうか。


「織姫はこと座のベガで彦星はわし座のアルタイル。実際は交わることはないのよ」

「へぇ……そうなんだ」

「ちょっとがっかりした?」

「いや……その代わりに僕らが交わればいいんだからさ」


 七海さんの肩を抱き寄せる。


「うふふふふほほっーい。こ、このままどこか暗い所で……初めてがお外で勇也もかなり上級者ね」


 七海さんは奥にある真っ暗な木陰を指さす。


「いやいやいやそんなつもりは。ん? なんだ」


 改めて注視すると違和感を覚える。


「あれ? ねぇ、勇也。あそこなにか動いてない?」

「そうだよな……しかもなにか音が聞こえないか、シュッ、シューって」


 鳴き声なのか何か風を切り裂くような音が聞こえてくる。


「まさか……熊?」


 七海さんの一声にお互い体を硬直する。


「ま、まさかぁ。だって、ここじゃあ出ないって……」

「しっ、なんか近づいてきてない?」


 さっきより音が大きくなった気がする。


「七海さんは下がってて」


 拳を構えて臨戦態勢に入る。

 闘うつもりはないが七海さんを逃がす時間くらいは稼ぐつもりだ。


「勇也、危ないわ!」

「おい、出て来いよ! 熊め」


「熊だとー!? どこだ!」


 草むらから飛び出てきたのは小さな人影。


「ん……ヌンチャクを振り回している、ってことはちーちゃんか!?」


 藤宮 千咲。ある意味クマよりも危険な生き物。


 クマ狩りの危険な修行に出たはずの修行が安全なオートキャンプ場にあらわれた。


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