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二章「二人の新婚生活」5

ブクマありがとうございます。

「んぅ」


 ポケットに入れたスマホの目覚ましの音で目覚める。


 ダブルのベッドには七海さんの姿が無い。


「まさか、昨日は夢だったというオチでは」


 焦った俺は緊張しながら居間の扉を開ける。


「おはよー。自分で起きれたんだね。起こそうか悩んでたところだったのよ」


 ばっちり化粧を決め込んだ七海さん。大人びて見える。


「おはようっ」


 存在を確かめるかのように七海さんを抱きしめる。


「ほぉうわわおおわ~。んぅぅ~! しゅきー!」


「俺も好きだよ」


 こんなにも彼女を欲している自分がいるとは。結婚して良かった。




「あっ、お米炊けてない」


 台所に立った七海さんがぼそりと呟く。


「炊飯器壊れたか? 年代物とはいえ昨日は普通に使えてたよな。って、保温のままだったんじゃないのか?」


 炊飯窯は温かいのでボタンの押し間違えだろうか。


「え? 何か違うボタン押さないとダメなの? 実家に居た時はいっつも保温の状態だったけど」


「そりゃ炊飯器なんだから炊飯しなきゃ炊けないぞ」


「え? そうなの!?」


「……まさか知らなかった?」


「そ、そうだったわね。あっ、よく見ると実家の炊飯器とボタンが逆だったわ。つい癖で確認せずに押してしまっていたわ」


 なんか白々しい……。

 まぁ、いいか。我が家の勝手にまだ慣れていないのだろう。


「まだ食パンが余ってるから朝はパン食べようぜ。おかずは適当に、っと」


 トースターにパンを入れてささっとプライパンにウインナーと卵を放り込む。


 しげしげと七海さんが興味深く眺めている。


「あとは私に任せて勇也は顔を洗ってきて」


「そうするかな」


 洗面台へ向かい洗顔をする。


「っ」


 ふとコップに二本の歯ブラシがあるとことにドギマギするのだった。




「いただきます」


 独りだと絶対言わない「いだたきます」の挨拶も普通にしてるなと自分の変化に気づく。


「どうした? 何か変な味でもする?」


「いや、美味しい」


 昨日は味気ないと感じていたのに今日は別格だ。誰かと食べるって重要なんだな。


「それならいいんだけど」


 不思議そうに小首をかしげてくすくすと微笑む七海さん。


「あ、そうだ。七海さん、昨日渡しそびれたんだけど、合鍵渡すわ」


「いいの?」


「自分の家の鍵が無いと困るでしょ」


「……うん」


 大事そうに鍵を握り締めている。


「俺はそろそろ学校へ行くけど七海さんは?」


「講義は二時限からだから九時過ぎに家を出るわ。三時過ぎには終わるかしら」


「そっか。それじゃあ俺が授業終わったら速攻で家戻るから近所のスーパーに買い物に行こうな」


「うん、いってらっしゃい」


 玄関までついてきた七海さんが手を振って送り出してくれた。


「……いってきます」


 俺はその姿がとても愛おしくて七海さんを抱きしめる。


「んななんあなななんな。まままま、待ってるからぁー! いい子で待ってるから帰ってきたらなでなでしテェ~!」


 こうして俺と七海さんの生活は始まったのだった。




   ◇




「ただいま。七海さん居る!?」


 玄関に揃えられた靴があることに気持ちが高ぶる。


「おかえりー」


「うおおおー! 七海さんが居るぜ」


「テンション高っ。おかしな人ね」


 そわそわとして上目遣いで瞬きを何回もしている。


「そうだ約束してたな。なでなで」


 約束通り頭をなでる。


「んほほほほー! きゃっほー! なでなでしゅきー!! いい子にしてまちたぁー!!」


 帰ってきたら家族が居ることがこんなにも嬉しいとはな。独りになって良くわかったぜ。




