雪の章5
「わたくしたちはどこで間違ってしまったのだろうと、繰り返し考えてしまいますの」
妙善が語る昔語りは若い弘世にとっては、はじめて聞く話だった。
数百年前、戦乱で荒廃した国から新しい地を目指して船出した亡国の民。
その手に掲げ持つのは星の石。
彼らは巨大な石の山城を築き鷲頭山に星を祀る宮を作った。
「おのれの出自を誇りそれに固執する鷲頭は、いつの間にか子供が減っていきました。わたくし一人を遺して逝くことを憂えた母、禅恵は多々良一族内からわたくしのために婿を入れたのです」
「それが大内長弘だったのだな」
「ええ」
はじめて会った時は、まるで伝説に出てくる海の向こうから来た星の王子のようだと思った。
妙善はどこか遠くを見ながらそう述懐した。
大叔父は人を惹き付ける男だった。
深窓の姫などおのれの意のままだっただろう。
「子を持てなかったのも仕方のないこと。わたくしの存在が追いやられ封じ込められたのも仕方のないこと。わたくしはあの人の最期にさえ呼ばれなかった」
妙善の乾いた眼は若い弘世を見つめた。
「大内の兄上や甥ご様たちと事を荒立てたりされないようにと求めたわたくしの文も、あの人にはただの紙切れだったのでしょう。多々良一族が鷲頭山のもとで互いに殺し合うことになるとわかっていれば、あの人を迎え入れたりはしなかったのに…」
「貴女のせいではない」
弘世の言葉に妙善は目を見張った。
「大叔父は大内にいたとしてもいずれこうした争いを生んだだろう。貴女が背負わなくとも良い」
妙善の噛み締めたくちびるが小さく震えていた。
目を伏せ懸命に何かをこらえ、ややあって絞り出すように「有り難うございます」と礼を述べた。
そして細く長い吐息の後に弘世に微笑んだ。
「大内の若様のお優しさに甘えてひとつだけこの老婆の願いをお聞き頂けませぬか?」
「申してみよ」
「すべてとは申しません。武器を捨てて妙見様のもとに逃げ込んだ者だけは助命いただけますよう伏してお願い申しあげます。彼らは大内の子、多々良の子なのですから」
「了承した」
妙善は深々とこうべを垂れた。




