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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの意識は星を渡る
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火星の防衛戦1



 あぁ・・・、また暗い空間。

深い夢から覚める感覚・・・。

自分はどこで寝ていたのだろうか?


 ゆっくりと意識が鮮明になっていく中、記憶が蘇ってくる。

急遽呼び戻された”雲落ちの巨人”の所でミムナから火星の危機を聞かされて同行をせがんだ。

ミムナに案内されるまま着替えの部屋へ行って、ガラスケースに入った裸のシャナウを見つけた。

その傍らには『黒柱』が器具に繋がれ寝かされていた。

近くに同じ状態の金と銀と白色の全身鎧が寝かされていて、言われるままに白の鎧の近くにあったガラスケースに服をひん剥かれて入れられた。

そしてすぐに眠くなったんだった。

深い眠りから目覚めたあの時は240年たってたし、シャナウの着替えは180年かかった。

もしかしてこの目覚めも途方に暮れるくらい長い眠りからの目覚めなのでは? 焦りの心が湧き上がり一気に覚醒する。

目に飛び込んできたのは銀色の天井。

少し痛みを感じた首を横にすると椅子に座るシーツをかぶった人影があった。

室内は6畳程の広さで天井も壁も楕円のドーム形状だった。

ここはピピタちゃんが操縦する火星の船の中なのか?俺は操縦席の後ろ側の壁に接するベッドで眠っていたらしい。


・ナーム、おきた


何の感情もないピピタちゃんの声と一緒に、俺の全身を固定していたベルトが解放される。

まだぼやける焦点を頭を振りながら調節してベッドから降りて部屋にいる唯一の知人に近寄った。


・ピピタちゃんここはどこ?

・ニルヴァーの中。 ピピタのお船


『樹皇』を運んでいた火星の船の名前はニルヴァーと言うらしい。

壁から迫り出したテーブルを忙しく叩くシーツお化けの両目の穴が俺を捉えて「キャハッ!」と笑い声?を出す。


・そこ座る、ナーム。 おなじ!


左手が指し示した床がせり上がり椅子の形に変形する。

言われるままに腰掛けるとシートベルトが自動で体を支えてくれた。


・ミムナは何処にいるんだいピピタちゃん?

・見るか? ナーム。 ミムナとシャナはお外


まだ船外で出発の準備でもしているのか? 俺はいつでも目覚めるのは遅いらしい。

何か手伝える事があったら手を貸してやらねばと肘掛に手をかけて立ち上がろうとすると、ベルトは音もなく体から離れた。

そこで気がついてしまった。

肘掛に置かれた俺の手の指は3本だった・・・。

錆び付いたブリキ人形みたいに首をめぐらしピピタちゃんを見ると、また目が合った。


・キャハ、おなじ!


恐る恐る手を伸ばしピピタちゃんのシーツに手を掛けてゆっくり上に上げるとそこには”グレー”が座ってた。

強烈な拒否反応か目眩が襲い椅子に力なく座り直すとまたベルトが自動で巻きつく。

何かの操作が終わっただろうピピタちゃんの手が止まると眼前の銀色の壁がいきなり消えて黒く変わった。

身におきた変化を受け入れたく無かったが、右手も左手もか細い灰色の皮膚でピピタちゃんと同じ。

動かした感覚も触った感覚も自分の体のそれ、俺はてっきり『白柱』で目覚めるものと思っていたのに”グレー”の体で目覚めるとは・・・。


・ミムナ、あれ!


ピピタちゃんが長い指先で示す方向を見ると、黒く変わった壁に光の筋が流れた。

悪い予感が背筋を走り狭い室内を見渡した。

全面が黒に変色しただけと思っていた壁は外の景色を映し出していた。

ニルヴァーは宇宙に浮かんでいたのだ。

斜め右に大きい緑色の球体が浮かんでいて、後ろには小さく輝く球体。

火星と太陽なのだと直感する。

前方で流れた光の筋は何かの乗り物が太陽の光を反射しているようだ。

眼前の宇宙空間で幾つも行き交うその光は、時折光の霧を発生させると鋭角に進路を変えてまた光の霧を発生させる。

何かと戦っているのだろう。

未だに受け入たくない現実と俺は戦いながら誰かにこの状況を説明して欲しくてシャナウを探した。

幾つも飛び交う光の筋は俺には判別できない。


・シャ、シャナウは今何処に?


ピピタちゃんがテーブルを数回叩くと白い輪が二つ現れ文字が表示される。

その表示は俺の目では追いきれない速さで左右上下に動き回り、次々と光の霧を発生させていく。

その光景を見ながら自分の心境を分析する。

今の俺は冷静か?

一度死んでエルフの少女で目覚めたが、若々しい生命力が漲るあの体はおっさんの俺にとっては罪悪感が半端なかったがとても気に入っていた。

まさか、こんな宇宙人の基本みたいな姿になってしまうとは・・・。

今の俺を理解したくても情報がなさすぎる、会話が成立しにくいピピタちゃん相手では現状把握を誤りかねない。

確かミムナは落ち着くまで質問は無しだとか言っていた。

待つしかない、まってミムナに会って、問い質さねばこの湧き上がる怒りは抑えられない!

問題を理解し怒りを理解した俺は自分を正常だと判断することにした。

外の景色に小さな赤い輪が表示され次第に大きさを増す。

太く大きくなって迫ってくる円の中心に光る何かがあった。

ピピタちゃんの操作が忙しくなってなお迫りくる物は岩の塊だった。

距離感もなく比較するものもない空間で大きさは実感できないが小さな山ほどは有るのではと思わせた。

眼前にいっぱいの岩石が迫って唐突に止まる。

代わりに岩以外の光の点が画面奥へと流れ始める。


・速度、相対合わせた、ナームそれおす!


俺の前のテーブルに小さな赤い点が現れる。

思考を放棄している俺は言われるまま指を伸ばして触れた。

秒で目の前の岩が無くなり霧のような粉になる。


・まだ一点、使えないナーム、キャハハッ!


少しムッとした。

何故だかピピタちゃんに言われると、無性に腹が立ってくる。

横目で睨んでやるとまた目が合った。


・キャハハハ、ナームがおんなじ!


仲間ができたと思っているのか、無表情な顔が何故か楽しそうに見えた。

もしかして今まで一人で寂しかったのかもしれない。

大きな頭とアーモンド型の瞬きしない目に不釣り合いな小さな口。

可愛さなんかは微塵も感じないが、ミムナに合って問い詰めるまでは相手してやる他は無さそうだ。

周囲の景色はさっきと同じになった。

ここが定位置なのだろう。

察するに火星に落ちそうな銀星の破片をこの位置で迎撃するのがニルヴァーの役目らしい。

又しても目の前に赤い小さな丸が表示され同様に切迫してくる。

今度初回ほど近づく前に赤い点が目の前に表示されたので、言われる前に押してやった。


・まだ二点、使えないナーム、キャハハッ!


その後何度も現れる赤い点を押すだけの俺の仕事が始まって、点数は100点を超える頃、金色の鎧と黒い鎧が迫ってくるのが見えた。

次は、火星の防衛戦2

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