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雪の如く露の如く  作者: 千藤時子
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綾の章5

アヤは半分夢に沈みながら姉に抱きしめられていた。

姉に嫌われていたわけではない。

その安堵がアヤを内側からぽかぽかと暖めている。

尼僧は互いに思い合いながら迷っていた二人の姫をじっと見つめていた。

ややあって尼僧が優しくささやいた。


「おなごの戦い方は幾通りもあるのですよ」


そしてほほ笑むと「特に内藤のおなごには」と言い、二人についてくるよう告げた。

尼僧に先導されるままに進むとそこには大きな藤が見事な房のような花を揺らしていた。


「わたくしたち内藤ははるか昔みやこで栄華を極めた藤原道長さまの末裔」


姉がこくんと頷いた。


「存じております」

「京の都にいたころより、われら藤家のおなごは藤の花のように大樹に寄りかかり枝を広げ、こうして花を咲かせておりました」


甘い香りを降らせる藤の花を尼僧は仰ぎ見た。


「世の人々は、藤の花は誰かに寄りかからねば生きて行けぬと申します。ですがよくご覧なさい。この藤がもたれているものは何ですか?」


姉がハッと息をのみ藤を凝視した。


「そう。枯れ木です」

「藤の花が巻き付いて…」

「そう。ゆるゆると締め付け育ちツルを太く強くしていくうちに寄りかかっていた木を絞め殺したのですよ」

「尼さま…」

「蓮月、とお呼びください」

「蓮月さま」


尼僧は白く細い手を伸ばし、まぶしいものでも観るように藤の花を見上げた。

共に藤を見上げた姉に尼僧は幾度目かの笑みを向け、おのれを納得させるかのように数度首肯した。


「何も出来ぬと嘆かれますな。貴女はただ花ひらけばそれでよろしいのです。藤の花のように」


そして尼僧は手のひらと手のひらを合わせ何かを祈った。


「蓮月さま…」

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