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雪の如く露の如く  作者: 千藤時子
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綾の章6

アヤが覚えているのはそこまでだった。

起きた時はアヤの枕元には姉がおり、優しい笑みを浮かべていた。

昨夜の狂乱が夢だったかのように穏やかで優しい姉だった。

夜具で押し潰された一枚の藤の花びらが夢とうつつをかろうじて結んでいた。

しばらくして姉は大内義興の元に嫁いだ。

アヤはというと内藤の嫡流を父の代わりに継いだ叔父の元に行くことになった。

叔父の息子、アヤの従弟が育てば夫婦になり内藤の家を繋げていくようにとの大内義興の計らいであった。

幾度も季節が巡り、アヤの姉は東向殿ひがしむきどのと呼ばれ大内の嫡男を産んだ。

アヤも大人になり、従弟の内藤興盛ないとうおきもりとのあいだに幾人かの子を産んだ。

そのうちのひとり、アヤの産んだ娘を姉はたいそういとおしみ、アヤの子「アヤヤ」と呼んだ。

姉はアヤに乞うて姪のアヤヤをおのれのひざ元で育て、あらん限りの教育を与え、大内の養女として安芸の毛利家に嫁がせた。

藤の花が咲くたびにアヤは尼僧を思い出した。

やわやわと揺れる藤の香りがアヤの思い出を呼び覚ました。

尼僧の年齢を追い越し、子らが育ち孫が生まれた。

毛利に嫁いだかつてのアヤヤ、尾崎局おざきのつぼねからの文には夫隆元や息子らとの幸せそうな日々がつづられていた。

アヤはそろそろ六十といくつかになる。

その人生に大きな起伏はなかった。

従弟の内藤興盛を夫とし、大内家の奥方の実妹として平穏な毎日を送った。

だが姉はと言えば…。


宮野の真如寺(しんにょじ)に住まう姉の様子伺いに赴く足が重くなった。

姉の夫亡き後、その跡を継いだ甥の大内義隆はすでに亡い。

財政を傾かせ戦に敗れ求心力を失って、家臣であった陶晴賢に背かれ四十代で自刃した。

一方、主君を弑してその甥を立て大内をまとめあげようとした陶晴賢も、すでに傾いた家を立て直すことは出来ず、毛利元就に追われ自刃した。

大内と陶。

かつて繁栄を極めた多々良氏の二つの家系は終わったのだ。

六十年前に予見できただろうか。

いや。

――おなごの戦い方は幾通りもあるのですよ。

蓮月尼の優しい声がどこかから聞こえる。

アヤは真如寺を目前にして震え、立ち尽くすのだった。

お読みいただきありがとうございました。

綾の章はここで終わりです。

蓮月尼のおはなし雪の章はまたいつか。

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