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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの意識は星を渡る
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火星の防衛戦2



 火星を映し出していた壁に四角く区切られた線が現れて音もなくスライドする。

2体の鎧はゆっくり移動して開いたドアからワンボックスカーに乗り込む気軽さで狭い船室に入ってきた。


・良かったぁー姉様、目覚めたんですね!


シャナウとミムナが俺の元へと歩み寄る。

待て待て待て! 外は真空の無重力だ! エアーロック無しで入ってくるとか非常識すぎるだろ!


・お前らそんなとこから入ってきて空気無くなっちゃうだろ!

・空気ですか?

・そんなもん最初からないよナーム。 まだ寝ぼけてるのか?


俺は口をパクパクさせながら空気を求めたが・・・、呼吸はできなかった・・・が、苦しくはなかった。

シャナウの黒い鎧が目の前にしゃがみ俺を抱きしめた。

身長差は以前より多くなったのでお母さんに抱きしめられる小学生低学年のグレーの図。

ミムナは俺が寝ていたベッドに腰掛けて武器らしい禍々しい棒を杖状にして俺を見ていた。

ドアが開いて急減圧が起これば霧に包まれるが無かった、それに外へ吸い出される感じもしなかった。

違和感が半端ない。

俺はシャナウを押し戻しミムナに近づく。

金色の鎧は鱗状の表面で縁が銀色に輝くセンザンコウの様にしなやかに見える。

関節部には鋭い突起が何本も生えていて俺の接近を拒んでいるようだ。


・時間は? 俺への説明の時間はあるかミムナ? この体の理由を聞かせろ!


ミムナの前で小躍りして見せる。


・第一波流星群の脅威は過ぎたから時間の余裕はできたが、少々疲れているのだ・・・、休ませてはくれまいか?

・何を言ってるミムナ! 俺のこの格好を見ろ! グレーだぞ! 宇宙人だぞ!


掌を広げ迫る俺を押し返して黄金のカブトがうなだれる。


・お前が必要なのはまずは現状の情報だろ? 口で語るのは面倒だ、ニルヴァーから受けとれ。 ピピタちゃん頼む・・・。

・姉様こっちこっち、落ち着いてここ座って。


シャナウに抱えられてさっきまでの席に座らせられた。

暴れて文句を言おうとも思ったがミムナの言は正論だ、俺にないのは情報だ。

外の景色は緑一色に変わって火星の大地が近づく中ピピタちゃんが歩み寄り俺の額に何かを貼り付けた。


・黙る、うるさい、122点のナーム!

・なんだよピピタちゃん、さっきから点数ばっかり。 ピピタちゃんは何点なんだよ?


額に熱を感じ始めるとぼんやりどこかの映像が脳裏に浮かんでくる。


・ミムナ、823777点。 シャナ、704676点。 ニルヴァー、523881点。 ナーム、122点。 ビリ、キャハハハハ!


途方もない数字を聞かされ意味を理解し始めた頃、莫大な情報が流れ込んできた。

 まずは船の諸元が脳内を駆け巡る。

全長23m、運用乗員1、定員10・動力・最大出力・速度・武装・積載などなど、最後に有機生物不可とあった。

って事はこの体は俺が考える生物ではないわけだ。

次に映像が執務室を出た後のミムナと俺の景色に変わり着替え室に入っていく。

俺がケースに入って眠ると横の端末を操作するミムナがいきなり両手で頭を掻き毟る。

しばらく動かなかったがまた端末をいじり出し操作が終わると、近くの壁際まで進んで引き出しからグレーの身体をつまみ出し白の鎧を蹴っ飛ばしてグレーを寝かせると配線を付け直していく。

