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一章「運命の出会い」2

 斗馬(とうま) 七海(ななみ)


 それが彼女の名前。


 男の名前だと思ってたトーマとは名字だったとは。


「はい、ブラックで良かったか?」


 自販機で暖かい飲み物を購入してベンチに座る。


「ありがとう。お金は払うわ」


 俺の隣に腰を下ろすトーマ。ショルダーバッグから財布を取り出そうとする手を制する。


「これくらい奢るよ」


「優しいいいいいいー! 気安く触らないでぇ。惚れてるんだからテンションあがるのよぉぉぉおっぉ!」


「え?」


 触れた掌を離すと元の表情に。


 ……なんか肌が触れ合うとテンション爆上がりするなこの人。


「てか、惚れてる!?」


「あ、しまった」


 口元に手を当ててはっとするトーマ。


「そ、そんな訳ないでしょ。私と君は喧嘩相手、憎しみあううううーーーー!!! しゅきーー!! だいしゅきーなの!!!」


 話の途中で頭を撫でると緩んだ表情で本音を言ってくれる。

 ……やっべ面白い。


 ただ、俺への精神的ダメージも大きい。こんなに可愛い子に好きと言われて顔が熱い。


 俺も惚れてしまっているんだからか。


「一目会った時からしゅきになっててぇ!! しゅごくしゅきぃぃ!」


 しゅきって好きって意味か。可愛いな、おい。もっとなでてやろう。


「でぃぬぅぃへへへっふっほー! しゅ、しゅ、しゅっしゅ、しゅきー!」


 緩み切っただらしない笑顔を浮かべるトーマ。

 とろん、と蕩けた表情でしばらくゆったりとした時間が流れる。


「っぷは。はぁ……はぁ、何言わせるのよ。それにしてもどうしてユーヤがここに居るの?確か海外に行ったって聞いたけど」


 缶コーヒーを一口飲んで落ち着きを取り戻すトーマ。


「約束、しただろ。俺達は」


「約束?」


 トーマは首を傾げる。うおお、その仕草可愛い。


「大人になったら再び会う約束をしただろ。だからここに居る」


「え、あ、そんな約束もしてたわね……そうだったわね」


 自分に言い聞かせるようにうんうんと頷く。仕草が全般的に可愛いなこの人。


「大人になった俺達はこの関係に決着をつけるためにここにいるんじゃないのか?」


「この関係に決着ね……そうよね……」


 空を見上げて言葉を紡ぐトーマ。


 俺が拳に力を籠めるのと同時にトーマも両手を握り締めて話をする。


 やっぱり殴り合いで決着をつけるのか……。


「私ね、ユーヤのことが好き。愛してる」


「へ? …………………嘘嘘嘘ぉぉ!!」


「本当よ。ずっと好き。この十年、君だけを想い続けてきた」


 突然の告白に鼓動が高鳴る。運命の相手が俺を好きで居てくれている。


 言うなら今しかないんじゃないか。


 いやいやいや、こいつ……こいつっって言ったら失礼だな。可愛いしなんか嫌われたくない。


 だから違うっての! 俺はこの子と闘いに来たの!! 


「お」


 俺と決闘してくれ。


「お?」


 やべ、小首傾げて口をちょっと開く仕草かっわいい。


「俺も……俺も好きだ」


 って、何を言ってるんだ俺は。顔が熱っちい。


「そっか。ありがと。わー、両想いってやつだね」


 掌で顔を仰ぎながらにこやかに話すトーマ。


「こうして再び会えたことは運命だと思ってる」


「このタイミングで二人が居合わせるって天文学的確率だよ」


 もしかしてこれ、付き合える? 


 キスしたり、おっぱい触ったりしてもいい関係になれる!!


 待て待て待て待て待てええええい!! 

 俺はトーマを完膚なきまでに叩きのめすつもりでここに来たんだぞ。

 なに、ラブラブ甘々な雰囲気に流されているんだ。えへへ。


「ゼァア!」


 またもや自分でも良く分からない奇声を上げて喝を入れる。


「な、なに!? どうしたの? ……ふふっ」


 今だ、緩み切った奴の顔面に先制攻撃を……。

 駄目だ。可愛い。ちらっと目があうとにっこり微笑み返してくれるっぅ。


「俺は……」


 溜息をついて空を見上げる。いかん、決心が鈍ってきた。


 というかこんな可愛い子と今から俺は決闘するのか……向こうは全然闘う気ないぞ。


 いや、何のために俺はこの十年想い続けてきたんだ。この時のためだろうに。


 親元を離れてまで、大人に干渉されないまで待つに待って俺はすべきことがあるんじゃないか。


「トーマと勝負をするためにここに居るんだ」


 大事なのはトーマとの決闘。


「惚れた方が負け。って言葉が日本にはあったよな」


「えぇ、そうね」


「この勝負、俺の勝ちだな」


「でも君も私に惚れてるんでしょ」


「くっ、確かに……勝負は引き分けってことにしてやろう。やはり勝負はここからってことか」


「……どうしてもというなら受けて立つけど」


 ぐっと拳を握るトーマ。ちっくしょう可愛い。


「そうだな……あぁ、俺はトーマに言わなきゃいけないことがあるんだ」


 俺は拳を握りしめて、彼女の前に立つ。


 決闘を申し込む。


 そのために俺はここにいる。


 だけど俺は彼女を運命の人だと思うほど惚れてしまっていて、彼女もずっと俺に惚れている。


 すべきことは他にあるんじゃないか。


「け」


 『傷物にしたら責任とりなさい』と母さんは言った。


 俺は彼女の顔に一生残る傷を残してしまった。

 母さんの言いたいことはそういうことじゃないだろうがこれは彼女の人生に影響を及ぼすほどのものだ。

 責任をとるべきではないか。


 責任をとるって俺は彼女に何をすればいいんだ。


「けっ」


 『今の気持ちを大事にしろよ』と親友は言った。


 今の気持ち。俺は彼女が好きだ。ならば、俺は彼女と何がしたい? 

 素直に伝えるんだ。




「結婚してくれ」




 握った拳を開き手を差し出していた。今伝えたい気持ちはこの一言に限る。


 って、俺は何を言っているんだ!?


「はい」


 ぎゅっと優しく握り返される。 


「いいい、いいの!? いいのかよ!? 俺と結婚してくれるのぉぉぉ!」


「いいよーーーー!! しゅきー!! だいしゅきーー!!!」


 二人して深夜の公園で奇声を上げて抱き合う。


「十年越しの結婚。私の大勝利だわ!」


 決闘を申し込むつもりが結婚を申し込んでいた。


「さぁ、この関係に決着をつけましょう!」


 しかも、承諾された。


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