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四章「愛の行方」2

 新婚生活は円満でゴールデンウィークも夫婦で遊びまくった。


 その結果、


「……え、もうこれしかお金ないの?」


 我が家の家計が火の車となっていた。

 バイトをしよう。


 俺も一家の大黒柱。家計を支えるために、二人の未来のために稼がなくては。


「という訳でバイトを探している訳なのだが。募集条件が高校生可ってのがそもそも少ないな」


 昼休み。学食でバイト情報誌を広げながら愚痴る。


「コンビニのバイトは? 長時間働けるし時給結構いいぞ」


 焼うどんをすする遼の提案に微妙な反応をする。


「うーん、七海さんとの時間も大事にしたいから長時間はちょっと……出来れば学校終わりに三~四時間くらいのがいいな。あと自由が程よくあるほうがいいな」

「そんな都合のいいバイトあるかよ」

「なんかコネとかないのか、生徒会長」

「ボランティア活動ならいくらでも斡旋できるんだがなぁ。てか、生徒会長の立場としては学生の本分である勉強を優先して欲しいのだが」


 遼が説教じみたことを言うので話半分で聞いていると、ヌンチャクが視界に入ってくる。


「はいっ! 自分、ユウ君にバイト紹介出来るよ。しかもユウ君のご要望が叶えます」


 ちーちゃんが意気揚々と手を挙げて話に加わる。


「マジか! 時給はいいのか?」

「ちなみに経験者優遇だ。ユウ君なら大歓迎さ」


 ん? 経験者優遇? 

 俺の経験というと通訳とか英会話塾のアシスタントとかだろうか。


「どんな仕事でも喜んでやるよ。紹介してくれ」

「了解。では放課後に一緒にバイト先へ向かうぞ」




 履歴書を持ってちーちゃんの後をついていく。


 面接対策はばっちりだし、知人の紹介ならまず落とされることはないだろう。


「あれ? ここってちーちゃんの家じゃないか?」

「そうだ。ちょっと待っててくれ」


 裏手に周り、物置から何やら持ってきた。


「よっと。ふー、けほっけほっ」


 ちーちゃんは持ってきた板を掲げて埃を払う。

 藤宮流双節棍道場――かつて通っていて今は休館した道場である。


「なぁ、いまいち話が見えんのだが。バイト紹介してくれないなら俺、帰るぞ」


 自転車を漕ぎ出そうとすると足をヌンチャクで止めるちーちゃん。


「この度自分は、父から免許皆伝をもらい、二代目師範代として看板を掲げることになったのだ」


 ちーちゃんは薄い胸を張って腰に手を当てる。


「あぁ、もしかして道場のアシスタントかなんかか。だから経験者優遇なのか」

「ユウ君には自分の道場の門下生のアルバイトをしてもらうよ」

「へ? 門下生のアルバイト?」


 ……聞きなれないワードだな。俺が知らないだけで日本ではよくある職種なのか?


「道場として認められるには最低一人でも門下生がいないと看板を掲げられないの。このご時世、募集してもわざわざ月謝を払って習いたい人はいないのはわかってる。だから門下生としてバイトを雇ってこちらが月謝を払う。つまり、師匠の私がお金を払って弟子のユウ君に稽古をつける。それがユウ君のバイトってこと」

「それってバイトって言うのか? いや、仕事を選んでられない立場だけどさ」


 師匠が弟子に月謝払うって斬新だな。


「週に三~四回、放課後に何時間か稽古受けてくれればいいからさ。月謝は弾むよ」

「ちーちゃん……師匠にはメリットあるのか?」

「道場を継ぐのが自分の夢。ユウ君が自分の夢を叶えてくれるってだけでも自分にはありがたいくらいだよ」

「……そっか。昔から言ってたもんな」


 夢と言われれば断りづらい。むしろ応援したくなる。


「それにこの前ユウ君に教えたのが楽しくてね。これが自分のやりたい仕事だと確信したんだ。師範代としてゆくゆくは門下生を増やして道場を復興させたい」


 俺も打倒トーマを夢見てちーちゃんには色々と世話になったしな。


 自分の体を鍛えられてその上バイト代まで貰えるとか。七海さんと何か勝負事になったときに勝てる確率が大きくなるかもしれないし悪い話ではない。


「卒業後の進路が少し早まったと思えばそれまでだし。また一から門下生を探すのも大変なんだよ。どうかな? ユウ君」

「それならよろしくお願いします。師匠!」


 ガッチリと握手を交わす。


「よくぞ言った愛弟子よ! まずは道場の雑巾掛けからだ!」


 こうして二代目藤宮流双節棍の門下生としてバイトは始まったのだった。




  ◇




「よっ、ほっ、はっ」


 自宅へ帰り、藤宮から貰った誕プレヌンチャクを振るう。


 ラバー素材なので体にぺちぺち当たってもそんな痛くない。


「っふ」


 師匠の教えを思い出しながら縦横に捌いていく。


「ゼアァ!」


 一撃を打ち下ろし刀を鞘に納めるが如くヌンチャクを脇で抑える。

 この瞬間キメ顔をしたくなるのはなぜだろうか。


「……何しているの?」

「おわっ! 七海さん居たなら声掛けてくれよ」


 家庭教師のバイトから帰ってきた七海さんが訝し気な視線を送っていた。


「バイトが無事決まってさ。今はバイトの練習中」

「はぁ……?」


 訝しがる七海さんに経緯を説明する。


「ふーん……つまり女の子と二人っきりでレクチャー受けるんだ」


 つまらなそうに口を尖らせる七海さん。


「七海さんの家庭教師のバイトとそんなに変わらないって。相手はヌンチャクが恋人だって言ってるような奇人だし、所詮は金でしか繋がってない関係だから。なによりも俺は七海さん一筋だから」


 頭をなでなでしてご機嫌を取りに行く。


「うっひょひょひょー! にゅへへへ、わかった信じてるから」


 チョロイン七海さんはいつも通りだった。

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