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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの魂は仲間に甘い
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湖のほとり



 セトを出発して5日目の早朝対岸に銀星管轄大地を望む岸辺に到着した。

途中ミムナから会談日決定の連絡があり日程に余裕があったので休憩をこまめにとっての移動ができた。

道すがら大陸北に生息する動物や思った以上に増えていた人間達の観察もできた。

今はリンと二人で人の集落から離れた丘の上に架設したテントの中で、シロンとヨウの帰りを待っている。

私は勝手に管轄地に足を踏み入れる事はできないが二人はただの獣、立ち入ったとしても条約違反にはならないのでアトラの街を視察しに行ってもらっていた。

 母星を消滅させて火星の壊滅作戦を実行したのにもかかわらず地球の火星管理地に攻め込んで来ない理由は何だろう。

火星側が報復で戦いを挑まないのは団長指示が難民の受け入れ準備を最優先にしているからだ。

私の計り知れない惑星間を移動できる科学文明同しが地上で戦争するとなると、関係のない生物にも被害が出るだろうし地形すら変えてしまうかもしれないと思う。

グローズもそれを避けたいのだろうか?

膝の上で丸くなって昼寝しているリンの背中を撫でながら自分なりに銀星側の出方を予想するが、私の知識では流れ星を手掴みするに等しいと気付いて諦める。

難しい事はミムナに任せれば良いのだと何度目かの結論に至った。

 シロンとヨウの気配が旋風と一緒に近づきテントの前で実態を表す。

灰色の子犬が私の前でお座りすると人姿のヨウが隣にあぐら座になる。


「二人ともお疲れ様。 アトラの街の様子はどおだったかしら?」

「ナーム様これを」


労う私の言葉にヨウは膨らんだ革製の袋を差し出した。

受け取り縛った紐を解き中身を確認すると大量の大金貨が詰まっていた。


「あら、こんなにどうしたの? 悪徳越後屋の金蔵から盗んできたの?」

・悪徳越後屋って何だか知らないけど、賞金で手にした今のアトラで使っているお金だよ。 姉ちゃん今回何も用意してきてないだろ? あそこではこれが必要だって前に言ってたじゃないか

「そうだけど、半日しか経ってないのにこんなに沢山?」

「神狼が犬が走るだけの賭けレース?とやらに出て10回勝ちまして、調教師役の私がいただきました」

「その子犬姿で。 ドックレース・・・。 さぞ、観客は盛り上がったでしょうね・・・。 それで、街の様子はどおだったの?」

・匂いは相変わらずだったけど以前来た時より人は増えて街も大きくなってた。 男は皆同じ鎧を着てて腰に剣を挿していた。 闘技場も立派になってたし賭博場が何種類もあったな

「首と足に鉄の輪がついた人間が人間に鞭で打たれて使われていました。 見かけた動物は調教師が連れた者以外はネズミと肉と毛皮になった者ばかりでしたね。 草木の少ない痩せた土地に集まる人の気持ちがわかりません」


相変わらず暴力とお金が支配する街、今の私の感性では嫌悪感しか湧いてこない。

大きな街を見るのは初めてだったヨウの眉間には深いシワが刻まれている。

相当嫌な思いをしてきたのだろう。


「ヨウ、ここはトカゲの連中が育てた人間の街なの、ドキアの街とは全然違うから人間そのものを嫌わないでね」

「笑いながら同じ人間に鞭を入れ、笑いながら殺した動物の肉を喰らう連中を! 嫌うなと?」


怒気で紫に変わったオーラを抑える事なく膨らませ私を力強い眼差しで睨んでくる。


・善も悪も決めるのは己の魂だ。 だからこそ私はナーム様の側にいる。 それはナーム様の行いを善と感じているからだ。 お前はこれまで知らなかったアトラの光景を嫌悪し悪と感じた。 力無きものはその善を奪われてしまう姿を見て、そして知った。 地球は広い、この星の外にはもっと大きな世界もあるらしい。 知識を得て魂を成長させろ、そして見当違いな相手に怒気を向けるな。 己の幼さを知れ


シロンはヨウと視線を絡ませる事なくお座りしたままで淡々と言い聞かせる。

オーラは小さくなり険しかった視線も和らいだが眉間のシワは深いままだ。


「私もあんな街は嫌いよ。 何かに怯えながら生きなきゃいけない所。 いつも周りの視線を気にしなきゃいけない所なんかにはもう住みたくはないし地球にそんな街作って欲しくはないの。 だから何とかしたい・・・」


私の山上時代はアトラ程あからさまでは無かったが似たような社会だった。

17500年経っても強者が弱者を作り虐げる世は変わってない気がする。

人間が本来もつ性が成した故の秩序なのか、誰かに課せられた業による秩序なのかはわからないが、ドキアの人々はこことは違った穏やかな日々を送れている。

私がやるべきはあの未来に道をつなげる事だ。

アトラに懐かしさを感じたのは事実、山上の時代あれはアトラの社会構造が残った未来だ。

火星人と銀星人の間で戦いになっても火星が負けた結果なのか?

