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泡(うたかた)の章
一切有為法
如夢幻泡影
如露亦如電
応作如是観
ひらひらと小さな蝶が舞っている。
明るい庭に面した座敷から子供の声が聞こえた。
まだあどけない舌足らずな声が師の詠ずる経のあとについて復唱している。
亀童丸にはまだ早いのでは、と思いつつ、聡い我が子に義興の頬は緩んだ。
「如露亦如電応作如是観…」
息子の読み上げていた金剛経の一節が不意に口をついて出た。
あらゆるものは夢だ。
露の如く儚く電の如く一瞬で消える。
だからこそ決して逃れられない死を見据えて生きるべきだ。
義興は彼の天女が住まう東向殿へ向かう足を速めた。
***
天文二十年(1551年)九月一日、大内義興の息子、大内義隆は長門深川の大寧寺にて自害。
辞世の歌は「討つ者も 討たるる者も もろともに 如露亦如電 応作如是観」と伝えられている。
電の章の後日談。




