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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの体は友を探す
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新しい展開



 夜も深まった時間だったが洞窟のエルフのまとめ役の二人が対応してくれて報告は短時間で済んだ。

人間と獣妖怪達が共存するにはまだ長い時間が必要だろうが、見守り役としてのこの地のエルフの懸念事項が一つ減ると、いつも無表情な二人に小さい笑みが見えた。

休み所での泊まりを勧められたが船での一件を伝え『樹皇』に戻った。

 明るく照らされた甲板に降り立つとシャナウが駆け寄ってくる。


「さぁ、姉様帰りましょ!」

「はへぇ? 帰るの? なんで急に?」

「ミムナが帰って来いって連絡して来ました」


イヤリングの水晶玉を人差し指で揺らしながら答える。


「こんなにドキアと離れてても連絡取れるの?」

「わかんないですけど、帰って来いって・・・」


相変わらず説明不足のわがままお姫様だ。

旅の主目的だったシロンの動向確認は済んだが、せっかく古代日本に来たのだもっとゆっくりしていきたかった。

自分の生まれ故郷の東北の現状も確認しておきたかったが、自由を保証している俺を帰投させなければならない何らかの事態が起こったのかも知れない。

未だ甲板の隅で剣を眺めてぶつくさ呟いているツヒトを剣をあげるからと追い出し操舵席に座る。

港口を出てナビモニターを起動させると進行方向沖に赤い光点があった。

夜闇の海上を進むと海面が光っているのがわかる。

記憶の中で使節団出発後の川を降った光景が思い出された。


「ピピタちゃんなのかな?」

「あの時と同じ光ですね・・・、トカゲの連中じゃ無いと思います」


シャナウの直感に任せて前回同様光の上で船を止めると、4本の柱が現れて固定された。

黒い柱の扉から懐かしいシーツを被った人影が現れる。

それまで船首で成り行きを見ていたサラが踵を返して船倉に潜り込む。

重量配分に煩い操舵師の意を察した素早い行動に感心してしまう。

周囲を観察しながらスタスタと操舵席に座る俺の所に歩み寄って来て手だけで「よけろ!」と合図する。

席を譲ってやりながら以前と変わらず会話が成立しそうに無いピピタちゃんをジト目で睨んでやる。


「ピピタちゃん久しぶりね。 こんなとこまで迎えにくるなんてなんかあったの?」

「ナーム遅い! ドキア行く、しゅっこ!」



ピピタちゃんが席に座るなり船は海面を離れ西に向かって空中を飛行し始めた。

少しの間理由を尋ねたが返事を何一つ返さない操舵師に呆れた俺とシャナウは後ろの席のベンチに腰を下ろした。


「何があったんだろうね?」

「そうですね、さっきからミムナに連絡取ろうとしてるんですけど、なかなか繋がらないんです」

「しっかしこの飛び方、前はこんなに早くなかったよね?」


使節団で『樹皇』の飛行は経験してるが今回は異質だった。

風を全く感じないのだ。

飛行船とプロペラ機の中間ぐらいの速度で飛んでた前回は心地よい風を感じられたが、無風の船上の空はプラネタリュウムの時間調節みたいに星が位置を変えるのが速い。

飛び始めて1時間もしないうちに暗い空が白み始め地平線が判別できる明るさになって来た。

沈んだ夕日を追いかけて追いついた? のだろうと感じた。

操舵席のナビを見ているともう間も無くドキアの樹海に到着しそうだ。

距離と時間を頭の中で計算してみたら、俺の記憶の最速戦闘機を越して大陸間弾道ミサイル並み。

前回の世界一周はピピタちゃんからしてみたら遊覧飛行だった様だ。

って事は今回本領発揮した理由は・・・。

悪寒が背中に走り冷たい汗が首筋を流れる。

いろいろな最悪な状況を想像しているうちに、流れる景色がゆっくりとなって目的地だろう”雲落ちの巨人”の洞窟が見えて来た。

森に着陸するなり「ナーム、シャナウ、ミムナ待ってる!」シーツの端から手だけを出して「行け!」と合図された。

日没間もない空を見てため息一つ、船倉から俺達を心配そうに見つめるサラに小さく手を振ってからシャナウに合図し、待っていると言うミムナの元へと向かった。



 シャナウに先導されてミムナの執務室に入ると目に飛び込んできたのは巨大なラーラスの姿だった。

俺の姿を一瞥して嫌な顔をしたラーラスにベロを出して挨拶してやる。