私の選ぶべき道はどっちだ?

地球全体がドキアみたいになればと考えていたが、それは私が知る山上の時代ではない。


・どうしちゃったんだ姉ちゃん? いきなり黙り込んでしまって?

「あ、ごめんいろいろ考え込んじゃった。 私は・・・、私はドキアが好き! 地球が全部あんなだったらいいって思ってる。 ・・・よし!」

・何が良いんだよ? 本当、訳わかんないよ・・・

「最終的には銀星のトカゲもアトラの社会構造も、ぶっ潰す! その前に、ブービートラップをぶっ壊す!」

・わかんないけど、最初の目標に変更なしだね? ヨウも大丈夫か? 感情を抑えきれずに一気にあの街ごと人間を消すとかはやめてくれよ?

「何それコワイ! ヨウはそんな事できちゃうの?」

「最大懸案事項排除が叶えば、苦しむ生物と苦しめる生物にやり直しの機会をこの爪で与えてやります」


横に広げた右腕の爪が瞬間で長剣の長さまで伸びて鈍い光を放つ。

私は慌てて両手を突き出して待ての仕草をする。


「すぐはダメよ! 信管壊してドキアに帰ってエルフ達みんなと話し合ってからね! 一人で戦争始めちゃダメよ!」

・姉ちゃんちょっと静かに!


シロンが後ろ足で立ち上がり丘の下の方を見る。

ヨウもゆっくり首をめぐらし同じ方向に視線を向ける。


「生臭い・・・魚の血の匂い・・・、ですかね」

・それと、懐かしい魂の腐った匂いもな

「何? 誰かこっちへ向かってきてるの?」


私には匂いは感じられなかったが数個の気配はわかった。

一つの影が丘をゆっくり登ってくる姿が見える。

背丈は子供だが逆光で縁取られた肌の色は緑でスパンコール状に光を反射させている。

すぐにリザードマンの子供だとわかった。


「神狼指示を!」

・出方を見る、こちらからは仕掛けるな!

「はっ!」

・後は団長役の姉ちゃんに任せる

「はへぇ? 私に?」


二人はその後無言で私の両側へと場所を変えた。

リンを起こすと面倒を起こしそうだったのでそのまま寝させておく、夜行性だから昼寝には根性があって大抵の事では目覚めないので大丈夫だろう。

近づいてくる人影は一つだが気配は3つ。

シロンとヨウに目配せしたら分かっているとばかりに頷いて見せた。


「これは、これは・・・こんな所で日向ぼっこですか? 空飛ぶ獣を見つけて付いてきたら火星の団長様に会えてしまうとは」


20m離れた場所で立ち止まるとリザードマンの子供が話しかけてくる。

全身が鱗の肌だが体型も顔の作りも人間の子供にかなり近い、私が知るワニに近い顔は成長の結果なのか種類が違うからなのか判断がつかなかった。


「良い天気ですからね。 草の上で昼寝するのは気持ちいいものなのよ。 あなたは私を知っている様だけど、どなたでしたっけ? お散歩途中のトカゲさん?」

「ミムナ・カリーマロス団長殿は元気でおられるか? 団長役の小娘?」


耳慣れない名前だったがミムナが地球で活動するときの呼び方だ。

私の事も承知しているらしく言葉に詰まった私を見てゲスな笑い方をしている。


「ミムナも私と同じで毎日日向ぼっこに忙しくしているわ。 明日あなたの所の親玉と会う約束してたのだけれど早く着きすぎて、ここで時間潰ししてただけよ。 今日の日没後にしか入れてくれないって言われたのだもの」


短い腕を胸の前で組み、地につかない長さの尻尾を左右に揺らす。

座ったままの私を舐め回して見た後何かを探してか視線だけ細かく動かした。


「今回は俺の腕と足、そして大事な尾を切り飛ばした剣は持ってきていないのか小娘?」


その言葉で脳裏に180年前のセトの浜で起きた光景が蘇る。

この子供リザードマンはあの時キョウコに魂の核を抜き取られた奴なのだと。

次は、夜のアトラ

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