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三章「恋人未満の恋愛経験値」3

「いやぁ、楽しかった。ありがとうね、神室君」

「トーマが楽しんでくれたならいいってことですよ。次は何に乗ろうかな?」

「氷雨ちゃんは何に乗りたい?」


 七海さんの質問に少し考えた後、おずおずと指さす桜井さん。


「あれ……です。あぁ! やっぱり恥ずかしいから他のにしましょう」

「いいじゃんメリーゴーランド。いこっ、桜井さん」


 桜井さんの手を握って駆け出す七海さん。


「女の子同士仲いいのはいいことだなぁ」


 遼が腕組みをして頷く。


「それにしてもメリーゴーランドとは桜井さん可愛いな。乙女って感じがする」

「いいだろ? チャラくてノリだけの俺には似つかわしくないくらいいい子だよ」


「お前らは結婚は考えているか」

「恋愛と結婚は別っていうからな。まだ学生だしわかんねってのが本音だろ。俺が県外の大学進学したらどうなるかわからないし。氷雨だってもっといい相手見つける可能性だってある」


「意外と真面目に考えてるんだな。なんとなくノリで付き合ってそうな雰囲気だったけど」

「過去にはそういう子とも付き合ったさ。軽い感じの付き合いってやつ。でも氷雨はその子らとは別格だな。色々なことを考えさせられるよ」


「そうやって俺達は大人になっていくんだなぁ」

「大人の階段十段飛ばしをした奴のセリフは重いな」


「そうだな……俺、彼女出来たことないのに嫁いるんだぜ」

「字面だけ見るとキモオタみたいだな……トーマは見た目は美人だけど中身はあの頃のままだな。なんか昔の楽しかった頃に気持ちを思い出してくれるわ」

「わかる。そうなんだよな。最初は見た目に惹かれたけど中身もすごく気が合ってさ……本当に俺達って運命の相手だったんだなって思うぜ」


「二人ともー! 何やってんの早くこっち来なさいよ!」

「お姫様がお呼びだ。行こうぜ」

「あぁ、今行くよ」


 メリーゴーランドに辿り着く。


「桜井さん似合ってる。おとぎ話のお姫様みたいだ」


 ピンクのワンピース姿の出で立ちもファンタジーを演出している。


「あ、ありがとうございます。一度乗ってみたかったんです。修学旅行だと恥ずかしくて友達に言えなくて……」


 両足を閉じて馬にまたがっている桜井さんは絵本の中のお姫様の様だ。

 それに比べて、


「いっけーサイクロンソニック号! 音速の壁を超えるんだ」


 大股広げて戦国武将が如く白馬にまたがるうちの妻。

 水色のパンティーが丸見えだ。


「ほら勇也も乗りましょうよ。どっちが早く回れるか競争よ」

「メリーゴーランドなんだから競争も何もないだろう。それじゃあ俺も乗るかな……よっと」


 俺は七海さんが乗っている馬に一緒にまたがる。


「ままままま、いいいいい、いきなりはじゅるい~」

「いいだろ。お姫様」


 七海さんを抱きしめるようにくっつく。


「おー、お前らラブラブだねぇ」


 遼は乗らずに写真撮影に徹するみたいだ。


 そうこうしているうちにメリーゴーランドは回りだした。

 軽快なメロディーと共にゆっくりと回りながら上下する馬や馬車達。

 遼が携帯片手に楽しそうに手を振る。


「乗ってみると結構楽しいもんだね」

「ひゃ、耳元で喋らないで……ああん」


「ユーヤ! トーマ―! ポーズ取って!」


 遼に向かって二人でピースサインをする。


 その時、強い風が吹いてバランスを崩してしまう。

 このままだと落馬してしまうので何かに捉まろうと手を伸ばした。


「きゃっ」


 ぽよん。

 これは強くつかんではいけない本能が呼びかける。

 優しくなでるように。


「っあん、何すんのよ!」

「ぐはぁっ!」


 七海さんの肘打ちをくらって落馬する。


「はは、いいぞー! ユーヤがおっぱい鷲掴みしたところもばっちり撮ったぜ」


 七海さんを見るとべーっと舌を出して笑っていた。




「氷雨の可愛い姿を送信しておくな」

