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1話 プロローグ


 グレスト王都から西に馬車で10日のほどのところにあるレイヴン伯爵領ユラシル。2つの隣国との国境を有するユラシルは大陸一と言われる大規模な商業都市である。


 その郊外の森の奥で1人の少年と大型の魔物が対峙していた。


 少年と対峙する魔物は冒険者ギルドによって指定されているランクではAランクに認定されているヘルオーガだ。

 そして、この少年の()()()レベルは12という初心者程度であり、さらに武器も解体用の小刀が一本あるのみ。装いも鎧などは纏っておらず、冒険者にはとても見えない。

 普通に考えて少年が勝つ見込みはゼロに等しいだろう。

 しかし、少年におびえた様子は皆無、むしろ安堵した様子すら見える。



 ヘルオーガは小さい人族の少年との体格差を利用して力技で押し切ろうと手にした大剣を大上段で振り抜いた。

 それに対して少年は武器も持っていないため、当然、回避を選択する———ことはなく、なんと、拳を握りしめ、降り下ろされた大剣に真っ向から殴りかかった。


 この光景を見ている第三者がいるとしたら思わず目を逸らしたことだろう。

 なにせ、ヘルオーガの持つ大剣は名工が打った傑作だと言われても納得するほどの輝きと存在感を放っているのだ。

 結果は目に見えている。少年の拳は無残に叩き斬られるだろう。


 しかし、ここで予想外の——少年にとっては予想通り——の結果が訪れる。

 ヘルオーガの振り下ろした大剣は少年の拳によって弾き飛ばされたのだ。

 あまりの事態にヘルオーガも動揺を隠せない。とはいえ、流石はAランクの魔物なだけあって硬直も一瞬で、態勢を整えると剣を下段に構えて防御の体制に移る。

 しかし、この時点でヘルオーガの視界には少年は居なかった。ふと粟立つような感覚を覚え振り返ると先程まで前にいたはずの少年が魔法の詠唱をし終えたところだった。


「凍てつけ。『絶氷』」


 瞬間、少年の周りの空間の全てが凍りついた。

 ヘルオーガはもちろん、木々や草花に留まらず、時間さえも凍りついてしまったかのように音一つ聞こえない。


 氷属性超級魔法『絶氷』。魔力の続く限り、空間のあらゆる物を凍りつかせる魔法だ。

 当然かもしれないが、水などの氷やすいものと生物とでは凍りやすさも違うし、魔力を持つものでは魔力の量に応じて抵抗が発生するため完全に凍らせることは難しい。にもかかわらず、少年の『絶氷』は魔力抵抗の高いはずのヘルオーガを容易く凍りつかせた挙げ句、空間に存在する全てを尽く凍りつかせるなど、最高峰の魔術師と言われている古の大賢者にすら無理であろう。

 それを成し遂げた当人は特に気にした様子もなく、「依頼完了」と呟くと、氷漬けのヘルオーガを空間魔法を使って収納すると、次の瞬間にはまるで消えたかのようにいなくなっていた。



 この少年こそが、史上最年少Sランク冒険者のフリージアという人物だった。


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