妙(たえ)の章
むかし大和の国の飛鳥と言うところに都があった頃のことだ。
われらの先祖は、戦で荒れた故郷を去り海を渡りこの地に来た。
見知らぬ土地を目指す彼らが携えていたのは、おのが身と技術、そして北斗七曜石と呼ばれる天から降りてきた星の石だった。
そう、彼らは星を敬う一族だったのだよ。
どんな石なのか?
さあ?
女人禁制の上宮に御座すからのう。
おなごのわしは目にしたことはないのだ。
口惜しいことよ。
さて、豊葦原瑞穂と呼ばれる国、ここ日本へやって来た彼らが最初に降り立ったのは、ここより西の佐波川の河口に近い海辺だった。
彼らは故郷にちなんでその地を「多々良」と呼び、一族の名とした。
その頃の周芳、今の周防の国の国府は、周防の真ん中に位置する小周防にあったそうで、それゆえわが一族も小周防から程近い山の上に星の宮を建て、北斗七曜石に鎮座頂き、その西の麓に住むようになった。
それがここ、鷲頭の庄なのだよ。
われらは多々良の中でももっとも古い血筋をひいておる。
ところで多々良一族が去った海の向こうの国々は、戦乱の果てに大国の後ろ楯を得た新羅という国が勢いを増し、日本と親しい百済を攻め滅ぼした。
当時の帝は百済を助ける兵を送られたり新羅が攻め込んで来ても迎え撃てるよう防備を固められた。
われら多々良一族もそれをお助けして周防国府の東に堅固な石の山城を築いたという。
しかし何分にも内陸にある小周防が国府では海に遠い。
守るにも攻めるにも不便だ。
そこで国府を周防の西の端の佐波へ移すことになった。
われら鷲頭は星の宮をお守りするためこの鷲頭の庄に残ったが、大内や陶、右田に移り住み、その土地の名を名乗るものたちもいた。
われら一族のうち、今は大内に住まう多々良が周防の国の守護を命ぜられ、氏の長として振る舞っておるが、北斗七曜石があるのはここ、鷲頭なのだ。
ゆめゆめ忘るまいぞ。
のう、タエ。
南北朝時代編に入る前の序章です。




