65話
65話
言われた通りにやっているつもりだが、なかなか上手くいかない。
一時的とはいえヴァンパイアの眷属となったことが原因なのか、最近上手く聖魔法を扱えないのだ。
だが、ルーンさんは俺にはヴァンパイアを倒せるだけの聖魔法が扱えると確信しているようだった。
何を根拠にしているのか分からないが、そのために時間稼ぎまで請け負ってくれているのだから、それだけの理由があったのだろう。
「鬱陶しいね!墜影!」
「光覇!」
手数では押し切れないとみて強力な一発に変えるが、それに合わせてルーンさんも防御魔法を展開する。
完全に相殺はできていないが、それでも致命的なダメージにならないほどには抑えている。
「しまった!」
「あぶない!」
それがしばらく繰り返されたころ、ルーンさんは集中が途切れたのか、ヴァンパイアの放った5つの魔法の1つを打ち消しきれず、被弾してしまった。
それを見逃さずにヴァンパイアがルーンさんへ近づいていくが、ルーンさんの方を気にしていたので、咄嗟に庇うのが間に合った。
ヴァンパイアの攻撃をいなし、ルーンさんを抱えて距離を取る。
「今のは助かった。だが、私を気にする必要はない。君はヤツを倒すことだけ考えてくれ」
「は、はい、分かりました」
少し威圧の込められた言葉に思わず頷いてしまう。
ルーンさんはそれを満足そうに見て、再びヴァンパイアの方へと向き直った。
残された俺は、ひたすら聖魔法を使ってみることにした。
「セイントキュアー、セイントフラッシュ‥‥」
なかなかうまくいかないうちに、ルーンさんが被弾する回数が増えてきた。
神聖魔法は神への願いが元になった魔法。
藁にも縋るような気持ちで祈ることにした。
女神様、聖女様、オルレアン様‥‥
『仕方ねぇ。可愛い子孫たちのためだ』
祈り続けていると、心に響くような声が聞こえ、勝手に聖魔法が発動し始めた。
魔力暴走かと思って止めようとすると、再び「声」が聞こえてきた。
『ほら、俺に任せとけって』
その声を聞いていると抵抗する気が失せ、身を任せてしまう。
『それでいい。聖光よ、我が身に宿れ。魔の力を制し天下無双の力を!』
『強化魔法・天魔!』
魔人化と同じように白銀の翼が生え、全身に力が漲ってくる。
だが、その力は魔人化の時と比べ物にならないほど大きく、翼の輝きも増している。
なにより、魔人化による破壊衝動や暴走が起こる気配がない。
『擬似召喚・煌剣ラースヴェルト』
「その剣は!?」
こちらに気づいたヴァンパイアがターゲットを変えてこちらに向かってくるが、もう遅い。
『天魔一閃』
「ガっ!?」
振り払われた剣がヴァンパイアの体を両断する。
それと同時に「声」が聞こえなくなり、不思議な感覚も消えた。
「同じ相手に2度も敗れるとは‥‥」
「同じ?」
前にヴァンパイアを倒したことはあるが、目の前のヴァンパイアとは別人のハズだ。
それに、一度倒されたというならなぜ生きているのか。
ヴァンパイアは疑問に答えることなく独り言を続けた。
「まぁいい。主様復活の鍵は全て揃った‥‥もうすぐ主様が蘇る。ククク、アハハハ」
ヴァンパイアは体が少しずつ灰になって消えていく中、最後まで笑い続けていた。




