星の章5
気がつくと蓮月尼は広い森にいた。
見上げると恐ろしいほど多くの星がまたたいている。
目の前で、小さな若木が風に揺れていた。
かすかな風にも身をよじるやわらかなその枝を蓮月尼が見つめていると。
シャン…シャン…
錫杖の音が天から降って来た。
ひとつ、ふたつと増え重なってゆく錫杖の玲瓏たる響きを浴びて、若木は急速に伸びてゆく。
ふらふらと揺れていたその身を近くの大樹に寄せると枝を巻きつかせ、巻きつかせた枝をさらに伸ばし、伸ばしつつ太くし、葉を繁らせてゆく。
ああ、藤の花だったのか。
錫杖の音に合わせるように、藤がその美しい花房を揺らす。
藤の蔓に絡み付かれた大樹は、いつの間にか枯れ果てていた。
シャン…
錫杖がまた鳴った。
不思議な藤の咲く摩訶不思議なその森で、蓮月尼は二人の姫に遇った。
内藤の末裔だという美しい姉妹だった。
互いに寄り添う娘たちは、生と死のぎりぎりの縁に佇むやわらかい藤の若木のようだった。
おのれの弱さを嘆く姉姫に、蓮月尼は告げた。
貴女は貴女であればよい。
生きるのだ、と。
もう二度とあの娘に伝えられない言葉を、藤の姫に届けた。
ああ、そうか。
この言葉を伝えるためにわたくしはここに来たのか。
蓮月尼は微笑みながら頷く。
奇妙な得心と共に、心に溜まっていた闇色の澱が消え失せていった。
シャン!
錫杖の音がひときわ大きく響いた。




