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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの魂は仲間に甘い
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アトラへの計画



 獣妖怪は夜には滅法強かったみたいで、同行者決定後すぐに行動計画を練ることになった。

広場中央を陣取って光の水晶を囲みアトラへ向かう道順や所持品などについて話し合う。

ナームは再三子狸リンの同行を拒んだがヨウとシロンまでもが反対した。

理由は同行の決定がクッキーを食べた者のみの制約を設けなければ力ある妖怪達が全員シロンについてくるから、と言うものだった。

人の見た目に薄魂体を作れるのも二人を除く獣妖怪達の中でリンだけとあって、武力は低くても利用価値はあると二人はナームを説得する。

渋々ながらもナームは条件を出して許可した。

移動は飛行となる為洞窟のエルフから横笛のお礼にと貰った水晶を編み込んだストールで宙に浮けたら竹箒で引っ張ってもいいと言う内容になった。

当のリンは夜の森に仕事で出向いており今は不在だ。

通せんぼの仕事は終わったのだが、浜の人間の魂が山を登って来る様になって数匹の人間を怖がらない妖怪達が山を彷徨う人間の魂をエルフの洞窟に案内するようになっているらしい。

俺はナームの頬越しにただ成り行きを見守っていた。


・ジンそっちの具合はどうだ?

・ミムナか? とりあえずはセトに着いてシロンと会えたよ

・ほーぉ。 途中で捨てられて海の底で深海魚観察でもしてるかと思ったよ

・作戦成功だね。 ミムナが言ってた通り作り物の人格だとナームは思ってくれたよ。 ってか流石に考えなしに海へ捨てたりはしないだろ? 俺なら・・・してたか・・・?

・お前の状態はどうだ? 何か変化はあったか?

・俺もそうなんだが・・・。 思考パターンはほぼ一緒だが、性格の違いを感じてるよ。

・同じ意識が3日で別物になるか?

・俺はナームを外から見るのは初めてだが、おっさんの意識のはずなのに仕草も口調も女の子そのものに感じてミムナが言う通り魔法少女って感じ。 そんでもって俺はおっさんに戻った。 なんだか客観的に接して今では別人にしか感じられないんだよな

・そうか、元のお前も見た目に影響されやすい所が有ったから、長年の外見が魔法少女で板に着いてきたってところか。 グレーから溢れたジンジロGEのお前は無性を経由しての意識だから男性性が増したのかもな

・ミムナその・・・、俺の事をジンジロGEって呼び方はちょっと凹むんですけど・・・

・仕方あるまい? 言葉の通りなのだから

・でもイメージが・・・

・重複している記憶はDNAの断片に似ているのだ、掃除しても掃除しても床に落ちている螺旋状で細長い物は見た目で ジンジロGEそのものだろ? それが何故だか増殖して意識までもつ非常識さに比べたら呼び名は気にした物ではなかろ?

・俺は・・・、これからどうなるんだろうか?

・ナームが目覚めた瞬間に同期できなかったのだから、これから自然に元の魂に吸収される事は考えづらいな。 二人が同意すればナームの体に入れれるが二つの意識が共存する歪なものになるだろうな

・二重人格は嫌だ。 精神が病みそうな気がする・・・

・だろうな、私も進めんよ。 私の知識の中では根元である魂の無い意識を知るのは始めてだ

・俺には魂がない・・・

・そうだ、どんな意識にも根元の魂がある。 石にも植物にも虫にもな。 お前は溢れた既視感から生まれた・・・。 としか今は言えない。 面白い研究材料だ。

・研究材料・・・

・私が作れる体は魂の根源がないと機能しないんだ。 グレイですら魂あってこそ意識で操作できるからな。 ピピタちゃんだって私の魂の子供みたいなものなのだから。

・俺はこの水晶の中でずっと生きるって事なのか・・・

・今は忙しくて私も手が離せないが、落ち着いたら何か策がないか考えよう

・本当か?

・現状では何が出来るかわからん、期待はするな。 それで、そちらの予定はどおなる?

・・・・アトラへのルートはほぼ決まったよ。 日本を北上して北極経由で海を避け最短ルートで向かうらしい。 工程にして3日くらいかな?

・わかった、グローズからの連絡はまだだから許可なく奴らの管理地には近づくなとナームに伝えておいてくれ。 上陸せず湖の対岸で待っていろと

・了解ミムナ。 この秘匿回線はどこでも繋がるのか?

・地上に居る限りは大丈夫だと思う。 その為に幾つも衛星軌道に水晶を回してあるからな。 深い水の中と地中は無理だからそのつもりでいてくれ

・了解。 とりあえず俺とナームは最終目的が一緒だからナームの側で応援することにするよ。 そこで相談なんだが

・なんだね?

