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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの魂は仲間に甘い
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獣妖怪広場



 「・・・そんなぁ〜♪ いざ〜かやでぇ〜♪」

 「・・・そんなぁ〜♪ いざ〜かやでぇ〜♪」


 懐かしい演歌のデュエットをジンとハモりながら歌っているとなんか楽しい。

男性パートと女性パートで知ってる唄を何曲も歌って一人で飛ぶ暇な時間を過ごせた。

ミムナが私の鈴役に同行させているジンは私の記憶を元にしているAIだ。

当面の行動計画を相談した時は思考パターンが同じで回答が出ない堂々巡りとなったが最終的にジンは一歩引いてくれた。

外的要因に対しては情報が不足し過ぎな現状、憶測で決めつけ行動する事は私の目的にそぐわないと結論が出た。

ジンと会話して見つけた目的。

それは山上の世界に私の魂の道をつなげる事。

火星の長老もミムナも時間軸は山上の世界にはつながっていると言っていたが、それは細い一本の道。

実感も想像もつかないが世界は無限の数存在する不確定な多重世界らしい。

”タイムパラドックス”の解決にはその答えが正しそうだが、それだとナームの体で目覚めた瞬間にここは元の世界の過去とは違う時間軸となって未来には山上が存在しない可能性も含んでいる。

ジンとの問答の結果出た答えは”出発時間への帰着”。

小さくない心残りを見定めたい。

私の知らなかったこんな途方もない危機を孕んだ地球、山上が去った先に何が起こるのか知りたいし、私を捨てていった元妻のもとにいる二人の子供のことも気がかりだ。

自ら日光三猿を決め込み閉じこもっていた私が求めるのはおこがましいが、あの先の未来が知りたい。

この時代に迫った生物生存の危機を乗り越えて得たい未来はそれに尽きた。

”あの時間に帰る”

