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雪の如く露の如く  作者: 千藤時子
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星の章1

真観清浄観(しんかんしょうじょうかん) 広大智慧観(こうだいちえかん) 悲観及慈観(ひかんぎゅうじかん) 常願常瞻仰(じょうがんじょうせんごう)

無垢清浄光(むくしょうじょうこう) 慧日破諸闇(えにちはしょあん) 能伏災風火(のうぶくさいふうか) 普明照世間(ふみょうしょうせけん)


「蓮月さま、勝間田(かつまた)の叔父君がおいでになりましたよ」


一心不乱に祈り続けていた蓮月尼の意識は現実世界に呼び戻された。

振り向くと瑠璃尼が微笑んでいた。

あまり(こん)を詰めるとお体に障りますよ。

そう気遣う老女に礼を述べ、蓮月尼は本堂を後にした。


「ユキ殿、女子供を連れて来たぞ」


壮年の侍姿の男が広縁に腰を下ろしていた。

内藤本家の二男、父の従弟である勝間田盛信である。


新屋河内(にいやごうち)が戦場になる、どう頑張っても自分たちでは止めようがないことを悟ったとき、曹渓寺と延命寺の尼僧たちは相談し、幼い子供や女たちを大川の対岸にある内藤の山城に預けようと決めた。

(いくさ)でもっとも恐ろしいのは、血に興奮した雑兵による女たちへの暴力、人拐(ひとさら)いである。

内藤本家は、鷲頭と大内による多々良一族同族間の争いに中立を選んでおり、その庇護下にいる限り命の危険は抑えられる。

蓮月尼は両尼寺を代表し、内藤本家の男たちに三井(みい)の領民の保護を願った。


「勝間田のおじさま。此度(こたび)は本家の皆様にご迷惑をおかけ致しましてなんとお詫び申し上げれば…」

「ああ、気にせずともよい。とは言ってもそなたのことだ。そうもいくまいが」


盛信は蓮月尼の謝罪を遮り、苦笑で応えた。

正平七年(観応三年 1352年)三月二十八日(ユリウス暦5月12日)、大内による新屋河内の最後の掃討戦が終わり、三井は久方ぶりの落ち着きを取り戻していた。

対岸に避難させていた女子供は勝間田の手勢に伴われて川を渡り、三井に戻って来たのだのだが…。


「荒れ放題だな」


踏み荒らされ(あぜ)が崩れた田圃(たんぼ)(うね)があった場所さえわからなくなった畑、家は燃やされ、働き盛りの男たちは死に、この先のことを考えると暗澹たる思いが湧いてくる。

しかし。


「立て直しを急ぎます」


男たちが死んでも、女たちの人生は続く。

むしろ女たちの戦いはここから始まるのだ。

真摯な表情の蓮月尼に盛信は幾度か頷いた。

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