 その後、やってきたのは近所のスーパー。


「今日の晩御飯は何にする予定なんだ?」


 カートを押して七海さんの後をついていく。


「う……勇也はなにがいい?」


 あちこちに視線を送って落ち着きがない。

 何を買いたいのかイマイチわからないな。


「肉食いたいな。肉」


「肉ね。お肉のコーナーは……」


「こっちだよ」


「そうね。そうだったわね」


 俺の先導でお肉のコーナーへ辿り着く。


「……お肉ってこんなに種類あるの?」


「そう? ここのスーパーの規模じゃこんなもんじゃない?」


「そ、それもそうね。とりあず何種類か買えばなんとかなるでしょ」


 ぶつぶつと言って七海さんはカゴに無造作にトレーを入れていく。




 フライパンで炒めて塩コショウで味付けをしている。


 今日の晩御飯はなんだろうなぁ。


「お待たせ。今日はバランスよくお肉と野菜を入れたから」


 ごぼうと鶏肉が入っている。


「いただきます」


「召し上がれ」


 今日もチャーハンか。


 美味しいからいいけどさ。




「ところで私はどこで寝ればいいのかしら?」


「そっか。七海さん昨日はテレビ観てて寝落ちしたからわからなんだっけ。二階にある両親の寝室のベッド使って」


「勇也はどうするの?」


「俺は自分のベッド使うよ」


 七海さんに抱きしめられて眠ると体が軋むどころか粉々になりそうだからな。


「じゃあ、私も勇也のベッド使うわ!」


「えぇ!」


「だって昨日も一緒に寝たじゃない別々なんて嫌よ……」


「そんなしおらしい表情しないでくれよ。わかったせめて父さん達のダブルベッドで寝よう」


「やった! 勇也を抱っこして寝るもんね」




 ……。


「……」


 ね、眠れん。

 昨日は疲れて一瞬で眠りについたが今日は目が冴えてる。


 隣を見ると七海さんが寝息を立てている。

 寝るの早いよな。


 改めてだが異性に抱き着かれながら眠るって十代の多感な野郎には厳しいって。


「ぅーん、勇也しゅきー」


 たまに聞こえてくる耳元で囁かれる愛の告白も悶々としてくるのだ。


「っ」


 体勢を変えようと腕を動かすと柔らかいナニにぽよよんとぶつかる。


 たぶん、寝るときつけないタイプだわ。


 あ、寝る前にトイレに行くの忘れてしたくなってきた。

 エロい意味合いじゃなくてシンプルに漏れそう。


 なんとか全身ロックを解くことに成功した俺はトイレへと駆け出した。


「ふぃ……」


 トイレを出て寝室に戻った時である。


「ユーヤァ―……ユーヤァー……」


 怖い怖い怖い。


 両手を伸ばした七海さんが廊下を徘徊している。


 もうこれゾンビ映画みたいな雰囲気だって。


「ユーヤァ!」


「!?」


 ダブルラリアットでこちらに近づいてくる七海さん。


「ひぃぃ」


 ぎりぎりの所で回避して寝室へと駆け込みそのままベッドへとタイブする。


 そのまま何事も無かったかのようにベッドへ戻ってきた七海さん。


「ユーヤァ、しゅきぃ~」


 七海さんは抱きかかえるように胸元へ俺の頭を運ぶ。


 柔らかいしいい匂いするし気持ちいいけど……い、息が出来ない。


「ぐっ、ぬ……」


「ぁん」


 必死に頭を動かすと七海さんが消え入りそうな高い声を出す。


「(息が出来ない)」


 と、とにかく息がしたい。


 必死に息を吸おうと口をもごもごさせる。


「んっ、ぁ、や、んん、ぁん」


 口の動きに合わせて七海さんがびくっと体が反応する。

 より強く胸に頭を押し付けられ、そのまま気絶するようにして俺は眠りについたのだった。


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