・音楽を奏でたい。 ピアノやギターやトランペットとか。 できないかな?

・応援するのに? 音楽?

・今俺が出来るのはそれくらいかな? 時空を隔てたこの地球で望郷の念を魔法少女に忘れて欲しくないんだ。 俺は不思議いっぱいのこの世界が楽しくて忘れそうになってたから

・元の世界へ帰りたいのか?

・道が有るのであれば繋げたい。 二人で話し合った結果だけど、これから魔女っ子は変わって忘れてしまうかもしれない

・そうか・・・時間の道を繋ぐか・・・。 こっちの記憶媒体にジンの領域を開けておくよ。 そこから音源にもアクセスできるようにしておく、色々と試してみると良い

・ありがと、ミムナ

・それじゃーな、報連相は忘れるなよ!


ミムナとの会話が終わった頃にナーム達の話し合いも一区切りつく。

朝日が森を照らし始めた頃仕事を終えたリンが帰ってきた。


「神狼様、今夜は三人案内したのだ」

「そうかリン。 案内ご苦労。 少し休むと良い」


子狸姿のリンが報告を終えるとシロンの前でへたり込んだ。

ナームが徐に立ち上がり腰に巻いた薄ピンク色のストールを手にしてリンに近づくと、両前足に襷掛けする要領で背中に蝶々結びし仁王立ちになる。


「リンちゃんこれで飛べるかしら?」

「ナー姉ちゃんいくらなんでも帰ってきたばかりで流石に疲れてるから、もちょっと待ってあげたら?」

「ダメ! 時間がないし疲れたからって空から落ちちゃったら怪我しちゃうでしょ?」

「ナームなんだこれ?」

「あんたが空を飛ぶ為の・・・、秘密兵器!」

「秘密? 兵器? これ付けるとリンも飛べるのか?」


ゆっくりと立ち上がると嬉しいのか尻尾がビンっと空を向く。


「リンよ無理するで・・・」


タスキが肥えた体に食い込んでリンの4本の足が地面から離れる。


「うぉ〜! 足が! 足が!」


ジタバタ四足を動かし暴れるリンの体がゆっくり宙に浮く。

肩を落とすナームの前でシロンとヨウが目を丸くして驚いていた。

これでリンの同行は決定してしまった。


「ナー姉ちゃんひとつ聞いてもいいかな?」

「・・・なぁ〜にぃ〜」


やる気のないナームの返事を意に返さず


「ナー姉ちゃんが色んな力が使えるのは何でだと思ってる?」

「私がエルフだからでしょ?」

「光の剣を使ったり、掌から水晶出したりとかは?」

「何言ってるのシロン? わかんないけど、魔法少女なら出来て当然でしょ?」

「・・・あぁ、そうなんだ。 ・・・俺ちょっと考えすぎてた・・・感じ・・・」


目を細め妙な物を見る視線をナームに向けて、腰の高さまで浮かんだリンの背中を押して地面へ下ろしてやる。

ヨウは視線を遠くの雲に向け物思いにふっけっているようだ。


「何当然のこと聞いてんのよ! さぁ、少し休んだら三人の食事調達してきなさい。 すぐに出発するんだから」

「はいよ!」


ヨウがリンを小脇に抱えると朝日の当たらないピラミッドの影の方へと3つの影は消えていった。

俺はシロンの言っている意味がよくわかった気がした。

思いそして信じる事が現実化してしまう能力。

引き寄せとか自己実現とか。

ナームは自分の容姿で想像できる事は全て出来ると信じ込んでしまっている。

その力が現実化もする。

俺自身今だからこそわかるが、不思議な世界に来たのだから不思議な事が起きても当たり前だと思っていた。

シロンはそれが当たり前でないと言いたかったのだ。

多分ナームは不思議を不思議には感じていないんだ。

であれば、今は俺も水晶の中の意識だけど信じる力で不思議能力を使いこなせるようになるのかもしれない。

俺はマッドサイエンティストのミムナが明言する程に非常識な存在なのだから。




 ナームは温まった石段に腰掛けてドングリをひとつ口にすると水晶の水で一気に飲み込む。

横になって帽子を日除けに顔にかぶせた。


「ジン聴いてる?」

「聴いてますよ、何ですかナーム」

「この人選で上手くいくかしら?」

「やるしかないでしょ? 俺も知恵を出しますし、ミムナの知恵もかりましょう」

「そうよね、みんなを守って信管壊して、無事に帰らなきゃね。 少し眠るわね」

「おやすみなさいナーム」


少し休んだシロンとヨウがナームに近づき寝ているのを確認すると無言で立ち去っていく。

旅の食糧調達に出掛けるのだろう。

森に入る前にこちらに振り返ったヨウと俺の視線が合った気がしたが気のせいだろう。

次は、東北の温泉

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