ドキアを出発して3日が過ぎ自問自答?の結果答えを得た後は、思い出の歌をジンと歌って過ごした。

間も無く太古の日本に到着する。

朝日を受けて輝く海原に浮かぶ小さな噴煙を上げる山を過ぎるとセトの村が見えてきた。

前回訪れてからは30日ぐらいしか経過していないので際立った変化はない。

洞窟のエルフ達はミムナの指示を受けて忙しくしていたので、挨拶だけして獣妖怪達の広場を目指した。



 綺麗に掃除された小さなピラミッド前の広場には今回も誰の姿もなかった。

人間の生活と違って家を持たない獣達は己の縄張りにある巣で生活してるのだろう。

身を寄せ合い生活する弱い人間とは根本的にスタイルは違って当然かな。


「おはよ〜、誰かいるぅ? おぉ〜い!」


返事も気配も感じなかったのでピラミッドの一番下の石段に腰掛けて少し休むことにした。

以前ヨウとの立ち合いで砕けた石は修復されていて新しい物に変わっている。

木々に囲まれた広場、木立が風に揺れ木漏れ日が地面で揺れている。

ドキアのエルフの里を思い出す。

田舎の実家にあった庭の景色が思い出される。

ここが将来の日本になるのだと思うと不思議と心が暖かくなり眠気で瞼が重くなってきた。


「ナーム! 起きろナーム!」


ジンの声で眠りから呼び起こされて瞼を開けた。


「ナーム様お久しぶりです」


目の前には使節団の時の姿のシロンが立っていた。

思わず駆け寄り勢いよく抱きつく。


「シロン! シロン! やっと会えたシロン!」

「どうしたんだ? ナー姉ちゃん?」


腕の中で動揺する腹筋がアタフタと身をよじるが力を込めてそれを黙らせる。


「ごめんね! ごめんね! あの時間に合わなくてごめんね! 無事に連れて帰るって約束守れなくて」

「・・・俺が弱かっただけだよ、ナーム様が謝ることなんかないよ。 みんなの静止を無視して戦いを挑んだのは俺だし、俺こそあいつに負けちゃってみんなに謝らなきゃ」


シロンのお腹に埋まった顔と腰に巻きつけた腕をゆっくり離し懐かしい魂の匂いとの距離を開けると無性に苛立たしさが湧き上がる。

自然と右肘が後ろに振りかぶられ渾身の拳が放たれた。


「あんたねぇ、目が覚めたのなら何ですぐに連絡よこさなかったのよ!」

「いきなり抱きついてきたと思ったらグゥーで殴るとか・・・、痛いじゃないか!」


数歩後ろへ弾かれたシロンは平然とした顔でお腹を掌でさすっている。

手加減なしの私の一撃をゼロ距離で喰らって立っていたのはこっちがびっくりだ。


「180年間の姉としての思いよ! ホント心配してたんだから!」


シロンは笑みを浮かべてゆっくり近寄ってくると目の前で片膝をつき首を垂れる。


「俺が眠ってた時に来てくれた話はヨウから聞いてるよ、それからそんなに時間が経ってないけど、夜空に異変が起きてまた探しに来たって事は急用って事だよな?」

「夜空の異変?」

「10日前から光の線がいく筋も流れ始めた。 理由はそこにある、そうでしょナーム様?」

「以前と同じ呼び方にしなさい。 周りには誰もいないのだから!」

「もうみんな集まってるよ・・・」


周囲に視線を向けるとさっきまでは居なかったはずの獣妖怪達の集団に取り囲まれているのがわかった。


「あら・・・コッホン! 皆さんコンニチハ〜! 久しぶりねぇ〜!」


気づかなかったのをごまかすつもりで軽く挨拶して手をふる。

ジンのため息が聞こえたが無視して作り笑いをしていると、白狐がシロンの後ろで頭を下げる。


・ナーム様がこの度来られた用件をお聞かせ願います


どうせ近未来の話は日本の皆に知ってもらうつもりだったので集まってくれていて好都合だ。

現状説明を取り急ぎとも思ったが断片的な情報は判断を誤らせる可能性がある。


「すみません、話が長くなってもいいかしら? 私が知って話せる内容を全て・・・知っておいて貰いたいのだけれども?」

「時間は気にしなくても構いませんよナーム様。 知識こそ己の魂の血肉なのですから。 ナーム様の時間が許すかぎり、我ら獣妖怪に話して聞かせてください。 必ず己が糧にいたします」


シロンの体が薄く透けて見えたかと思うと小さな灰色の子犬になる。

お墓で見つけた迷子になっていた子犬の姿だと気付いた。

白狐を睨むと視線を逸らし横を向く。

あの時こいつら二人で私達を騙してたのだと直感したが、大勢の獣達がいるこの場で問い正すのは都合が悪かろうとやめておくことにする。

後でとっちめてやる!


 地球が土で出来た玉で宇宙に浮かんでいることから太陽系の話をする。

風の魂を使い急ごしらえの数個の水晶玉を獣達の頭上に浮かせ模型も使って説明した。

火星人と銀星人の地球侵略とそれに伴う流星と大洪水など、私が未来から来た事とここへくる時に決めた最終目的そして高次元の存在以外の情報を話し終えた頃には辺りは夕日に包まれていた。


「それでは、これから質問を受け付けます。 わからなかった事があったら手を挙げてください」


ヨウの尻尾がゆっくりと持ち上がり伏せていた姿勢から上体を起こす。


・ナーム様の言葉から嘘偽りを感じ取れませんでしたから、地球の生命が置かれた状況は理解しましたが、強者が弱者の上に立つのは生物の真理。 聞く限りには侵略者双方とも今の地球に生まれている生命との力の差は歴然で抗えないと考えますが?

「ヨウの言いたい事はわかりました。 強大な力と数の暴力に今の地球の生命では太刀打ちできないと私も思います。 ただ、それに備えれる時間があれば手立ては有ると思っています」

・月が地球の空を回るまでの間ですか?

「その通りです。 4600年後に地球衛星軌道に到着後行われると予想されるトカゲ侵略本隊到着までの時間が長いか短いかは私も分かりませんが準備時間にしたいのです」

・その為にもう一度あのアトラへ行って何だかを壊したいと?


シロンが首筋を後ろ足で退屈そうに掻きながら聞いてくる。


「シロンは・・・、反対なのですか・・・?」

・ナー姉ちゃんが迎えに来たのなら俺の答えは決まってるよ。 ついてくよ!

「ありがと〜シロン! じゃこれ食べて!」


腰にぶら下げてたテパ特性のサンドクッキーを前足に乗せられた鼻の前に置いた。

子犬の姿で美味しそうに食べる姿に「黍団子サンドだから、これで決まり!」とジンが呟いた。


・ならば私めにもその食べ物下さいナーム様


白狐がシロンの隣へ並び前足の上に顎を乗せる。


・ヨウよ、お前はこの地の守護が役目だ同行は認めん

・神狼の命でも今回ばかりは異を唱えます。 他を知り己を知る。 他の地の強き者を知る機会逃すわけにはまいりません。 東と西の大猿で人同士の戦ならば相手を蹴散らすのは造作もありません。 是非

・ナームこれうまいぞ! もっとよこせ!


二人の成り行きに意識が取られていたら、いつの間にか子狸が足元でクリームサンドクッキーを喰らっていた。


「こら! リン! 勝手に喰うなテパの大事な黍団子サンドクッキーだぞ!」


手に持つ袋を高く上げてリンを足で蹴飛ばし遠ざけると風切り音がして袋の底から残りのクッキーがこぼれ落ちる。

地に落ちる前に一陣の風が通り過ぎると頬をクッキーいっぱいに膨らませて咀嚼する白狐の姿があった。


「こらぁ! ヨウ! 全部食うな! 味見もしないで我慢してたんだぞ! 私に一枚残せ!」


俊足で狐の口をこじ開けたが私が食べれる原型は留めていなくその場にへたり込んでしまった。


・全く・・・。 それではこの3匹がナーム様の同行者で決定だな・・・

「何それ? リンも連れてく気か」

・仕方ありませんね。 クッキーとやらを食べてしまったのですから

次は、アトラへの計画

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