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雪の如く露の如く  作者: 千藤時子
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綾の章4

アヤ、アヤ、行かないで。わたくしを一人にしないで。わたくしにはもう貴女しかいない。何もない。

あなたがいなければわたくしはとうに自害していたでしょう。

わたくしたちの父、内藤弘矩(ないとうひろのり)は殺されました。

大内の嫡子たる義興(よしおき)殿を裏切り、その腹違いの兄君に家督を継がせる陰謀を企てたと、そう告げ口する者があったのです。

そんな恐ろしいことを父上がなさるはずもないのに。

父上の弁明は聞き入れられず、大内の屋形で殺されたのです。

父上を助けようと大内に向かったわたくしの弟、そなたの兄である弘和ひろかずも、弘和を守ろうとしたわたくしのあの方も殺されました。

すべては大内の分家、すえの乗っ取りを企てた陶武護すえたけもりの虚言であったとすぐにわかりました。

陶武護は大内義興に断罪されたそうです。

ですが、たとえ汚名が晴れても父上も我が家の男たちももはや戻ってきません。

ただただ口惜しい。

大内も陶も、多々良氏の男たちが憎い。

義興殿はわたくしにすまなかったとおっしゃいました。

そして父や弟の死の償いとしてわたくしを娶り大内に迎えるとそうおっしゃるのです。

どこまで人を侮ればよいのでしょう?

わたくしが幼いころからこのかたの妻になるのだと心に決めた方を殺しておいて、六つも年下の男の元に嫁げと言うのです。

それが罪滅ぼしになると本気で思っているのでしょうか?

実家も無い後ろ盾も無い女が周防・長門・石見三か国守護職を預かる家の奥方としてどう振る舞えばよいというのでしょう?

父と弟と許嫁を殺した男の寵愛にすがって生きよ、と?

どこまでわたくしを貶めたいのでしょう?

もしもわたくしに木曽義仲殿の(しょう)のような武芸の才があれば、あの方の隣に立ち薙刀を振るい共に死ねたでしょう。

北条の尼御台のように気丈で賢ければ、内藤の長女、大姫として男たちを叱咤し、父上の弔い合戦をしたことでしょう。

でもわたくしには何もない。

武芸の才も知略も無い。

わたくしには泣くことしかできない。

アヤ。

そなただけがわたくしに残ったただひとつの生きるよすが。

そなたがいなければわたくしは生きていけない。

何も持たない姉を許して。

いったいどうすればそなたを幸せに出来るのでしょう。

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