「うぅ、本当に撮ってたんだ」


 桜井さんはチャットアプリで自分が映った姿を恥ずかしそうに見ている。


「ユーヤの一連のセクハラは動画で撮影ばっちりだ」

「神室君、その動画私に頂戴。これもいい思い出だし」

「オッケーっす。って、俺、トーマの連絡先知らないっすわ」

「勇也に送っておいて」


 その一言で遼からチャットアプリで動画が送られてきた。

 ……今でもあの感触が忘れられねぇ。

 俺が手をわしゃわしゃとしていると顔を真っ赤にした七海さんが呟く。


「そういうのは家でだけにしてよ……びっくりするじゃない」

「うぇ……家ならいいの?」

「……いいよ」


 こくりと頷く。

 いいのかよ!?

 自然と胸元に視線が行ってしまう。


「おーい、俺達もいるのを忘れるなよ。氷雨には刺激が強すぎてパンクしそうだ」

「うきゅー」


 目をぐるぐるとさせている桜井さん。


「氷雨を落ち着かせるためにも少し早いが昼にするか」


 遼に言葉で携帯の時刻を確認する。十一時過ぎだ。


「だな。たしかあっちにカフェテリアあったよな。そこにしようぜ」




 それから俺達はカフェテリアで昼食を食べた。


「こういう所のメニューってどれも美味しそうに見えるのが不思議ね」

「どこにでもある味で値段は倍近くそれでも快く払っちゃうんだよな。ところでユーヤは何を買ってきたんだ?」

「チュロス。何かこういう所と言えば食べたくなるよな」

「あ、いいもの食べてるじゃない。少し頂戴」


 俺の返事も聞くことなく頭を動かしてチュロスを齧る七海さん。

 こ、これは間接キス……この程度でドキドキするとは。


「遼先輩。私達も食べよう」


 俺達の様子を見て桜井さんが遼の袖を引っ張ってねだっている。


「他にも色々デザートがてらに色々買って食べようぜ」


 俺と遼はポップコーンやワッフル、クレープ、アイスクリームを買ってベンチに座った。

 女子達の目が宝石を見るような輝きになっていた。


「勇也と神室君は幼馴染なんだっけ? いつからの付き合いなの」

「ユーヤとトーマが決闘した後からですね。俺も見たかったなぁ二人の闘い。二人っきりで闘ったって聞いているんですけどどこで闘ったんですか?」

「えーっと、どこだったかしら?」

「スギコーのトイレの裏手の茂みだよ」

「あぁー! あそこか確かに人気(ひとけ)人気(にんき)も無い場所だな。そもそも二人ってなんで決闘したんだ?」


「それが思い出せないんだよな」

「私も聞いてないわ」


「ん? 何を聞いていないんですか?」

「え? えっと、あぁ、勇也が何で決闘を挑んできたのかわからないってことよ」

「俺はトーマが発端で、言い争いになってそれが発展して決闘になったって覚えてるけど」


 七海さんも決闘の当時の記憶が曖昧みたいだ。頬を指先で掻いて愛想笑いを浮かべている。


「って、桜井さんごめんね。わからない話して」

「いえいえ。聞いてるだけでも楽しいですよ。私昔、体弱かったんで小さい頃友達と呼べる人がいなかったんで思い出話が出来る三人の関係が羨ましいです」

「いや、俺と七海さんは昔、本気で殺し合いした仲だよ」


「そ、それにしても旗井さんは旗井先輩一筋だったんですね。素敵です」

「ありがとう。氷雨ちゃんと私はもう友達でしょ。何十年後かにまたここに来て今日も思い出を語り合いましょうよ。例えば私達の子供にこの思い出話を語ってあげるとか」

「こ、子供!? 出来るかどうかわかりかせんがその時は是非よろしくお願いします」


 少し涙ぐんだ声で七海さんの手と握手をする桜井さん。


「そのためにはやっぱり遼は桜井さんと結婚しなきゃだな」

「お前らを見てるとそれも悪くないかなって思えてくるのが不思議だよ」

「わ、私が遼先輩とけ、結婚! ふにゃ~」


 目をぐるぐると回す桜井さん。それを優しくフォローする遼。


 この二人なら近い将来結婚できるんじゃないかと思えた。


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