さぁ冒険の始まりだ!
拙い文章と内容にお付き合いいただきありがとうございます。
ここまでが世界観となり これからは第2幕 になると思います。
これからも読んでくださる方の暇つぶしにでもなればと不定期更新していきます。
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「何でこんなにジンジロGEが落ちてるんだ?」
白衣姿のミムナが端末に向かって呟いた。
視線を向けると目が覚めたばかりで視界がぼやけているが、ミムナの声は明瞭に耳に届く。
幼女姿で発していい単語ではない。
老婆心ながらの苦言を言おうとしたが、なぜか俺の体は動かない。
身体の感触はある。
指はあるし足もある。
全身に意識を向けても身体があるのは実感できるのに何一つ動かせない。
宇宙旅行に使ったグレーの体から元の魂が篭ったナームの体に表層意識を戻すだけの、火星の技術にしてみれば簡単な作業だったはずだ。
何か緊急事態が発生したのか?
イレギュラーの発生か?
こめかみに汗が流れる感覚を感じる。
「非常識な魂だと知っててはいても、こうも私の知識の外にいるとは・・・。 全く手間ばかりかけおって!」
タイピングする手が忙しく作業を開始し数分経過して椅子から飛び降り俺の方へ向かって歩いてくる。
全身に熱を感じる。
低周波のブザーが後頭部で鳴り出す。
・ミムナぁぁ! 俺はどうなったのだ? このまま死んじゃうのかぁぁ!
近寄って来たミムナが俺を覗き込んだ。
「何でこうなる?」
小さな手が俺の顔に伸びて俺をつまむ。
はへ? 小さな手の親指と人差し指で俺は摘まれた?
右側に巨大な親指の指紋がくっきり、左側には巨大な人差し指の指紋がはっきり見える。
「お前・・・。 もしかして意識があるのか?」
眼前に巨大なミムナの緑の眼球が近づいて覗き込まれる。
・ミムナ近い近い!
「ナームか?」
・当たり前ですミムナ! 私どうなっちゃんですか? 体が言う事きかないんです!
「ったく・・・。 非常識な・・・。 ちょっと待ってろ・・・」
二本の指はそのままでその他の世界がグルングルンと景色を変える。
振り回されている感覚に目眩がして吐き気をもよおす。
コツンと硬いものがぶつかる音が鳴り回っていた世界が停止して両側の巨大な指紋も俺から離れていった。
目の前に水晶玉が見える。
大きな水晶玉だ。
その上にミムナの顔も見えた。
「わかるか? 今のお前の姿だ」
正面のミムナが答えたが声は後ろから聞こえた。
振り返るとミムナの姿が見える。
恐る恐る前を見る。
水晶玉とミムナの姿が見える。
・鏡・・・
「この忙しい時に・・・。 普通に着替えもできんとは・・・」
・あ、あの・・・。 失敗したとか・・・?
「何を寝言を言ってるか、失敗なんぞするものか! 私を誰だと思っておる! お前はもうナームの体に戻っておるわ! 今のお前は・・・着替えの途中でこぼれたジンジロGEの毛玉・・・みたいな物だ」
・何それ? ジンジロGE? 毛玉?
「意識をナームに戻す作業の時に記憶の整理が実行されて不要な既視感は圧縮整理されて保管用の水晶に入れるんだが・・・。 意味がわかるか? ・・・お前の知識で言えば記憶媒体のデフラグ? で重複不要記憶がゴミ箱に移動した、ってところか?」
山上時代PCはWin3.1から使っている。
言ってる内容は分かるが俺がこの水晶玉に閉じ込められてる理由にはなっていない。
空中に浮いた端末を操作するミムナは左右に首を傾げて
「やっぱり意識レベルの改変は実行されていないし複製も履歴の中には残っていないな・・・」
・私はどうなっちゃうの・・・
「どうもこうも・・・、そのまま・・・、かな?」
・えぇえぇエェえぇ! 一生このまんまですか? 手も足も無い水晶玉ですかぁ?
ミムナの手が近づきまた俺は摘まれて運ばれる。
全裸のナームの姿が見えて右耳にはめられた金細工の網の中に俺は入れられた。
「ナームに戻ったお前が目覚めれば同期して一つに戻れる可能性は・・・ある。 が!」
・が?
「その他の要素が考えられる」
・その他の?
「ナームが目覚めてから本人に直接きかねば明言できんが・・・。 お前ニビの空間のあの瞬間何処かへ行かなかったか?」
・拉致されてました!
「・・・そうか・・・、その時間で何かされてた場合はお前はここから二人に分かれて元には戻れんよ。 よかったな双子の兄弟ができて」
嘲るような笑みで軽く言われて苛立ちが湧き上がる。
・いい訳ないじゃ無いですか! 何とかしてくださいよ! 助けてくださいヨォ!
「現状では何も出来ん目覚めるまではそのまま我慢していろ。 今回はそんなに時間はかからずにナームは目覚めるだろうから。 ほら迎えがきたぞ。 変な状態がバレると後が面倒だからこれからは言葉も念も外に漏らすなよ! 目が覚めたらすぐに執務室に来い、詳しい話を聞こう」
シャナウが薄手の部屋着で入室してくるのが見えた。
手にしたシーツをベッドで寝ているナームの体に優しくかけて包むと胸の前に抱えた。
「姉様柔らかいお布団で寝ましょうねぇ。 ミムナいつもの客室へ姉様連れて行きますよ」
「あぁ、そうしてやれ。 ”一人”で目覚める事を願ってるよ」
「私が一緒にいちゃダメなんですか?」
「あ、違う。 シャナウは付き添ってやれ、その方が”自分の力”で穏やかに目が覚めるだろうからな」
俺はナームの耳にぶら下げられたまま”雲落ちの巨人”の所でいつも使っている客間に運ばれた。
外はまだ夜なのかカーテンが閉められ薄明かりが灯る部屋のベッドへ寝かされる。
ナームの可愛い頬を見上げて戻れ! 戻れ! 何度も水晶の中で呟いた。
次は、うるさい俺!