「二人ともすまなかった。 ちょいと急ぎでな!」


部屋の隅からミムナの声が聞こえ、ラーラスの巨体をかわし近づくと壁一面のモニターを見るミムナの後ろ姿があった。


「いきなり何用ですかミムナ? 日本の美味しいお魚もっと食べれるかと思ってたのに・・・」

「情勢が急変したのだ。 そうむくれるな」

「アトラのグローズが攻めて来たんですか?」

「いや違う、これを見ろ」


俺たちに背を向けたままでミムナは端末を操作した。

壁一面に分割されていたいくつもの風景映像が消えて黒くなる。

中央に小さな白く丸いものが映ったかと思ったら放射状に広がり球状の霧の様になった。


「何なんですこれ?」

「銀星の今から10時間前の記録映像だよ」

「星が消えた?」

「奴らがやりおったのだ、非常識な奴らが!」


怒気を含んでいるが声音は穏やかだ。

後ろで巨体を忙しく動かし何か作業をしているラーラスが団長を呼ぶ。


「何だラーラス本国に新しい動きはあったのか?」

「はっ! 依然銀星の政府と連絡は取れずと報告が来ました。 あと・・・」

「何だ?」

「その人間・・・に、話しても宜しかったのですか?」

「・・・早かれ遅かれナームにも対応してもらわねばならん、私の一存でこの事は進める。 処罰したければ後ですれば良い。 本国が無事に乗り越えられればだがな」


今見せられた映像はレベルの高い情報なのだろう。

それを咎めるラーラスを軽くあしらって話すミムナの最後の言葉は穏便なものではなかった。


「えっ! 火星が危ないんですか? 宣戦布告されたんですか?」

「まぁいわゆるそんな所だけど、宣戦布告などそんな馬鹿な真似をする奴は宇宙にはおらんぞ?」

「そんな、卑怯な!」

「お前は殴り合いをする時にいちいち「最初にグゥーで右頬狙います」なんて相手に言うのか?」

「い、いや。 殴り合いする前に・・・、お互いの戦う意志の確認は・・・」

「相手を根絶やしにする計画で行動している連中にそんな甘っちょろい奴はおらんよ」

「でも・・・」

「お主だって昨日警告もなしに船ごと盗賊を消しただろ?」

「見てたんですか?」

「さっきシャナウの意識を読んだ。 大も小もなく目的達成の為に取る行動は全て正義だ」


回転椅子をゆっくり回しこちらに向き直ったミムナの顔は真剣そのものだ。


「勝てば官軍。 歴史は勝者が作る・・・、ですか」

「まずは急を要する内容を片付けさせてもらう。 シャナウ、『黒柱』に着替えて待機だ!」

「はい!」


ミムナの言葉に即座に返事を返したシャナウは「それじゃ姉様」と挨拶を残し退出していく。


「ラーラスは各地に『灰柱』の起動を許可した後に先行して本国へ向かえ。 お前の親父さんが防衛戦力に使うから返してくれと再三の要望をねじ込んできている。 煩くて敵わんからこの地の任から現時刻をもって解任。 団長命令だ!」

「保護地地球観察団 副団長解任承諾しました。 各地の『灰柱』起動許可後直ちに本国へ帰投し防衛団指令のもとで本国防衛の任にあたります」


即座に行動を開始したラーラスも慌ただしく部屋を後にする。

ミムナの命令で二人がいなくなり圧迫感を感じていた執務室が広さを増した。


「ナームは・・・。好きにしてればいい・・・」

「えっ? 私はやる事はないんですか?」

「特にない」

「ないって・・・。 火星はミムナの故郷でしょ? エルフの故郷みたいなもんでしょ? 私だって・・・」

「お前はエルフの体でも地球人だよ。 火星の危機に付き合う必要はなかろ?」

「でも、火星にもしもの事があってパワーバランスが崩れたら、アトラにいるリザードマン達を抑えられなくなっちゃうんじゃないですか? それだと里のエルフ達も見守って来た人間達にも危険が及ぶんじゃないですか? 私にも何か手伝わせてください!」


テーブルの上に肘をついてその上に顎をのせ、真剣な瞳が俺を射抜く。

数秒の間が開いた後、妙案が浮かんだのか片方の眉が上がる。


「本国の防衛計画は進行中だ。  現在で私の行動は2時間遅れているので細かい説明はこれ以上している時間はない。 一緒に行動したいと言うなら今後落ち着くまで質問はなしだ。 良いか?」

「ありがとうミムナ団長!」


火星の敬礼なんて知らないので返事と一緒に姿勢を正し軽く頭を下げる。


「ならば着替える、ついてこいナーム!」


勢いよく立ち上がって大股で部屋を出ていくミムナの後を俺は追うのであった。

次は、火星の防衛戦1

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