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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの意識は星を渡る
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ミムナの部屋にて



 会議が開かれた街からかなり離れた場所にミムナの屋敷があった。

屋敷とは便宜上の表現だが街に建っていた巨大なトウモロコシ型のビルが一棟広大な平原に建っていて、その全てがミムナの管理するものなのだそうだ。

俺とシャナウはピピタちゃんと一緒にニルヴァーで移動したが、ミムナは一人で巨大な木の葉に乗って空を飛んでた。

ここでは俺の地球での常識は通用しそうも無かったので、ただ火星はこんな面白惑星だと思うしか無かった。

中腹のポートに到着してミムナに案内された応接室の窓から見える景色は、背の低い草が敷き詰められた平野だけ。

ここへ辿り着く為の地上の道もなく、動物も人の影も見あたらない。


・綺麗な景色だけど・・・、なんか寂しいとこだね


俺の呟きにシャナウは隣で頷きだけ返し、しばらくの間二人で外を眺めていた。

入室者の気配を感じ振り返ると軍服から普段着に着替えたミムナだった。

セトのエルフの装いとほぼ同じらしく長い布を両肩から垂らし腰紐で結んだ簡素な物。

無言でソファーに腰をかけて綺麗な足を組む。


・あのぉ、私達はどうしたらよろしいでしょうか、王女殿下? 

「呼び名はミムナで結構! 王女は研究で得た称賛の結果押しつけられた役割りでしかない自由に過ごせばいい。 座ったらどうだ?」


ぶっきらぼうに言い放ち「パチン」と指を鳴らすと木製のテーブルから緑の蔓が伸びてクネクネと器用にお茶の準備を始める。

シャナウに運ばれて向かいのソファーに座って不思議な装置が給仕するのを眺めていた。


「細かい事は聞くなよナーム。 山上の時代になっても引力も生命も解明できていない文明では話ても理解不能だし時間の無駄だからな」

・火星は素朴で不思議世界とだけ覚えておきます

「それが懸命だ、お前は考えなければいけない近々の事が山ほどあるのだ、優先順位を間違えない事だな」

・はい、そうします


ミムナは飲み物を一口嚥下し瞼を閉じると腕組みして難しい表情になる。

考え事を邪魔したく無かったので俺はシャナウを会話相手にこそこそ話を始めた。


道中外の景色に気を取れれていた俺だったがシャナウはニルヴァーから情報収集していたらしい。

火星は植物と巨人が共存関係にある星で、この屋敷も植物が成長して自らが巨人が住める形になるらしい。

知能は高く無いが簡単な命令を理解して給仕ぐらいはこなしてくれる。

種を増やし繁栄する為に巨人の力を借りて耕された新地に植えてもらい根を張り成長する。

ミムナが乗って飛んでた巨大な木の葉も共存過程でお互いが長距離の移動を協力し合う為に使われる物。

火星人は動物を食物としないベジタリアンで活動エネルギーは水溶性の糖質と皮膚からの太陽光吸収で行っているらしい、なんともエコで、なんとも長閑。

今いる屋敷はミムナが遥か昔の幼少期から住んでいるところで、研究所が下層に設けられていて様々な素材開発と運用形態が発明され惑星間移動まで出来る基礎を構築したのだそうだ。

ミムナが起こした技術革新で文明は飛躍的に進歩したが、反発者も多く王の役を与えられた後に未開地地球の観察者の任を与えられたのが2万年前。

ミムナが得た称賛を越す保守派と革新派が納得する人材が現れない為、火星の民衆は分裂したまま王を変える事もできず、王を王宮に住まわせる事もできない歪な星の意思決定が長期化している。

ミムナが本国の話をする時に素っ気なかったのはそんな事情があったのか。

エルフの里と同じく火星でもまだ子供の姿を見かけていない。

長生きすると言う事はやはり種の保存の為の子作りは軽視されるのかもしれない。

それが男女の区別は火星では重要では無いとミムナが言った原因なのかと俺は勝手に想像した。

地球の生物達は長いきしないから小作りに勤しみ、より良き子を残す為に男は男と競争し、女は女と競争して、男女が駆け引きしているのかな?

思えばそれに集中している時間が膨大過ぎて、人間としての進歩や成長の枷になってる?

