24歳の夏 2
バーに着くと彼女にはいつも通りの顔、それ以外には一度奥の部屋に入っていった男の顔に見えるように幻覚を見せる。
「2人なんですが、大丈夫ですか?」
「ええ、今日は奥に入られますか?」
「そうするよ」
俺たちは奥の部屋へと入っていく。
今まで上がってきたエレベーターと違うエレベーターがあった。
上層階専用の物のようだ。
「すごーい本当に入れるんだ!」
「まぁ、何だかんだ来てるからね」
エレベーターに乗り込むと係が操作をして動き出す。
「今日のショーは久し振りに刺激的ですよ」
係の人間が笑顔で告げてくる。
「ショーって何?」
彼女は俺を覗き込んでくる。
「説明してやってくれないか?」
係の男は謎の笑みで説明を始める。
俺自身もショーなんて存在は知らないし聞いておきたかった。
「お客様はよくご覧になられていますがお連れ様は初めてですものね」
「いつも様々なものを用意していますが今日はいつもと違って一人の男によるショーです」
「先日のライセンスを剥奪された元プロボクサーと元力士の試合も盛り上がりましたが今日は格別かと思います」
「へぇ〜」
俺たちは少し場違いなところに来たのかもしれない。
「何度か来てるの?」
彼女が耳打ちをしてくる。
「たぶん他の人と勘違いしてるんだよ」
俺は適当に話をする。
そうこうしているうちにエレベーターの扉が開く。
「まだ始まったばかりのようですし丁度良かったですね!」
係の男は笑顔で告げドアが閉まる。
大きな歓声があがっている。
ビルの2つの階層をぶち抜いたように高さがあり、下のあたりで司会のような男が紹介をしていた。
「2000万円の借金を抱え耳を揃えて払わなくてはいけない男が耳を揃えるとの事です!道具は一切無しで3分間皆様瞬きをせずにご覧ください!」
「ねぇ?なにか変じゃ無い?帰ろうよ」
「あぁ、そうしよう」
その時ドアが開き男が入ってきた。どこか諦めたような20代後半と言った男だ。
「…!?」
彼女は驚いたように目を見開いている。
「どうしたの?知り合い?」
「私の彼…え?なに?分かんない!!」
俺は黙って会場を見る。
彼女に彼氏がいたことも驚きではあったがそれよりこれから起こることに少し興味があったのかもしれない。
「ねぇ!?なんなのこれ!!私わからないんだけど!!」
彼女は苛立って俺に問いかけてくる。
しかし、俺だってわからない。
俺は無言で会場を見る。
「ねぇ!なんで彼氏があそこにいるの!?今からなにがあるの!?」
「カァァンッ!!」
ゴングのようなものがなり男は覚悟を決め耳を掴んでいる。
呼吸が乱れて興奮気味な様子だ。
「やめてよ!おねがい!やめて!」
彼女は叫んでいるが周りの歓声にかき消される。
俺は腕を引っ張られているがそのまま会場を見続ける。
「うわぁあああああ!!」
男は叫びながら耳を引き千切る。
会場のボルテージは最高潮だ。
「もう…やめて…」
女は泣き崩れてしまった。
「しゅうりょおおぉおおお!」
司会が叫び鐘が鳴る。
「耳を揃えた寺田秀一君に大きな拍手を!!」
司会はそう言いながら男に紙袋を渡す。
男の方は痛みが激しく立っていられないようだ。
耳のあった位置から血が滴っている。
そのままうずくまり動かなくなってしまう。
司会はさも残念そうな顔をしながら
「君はお客様の前で情け無い姿を晒して正気ですか?皆様!このような男に賞賛はふさわしいでしょうか?」
「殺せーー!!」
「犬を出せ!!」
様々な罵声が聞こえる。
司会は笑顔で胸を張り歩き柵を開ける。
「皆様に満足していただけるよう本日は可愛らしい犬をご用意しました!ご覧ください!」
そう言って司会はハシゴを登り会場を出る。
その後奥から20匹ほどの小型犬が出てくる。
走って男を襲いに行っている。
男は耳を抑えながらヨロヨロと逃げる。
「もう無理」
彼女はフラフラとした足取りで会場に歩いていく。
俺はそれをただ眺めていた。
「秀一!今行くから!」
彼女は叫び飛び降りる。
着地を失敗したのか足を引きずりながら秀一の元に向かっていく。
小型犬は彼女に気づき半数が向かっていく。
バックを振り回して牽制するものの数が多くだんだん傷が増えていく。
「これが純愛なのでしょうか!?」
司会は盛り上げようとしている。
会場も盛り上がっていた。
そんな中ただそれを眺めることしか出来なかった。
数十分して2つの肉が出来上がった。
俺はそそくさとビルを出て自宅に向かう。
帰り道でさっき見た光景を思い出し2回ほど吐いてしまった。
そして、自宅に着くとそのまま気絶するように眠ってしまった。