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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの意識は星を渡る
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火星人1



 初めて見た火星の都市は巨大な茶色の林。

想像していた超科学の機械的な都市でもなければ不思議暴力全開のクリスタルの都でもなかった。

どちらかといえば、艶消しで素木な印象だった。

建物自体は高層なのか窓がたくさんあって、ぱっと見は全て50階以上はありそうだ。

ニルヴァーは高度を下げて建物を縫うように飛行し、一つの一際大きい建物中腹のポートに着陸する。


・ここが我が母星の意思決定機関の老人ホーム『ひだまり』だ


扉が開いて出口に向かうミムナが振り返らずついて来いと手招きする。

老人ホームって・・・。 ミムナはこの場所は好きではなさそうだ。

ふと跡を追って歩き出す俺の目の前が真っ白で見えなくなった。


・姉様、外ではこれ着てくださいね


シャナウの声が耳元で聞こえピピタちゃんが被っていたお化け変身シーツなのだと思った。


・これってなんか意味あるの? この体見られちゃまずいの?

・日焼け防止です。 その体は太陽熱の吸収効率がいいので大気中だと高温になりやすいんです。


なんだ、お化けごっこのおふざけでピピタちゃんが被ってたと思ってたけどそんな理由があったんだ、と内心シーツお化けを馬鹿にしていた自分の浅はかさを反省する。

目の穴の位置を自分で調節して出口に向かったが、頭と体のバランスが悪いのか非常に歩きづらい。

さりげなくシャナウが手を貸してくれたので仲良く手を繋いで外へ出た。


「防衛支援頂きありがとうございます団長!」

・私の職務範囲だ気にするでないラーラス・・・副司令、だったか?

「ハッ! 本国帰投後防衛団副司令に着任しております!」

・私の出迎えに副司令か? 高待遇なのか嫌われてるのか・・・まぁ、好かれてはいないからな。 私は着替える、茶会には遅れると伝えてくれ。 あと、この二人を待合室まで案内してくれ


くるぶしまで隠れる長さの紺色の外套を着込んだ、いかにも軍人風貌の巨人がミムナの後ろに隠れる俺達を一瞥する。


「『黒柱』とドールをですか? 『ひだまり』の入場許可は申請されてますかな団長?」

・シャナウとナームだ。 話は通してある。 二人とも後でな!


ミムナは言い残すと早足で建物の中へと一人入っていった。

残された俺達はラーラスの巨体を見上げその場に佇む。


「本国まで来るとは・・・。 この厄介者め!」


俺の目線はラーラスの弁慶の泣き所。

神速の拳を一発入れてやりたかったが、この体では腕が折れそうだったので断念する。

嫌悪をあらわにする視線からシャナウは俺を庇う位置どりをしてくれる。


・副司令、言葉がすぎます!