エルフのナームとしてドキアの人々を長年見て過ごしたが文化の成長は著しく思えた。

記憶の継承で構築された安定した子育て環境があり、個人の時間も十分に確保されている気がする。

他の地域は自分が生きる事が優先事項の最上位で、次に子供を残す事の様に俺の目に映った。

人間として生まれ数々の疑問にぶつかり、一つ一つ解き明かしていったとしても生涯を終えた後に忘れてしまっては振り出しに戻るだけか・・・。

そういえばさっきの長老達が話していた『永劫回帰』からの脱出に人生ゲ○ムが役立ったとかなんとか言ってたな。

先人の知恵とかなんとか。

口伝、紀伝、映伝も前世の記憶がない山上の人生でも情報は周りに沢山あったんだ。

俺はそれに気づかず取り入れる事もしなかっただけか・・・。


・ハッハッハ、ハァーァ

・どうされました姉様?

・いやね、昔の自分の情けなさに今更気づいて自分を笑ってた

「昔などいいから・・・、これから起こる事への対処法を考えなさいナーム!」

・はい、すみません。 でも、非力なこの今の私では力になる事が思い浮かばないのですが・・・


被ったシーツの端を握りしめてミムナを見返すが瞼を閉じたままミムナは口にする。


「無い物をねだる癖は治ってないのか? ある物を使う知恵はどこかへ捨ててきたのか? お前の目の前には火星の王がいて、守護の武勇に長けた『黒柱』が隣にいて銀河一の速さを誇るニルヴァーを操るピピタちゃんがポートでお昼寝をしている。 地球と火星の為にお前の知恵で成したい事は思い浮かばないのか?」


そうだ、一人じゃ無かったんだ・・・。


・地球も火星も守りたい! ・・・けど、案はあるのかと聞かれれば、無い!

「だろうな。 それで? 少しは意識に陽が差した感じだが?」

・火星観光がしたい。 それで何かいい考えが・・・浮かぶかも・・・。 ミムナは地球にいつ出発するの?


ミムナはまだ瞼を閉じたままだが口角は少し上向きに和らいだ感じがする。

隣のシャナウは観光の一言でウキウキオーラを放っている。


「第二派が来る前にはこの体も地下深くに休ませなければならない。 最長で145日は火星には残れるが、地球のグローズの動きも気になる。 長居はしないで向こうで同胞の魂の受け入れ準備もしなければならない」

・それなら地球時間で一週間ピピタちゃんを貸してもらっていい? 火星を知りたいから

「飛行許可の申請は出しておくとしよう」

・ありがとうミムナ!


ソファーの上で勢いよく立ち上がり頭を下げたら頭が重過ぎて逆さまの状態で床へ向かって落ちてしまった。

激突する前に誰かに抱えられて元の位置に戻されたので、シャナウにお礼を言おうとしたらシーツの穴から緑の蔓が離れていくのが見えた。


・ミムナのお屋敷さんありがとう


お礼の言葉と一緒にソファーの木製の肘掛を撫でてやった。




 飛行許可が出てからピピタちゃんにお願いして火星観光を始めた。

簡単なニルヴァーの操縦方法も教えてもらったので自分の操縦で火星を何周もした。

時には海面スレスレに飛んで、時には宇宙空間へ飛び出してといろんな景色を堪能した。

そこで感じたのは火星は陸と海の対比が7対3で俺の知る地球とちょうど反対。

重力はナームが暮らす地球よりも若干少なく感じる。

ドキアにあるエルフの樹海より巨大な木々が生えていて森には巨大昆虫の姿もあった。

富士山を遥かに越す巨大な山の裾野には地下都市建設の巨人とそれを手伝う植物の姿もあった。

ニルの説明で火星人の人口は常に調整されていて約2億人との事だった。

なかなか見かけなかったが子供の姿も数名は街中で見つけたが、もちろんナームの体より大きな子供だった。

無邪気な子供に捕まると面倒だったので近寄りはしない。

地球人サイズにできているニルヴァーは火星人の大人が近づけば地球人と普通自動車のサイズ感火星人の子供がバットで殴ってきたら壊されてしまいそうだ。

もちろん周知された飛行許可のおかげで王女殿下に同行して来星した予言者ナーム搭乗機ともあって、逆にこちらから近づくと火星人に逃げられる場面が何度もあった。

ともかく、それなりの収穫もあって気が付いた点をメモして、ニルのシュミレーションで検証しつつ俺の今後の行動をミムナに相談することにした。

ちなみに人面岩とピラミッドは実際に存在していたのには俺もビックリした。

ミムナに存在理由を聞いて更に驚嘆することになった。

次は、流星爆弾

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