一通り終わったのか額の汗を手の甲で拭うと視線がこちらを向いた。

人差し指がクイックイッっと動くとミムナの姿が大きくなる。


「全く面倒なやつだ。 後でどうして? って聞くだろうからこれでも見て理解につとめるんだな!」


人差し指を俺に刺し睨んで見せてからミムナは忙しく作業を開始した。

映像は早送りされながら誰かの声が説明を始める。

俺が理解した内容はこんな感じだ。



 着替えとは魂と意識両方を別の体へ移す作業で高純度の水晶がその器になる。

俺はナームの体に魂が強固に固着していて移せたのは意識の表層だけだったようだ。

地球における第一戦戦闘力の4柱の鎧は魂と意識が行動原理に組まれているので俺では着こなせ無かった。

唯一着れるのはパイロット専用素体であるグレーだった。

宇宙空間を移動する火星の船は生物の生存を維持する機構を備えていない為エルフの姿では同行は無理だったので、俺の望みをかなえる苦肉の策だったようだ。

通常は着替えて魂と意識が宿る身体が消滅しても関連づけられた身体が存在すればすぐに戻られるので人間の死に相当する事象は発生しない。

しかし俺の場合ナームの生命活動停止は人間の死と同等の作用を生じさせるらしい。

意識の表層を移すだけであればグレーの体が蒸発しても次に目覚めるのはナームの体。

なんとも手のかかる魂なのかとナレーターは嘆く。

そもそも星の重力を振り切って宇宙空間に進出するのに生身の体にこだわって歩みを遅くする理由が分からないとナレーターの男の声が気安く俺に告げる。

惑星は内在する元素が偏る傾向があるため閉鎖的な進歩を余儀なくされるが、他の星の元素を取り入れ更なる進化発展の為であっても重力に縛られる肉体を離れられない幼稚さは救い難い、とまで付け加える。

人工衛星はバンバン打ち上げるのに有人飛行は気軽に行えない。

生命維持装置は重要で重量、何重もの安全装置を備え帰還専用船まで必要だ。

人を乗せて往還できる船もあったが必要とされるエネルギーは実績に見合っていたとは言えない。

宇宙区間で写真を撮って実験するだけなら人間が直接行く必要は無い。

『肉体を捨てよ!』 

オンデマンドなナレーターは何処かの教祖か? と思わせる口調で語りかけてくる。

俺が心の中で「そこにあるのはロマン!」と呟くと鼻で笑われた気がした・・・。

 脳内映像は空中に浮かぶ銀色の板に寝かされたグレーが『黒柱』に付き添われて卵形のニルヴァーに運び込まれ地表を後にした。

瞬時に光速に近づいた船は7分で火星に到着して防衛団と調整が必要なミムナを宇宙空間に放出した。

銀星政府から火星政府に強制移住の一方通行の通信があり惑星全域が臨戦態勢になる。

火星においても宇宙空間で行動できる戦力には限りがる為、地下退避案と地上応戦案が急遽練られて総動員で作業が開始された。

それから90日経過し流星群帯第一波に火星が突っ込んで、3日間続いた排除作戦が先ほど終了したのだそうだ。

ナレーターは面倒くさそうに流星群が地球に及ぼす影響は生命の滅亡危機無しとだけ付け加えた。

 額のシールは映像が終わると熱さは無くなり自然に剥がれて俺の膝へ落ちる。

ゆっくりとそれをつまみテーブルの上へ乗せた。

俺は火星に来てミムナの故郷のために何かしたいと思っていたのだが、この体ではエルフの不思議な力は使えないし武器を持って宇宙空間で戦うことも出来ない。


・ただの傍観者じゃ無いか・・・。

・それで良いでは無いか? 数個の星の運命を左右する瞬間を観察できる機会は又とあるまい?

・そんなひと事みたいに。 それよりミムナの母星はこれから大丈夫なのか?


30分程休憩して生気が戻ったミムナは腰に手を当て胸を張って答える。


・成る様に成る!

・そんなんでいいのか? 確かこの星の姫でマッドサイエンティストで地球の団長だろ?

・個人の力では大局は動かせん。 それが真理。

・今後の展開予想はあるのか? リザードマンと肉弾戦の予定とか?

・シャナウ傍観者の楽しみを奪うかも知れんが今後の予測について説明してやれ。

・はいじゃぁ次はこれ!


シャナウは俺の額に別なシールを貼り付けた。

次は、火星の防衛戦3


皆さん拙い文章のこの作品に目を通して下さってありがとうございます。目下、作品の世界観完成とストーリ完結に向けて投稿をしています。 暇がありましたら又目を通して頂けると嬉しいです。 ブックマークと評価も頂けると励みになります。 今後ともよろしくお願いします   作者より

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