「優秀なシャナウよ、お前には見えないのかこの野蛮で粗暴な魂の性根が? 安穏なエルフの里の暮らしのせいで眼が曇ったか?」

・副司令! ミムナ団長の指示完遂を要求します


返事もせずに呆れたそぶりで背を向けて指だけで「ついて来い!」と合図する。

シーツの中で盛大に”あっかんべぇ〜”をしてやる。

本当に初見からあいつとは相性が合う気が一切しない。

大股で先行く巨人を見失わないように小走りで付いて行った。


 廊下は火星人が3人並んで歩ける広大な空間だ。

幅はバスケットのゴール間はあり天井は体育館の2倍以上はありそうだ。

材質は石材でも金属でもなく柔らかく暖かみのある木材に思えた。

俺の歩みの速度を一切気にしないラーラスとの距離が開いた為、途中から『黒柱』に抱えられて目的地まで運ばれた。

6万人の観客が入るサッカースタジアムみたいな広さの空間に到着すると、中央の花壇脇のベンチに案内し「チョロチョロするな!」と言い残しラーラスは姿を消した。

全てが巨人サイズの為、座面は今の俺が手を伸ばしても届かない。

シャナウも腕組みして不満をあらわにしていたが、俺を再度抱き上げると跳躍して座面へ飛び乗る。

童話に出てくる巨人の島にワクワクした思い出はあったが、実際は小人は不便な生活を強いられそうだ。

コソ泥の小人の女の子の話もあったが周囲は危険だらけだったなと懐かしく思う。

室内の壁にあたるところに数カ所受付らしいのがあり巨人達が列をなし仕分けられ奥の扉へ入っていく。

服装は全員がラーラスと同じ軍人らしい長い外套を着ていて違いは色の濃淡だけ。

第一波の対処後とあってか皆慌ただしく動いていた。

岸壁に座って遠くの海を眺めるみたいに会話なくしばらく足をブラブラさせていると数人の巨人がすぐ前を通り過ぎて歩みを止める。


「小人だ、小人がいるぞ・・・」

「小さな鎧だな? どこの部隊だ?」


シャナウの体格差で5倍、俺だと10倍、二人が戻ってきて俺たちの前へしゃがみ込む。

馬鹿でかい男の顔が近づいてきてキモいし怖い。

俺がシャナウの握る手に少し力を入れると安心しろと握り返してくれる。

俺の手を放したシャナウはベンチに立ち上がり腕を腰に添え胸を張る。


・私達は地球からの客人としてここに招かれている、部隊名は無い!


シャナウは堂々と答える。


「地球から・・・?」

「おい、こいつちっこい割りに黒だぜ? 『黒柱』のつもりか? 遊びのつもりでも鎧に『四柱』の色使っちゃダメでしょ? それにこのハンカチ被ったのドールだろ、入っていいところじゃ無いぞここは」


一人は顎に手をかけて考え込んでいるが、もう一人はちゃかす気満々だ。

『黒柱』表面の艶が増したと思ったら全身の筋肉部分を覆うスリットが膨らみシャナウの闘気が滲み出る。

俺をつまみ出したいのか伸ばした右手が爆音と共に大きく後ろに吹き飛んだ。

『黒柱』は以前一度見せた身の丈もある盾を構えて宙に浮き戦闘態勢だ。

ナームの体であれば色々対応できるのだろうが、今の体は不思議能力を何一つ使えない。

まともに歩けもしないのだ、肩を竦めて成り行きを見守るしかなかった。


「なんだちび鎧! やんのか?」


激痛だったのか歪めた顔に目だけギラつかせ『黒柱』を睨む。


「客人である! 手出しは無用だ!」


一歩も引かないシャナウに外套の袖をまくった男に隣の巨人が慌てて止めに入る。


「おいこら、こんなところで揉め事起こすな! こいつら地球から来たんだぞ?」

「だからなんだよ? 10万年遅れの動物園の星だろ!」

「カラーナ・ミ・ムナの保護区だ、バカ!」

「私がどうしたか?」


俺達が背にした花壇の方から声がした。

中腰で俺たちの相手をしていた二人が顔だけを上げ声の主に視線を向けて、秒で直立不動の姿勢になった。

俺はシーツの穴の位置をずらして後ろを振り返る。

光沢のあるライトグレーのマントと同色の軍服姿の長身の女性の姿があった。

巨人だから長身は当然だが、眼前の二人の巨人男性より背が高い。

鞘が床に届きそうな装飾過多な長剣を腰にさし、ボキアを凛々しくした感じの超美形。

胸はナームと同じぐらいだ。


「カラーナ様・・・、このような場所に来ら・・・?・・・!!。 し、失礼しました!」


二人は足早に受付の列へと駆けて行った。

超美人の軍人は俺達の前へ来て見下ろしてため息ひとつ付く。


「待合室まで案内しろとは言ったが、こんな所で待たせるとは・・・。 嫌われてるのかナーム?」

「ミ・ム・ナ?」

「どう見ても私だろ? 誰だと思ったのだ?」


分かるわけなかろう! 火星は男女の区別がないとか、強くて偉いとか、ラーラスを顎で使うのだから姫だと言っても火星の体はゴリラみたいなおっさんかと思ってたぞ!

心に浮かんだ叫び声が漏れないように最新の注意を払って我慢する。

俺の心を見透かした不敵な笑みを浮かべて


「私達は遅刻組だ、あちらから入る、ついて来い!」


颯爽と歩く巨人サイズのミムナの背中を追いかけ飛ぶシャナウに抱えられて広大な広さの待合室を後にした。

次は、火星人2

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